24 巡り合わせ 【24-1】


【24-1】


「お前に、『太陽みたいに眩しいって』言われたことがあっただろ、
あれ、実は結構ショックだった」


昴の言葉に、風はすぐに表情を変え、『ごめん』と謝った。

『カリポリ』にいた伊吹と美緒のことを聞いたことから、苛立って出た台詞だとはいえ、

昴に八つ当たりをしていたことは間違いない。

父に期待されるのも、仲間から信用されるのも、昴が努力をしているからだと言うことは、

一緒に仕事をして、風自身が一番感じていた。


「あれは……」

「いや、自分自身、心のどこかにあったと思う。
妙な自信というか、なんだろう優越感というか……」


昴は『悪く言えばずるさかもしれない』と言い、風を見る。


「大学で道佳と出会って、将来を一緒にと思っていたけれど、
最初、あいつには断られた。『Breath』の社長の息子というのは、
自分にとって大きな壁だと……」


昴は当時のことを思い出し、自分たちのしてきたことが間違いないと言う意味で、

小さく頷く。


「そう言われて、道佳に大丈夫だと言って説得した。
何がというわけではないけれど、お父さんが何を言っても、
最終的には自分を通せるという自信があった。
仕事を頑張って、周りから認められれば、ある意味、それを武器に、
お父さんを説得できるって……。それはきっと、お前の言った、
『太陽のような存在』という意味を、自分自身がどこかで感じてきたからだと思う」

「お兄ちゃん……」

「『勝てる自信』があった」


昴は、『父さんが何を言ってきても、自分が意思を通せる自信があった』とそう言った。


風にとって、初めて聞く昴の本音だった。

自分が跡取りとして求められている、期待されている、

だからこそ強く出られるという、努力の上にある自信。


「小さい頃から親が何を考えているのか、どうして欲しいのか聞いてきたから、
認めてもらうための近道も、成長する中で自然とわかっていたのだと思う。
その分、お前とお父さんの会話は減っていく。
娘という立場に、親からの圧力がかかっていることも、
どこかで気付いていたのかもしれない。
お前も自由だ、自分と同じだ、思っていることは言えばいいと言いながらも、
自分の存在を越えないことがわかっていて、そう……」


『戦略的』なところは、いつも自分ではなく風に向けられていた。

『女性だから』という意味で学校を親が選び、『嫁ぐから』という理由で、

相手の条件も、裏で親が決めようとしている。


「百合子おばちゃんから聞いたことがあった。風のこと」

「私のこと?」

「うん。学校帰りに川端家に寄って、泊まってきたりして。
お母さんもお父さんも、自分たちより風が百合子おばちゃんを頼っていることは
わかっていたけれど、当時は助かるくらいに思っていて……」


風は百合子が生きていた頃、家に帰るより、

川端家に行けることの方が嬉しかった気持ちを思い出す。

森嶋家では付属のような存在でも、川端家に行けば違う。

百合子はいつも『風を主役』にしてくれた。


「風……お前、沼田さんから、仕事のデータをもらっただろう」

「うん……」

「お前の再提出した資料からヒントを得たからって……、あれ、見たけれど」

「それがどうかした?」


風は、素直に聞き返す。


「あれはレベルがものすごく高いものだ。正直、お金に換えられるくらい、
データもまとめ方もしっかりしている。本来なら、お前に渡さずに、
沼田さんが営業部に持ち込めば、そこから新しい仕事が生まれる……」


昴の言葉に、風は黙って頷いた。

風は、昴の言葉を聞きながら、何もかもがわかるわけではないけれど、

伊吹が寄こしたものを使い、あれだけ周りに認められたのだから、

『お金に換えられるもの』と言われ、確かにそうだろうなと考えていく。


「どうしてお前にそれを渡したのかと、ずっと気になっていて」

「うん」

「何か沼田さんにメリットがあるかと考えたけれど、何もないし。
だから、どこかに裏があるのではないかと、そんなこともあれこれ考えた。
うちの本社が出来る時、あの商店街と何かあって、沼田さんが『Breath』に恨みをとか、
でも、全然、結びつかない」


風は頷きながら、昴の言葉を聞いた。

知らない人からしてみたら、当然不思議に思うだろうと考える。


「その話を道佳にしたら、ごちゃごちゃ考えるより、風に聞くしかないとそう言われた。
その代わり、心配だからとか、仕事のことだとか、上っ面な言葉は並べるなと」


風はまだ会ったことがない道佳が、

『自分の思い』に少し気付いてくれている気がして、『そうなんだ』と返事をする。


「お前が、家族に心を開かないのは……こっちも本気で話していないからと……
そう思って……」


昴の真剣な眼差しに、風は初めて言葉が気持ちとして届いたと思えた。

昴に対する焼き餅や、憧れなどの思いも、今なら語れる気がしてくる。


「沼田さんの行動は、結びつかないと思うよ」


風はそう話す。

昴は『わかっているのか』と問いかけ、風は黙って頷いた。


「彼があれだけ手のかかる資料をくれたのは、私が……
『自分には何もない』ってそう言ったから」

「何もない?」

「うん」


風はそう言った時の、伊吹の辛そうな表情を思い出す。


「お兄ちゃんみたいに、周りに期待されているわけではないし、
人を好きになろうとしても、うまくいかなくて、私、沼田さんに向かって叫んだの。
『私には何もない』って。何をしてもうまくいかない、理解してもらえないって……。
沼田さんは、そんなことはない『何もないことはない』って、必死に言ってくれて。
私を前向きにしようとしてくれた。だからあの資料をくれたのだと思う」


風は昴に話をしながら、昔のことも、そして再会してからの伊吹の態度、

困った時の顔、嫌みも全て受け入れていく時の顔、そして、車で昔のように、

自分の問いかけに答えてくれた時の顔などを、順番に思い出していく。


「お前達……この仕事よりも前に、互いを知っていたのか」


昴はそういうと風を見る。


「どうしてそう思うの?」

「風が仕事を頑張って、杉田部長に褒められただろ。それを知ったお父さんが、
お前を褒めた。その話を沼田さんにした時、
『お父さんに褒められたのなら、よかった』って、そういう言葉を言ったから……」



『お父さんは、お兄ちゃんと『Breath』があればいいの』



伊吹が、自分が語った寂しさの話を覚えていたのだと、

会話を知った風の目から、じわりと涙が浮かび始める。


「風……」


風の目から、まっすぐに涙がこぼれ落ちた。


【24-2】



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