23 足音 【23-6】


【23-6】


『柴橋商店街』



昔からの家が残っているため、道路を広げて行くのも時間がかかり、

より早く開発されたのは、電車の分線が延びたさらに奧の『梶木原』だった。

今では大きな店舗が進出し、人の流れや経済の規模は、

『柴橋』よりも『梶木原』の方が上になっている。

伊吹は、『沼田クリーニング』が終わってしまうことを感じながら、

『柴橋商店街』のこの先がどうなるのか、そんなことも考えていた。



『森嶋』



以前、スーツを汚してしまった風を乗せ、送ってきた場所。

何も用事はないはずなのに、過去を考えていた中で、ふと立ち寄ってしまった。

8年前、父と店、家族、そして商店街のことを考え、

自分と風の気持ちを無情に切り捨てたのに、

結局、父の仕事のことを、伊吹は守ることが出来なくなる。



『時間は止まらないな』



ハザードランプをつけ、車を停めていた伊吹は、近藤の言葉を思い返しながら、

あらためてエンジンをかけ、森嶋家の前から離れていった。





「次の日曜日だね」

「うん」


その日の夜、仕事を終えた昴は、道佳と待ち合わせをして食事を進めていた。

家族同士で顔を合わせるのは、森嶋家がよく使うこの店に決まり、

今日は挨拶を兼ねて、二人で利用することになる。


「お父さん、拗ねていない?」

「ううん、さすがに覚悟を決めているみたい。お母さんにも散々言われているし」

「お母さんに、何を?」

「いい? 余計なことを言って、道佳に恥をかかせないで……って」


道佳はナイフとフォークを動かしながら、笑顔になる。


「大丈夫だよ、そんなこと」


昴は、いつものびのびしている完太が、小さくなったら『らしくない』と思い、

思わず笑ってしまう。


「で、どうなの? 沼田さんへの不信感は解消された?」


道佳は『ここのところずっと気にしていたでしょう』と昴を見る。


「不信感だなんて言った?」

「そうは言わないけれど、そういう感じはしたよ、ずっと気にしていたでしょう。
おかしい、おかしいって」


道佳の言葉に、昴は『まぁ……』と言葉を濁す。


「まだブツブツ?」

「いや、ブツブツ……というか、うん。
気にしているから気になるのかもしれないけれど……」


道佳は『何、昴の考えは?』とナイフとフォークを動かしながら尋ねた。

昴も同じように肉を切っていたが、その手を止める。


「結論から言うと、沼田さんと風は、もっと前から知りあいなのではないかと思っている」

「あぁ……結局その考えに行き着く訳ね」

「うん」


昴は、頷きながら切り分けた肉を口に入れる。

道佳も同じようにハンバーグを一口食べた。


「金曜日、沼田さんが最後になる予定だったのに、お父さんが入院して、
急遽仕事がキャンセルになったんだ」

「エ……クリーニングのお店をしている?」


道佳はナイフとフォークの動きを止めて、そう尋ねた。


「うん」


昴は『入院したらしい』と情報を付け加える。


「どんな状態?」

「どんなって……いや、そこまでは……」


昴が首を傾げたことで、

道佳は『そうよね、知らないよね』と自分の質問が間違っていたと考える。


「うちの仕事は終わっているし、
沼田さんには、書類を渡すだけだからいつでもいいのだけれど。
風に、お父さんのことを話したら、ものすごく驚いていて」

「うん……」

「あいつ、前にハプニングでスーツを汚してさ、
それを沼田さんのお父さんに、急遽綺麗にしてもらったらしいんだ。
その話を聞いていたのはいたけれど、そこまで驚くかな……と」


昴はそういうと、『沼田さんが風に渡した資料のレベルも気になるし……』とつぶやき、

道佳から視線を外す。


「昴、私がものすごくいい方法を教えてあげる」


道佳はそういうと、右手の人差し指を1本立てる。


「何……」

「それは、聞くこと」

「聞く?」

「そう。こうして解決出来ない人があれこれ言ってもしょうがないの。
風さんにハッキリと聞けばいいと思う。昴の疑問をそのままぶつけてみたらいいのよ。
二人は知りあい? って」


道佳はそういうと、また一口分食べ、何度か噛んでいく。


「知りあいって、あいつに?」

「そうよ、気になるのだから聞くしかない。
ただし、風さんの気持ちを聞くのだとしたら、昴も話さないとダメよ」


道佳は『兄妹で腹を割って話す』と昴に言う。


「腹……」

「そう。前から思っていたの。昴の家族、まぁ、森嶋家?
みんなで本当に、心に思うことを語り合ったことがあるのかなと」


道佳はそう言った後、『ごめんね、生意気に聞こえるかもしれないけれど……』と、

少し表情を変える。


「いや、いいよ……話して」

「うん。前にお母さんもそうだって言っていたでしょう。
風さんと直接話しにくいことを、昴に頼んでみたり、
昴もまた、私に色々話してくるけれど、『真実』は出ないのよ。本人ではないから……」


昴は道佳の話を聞きながら、

以前、自分が恭一に『風と話をして欲しい』と頼んだことを思い出す。


「うちは私が一人っ子でしょう。両親に対して、色々と話してきた。
今も、仕事で一緒だから、とにかく色々話をして、
コミュニケーションを取っているつもり」


道佳の話しに、昴は確かにそうだと思い頷いた。


【23-7】



コメント、拍手、ランクポチなど、みなさんの参加をお待ちしてます。 (*´∇`)ノ ヨロシクネ~♪

コメント

非公開コメント