24 巡り合わせ 【24-2】


【24-2】


風は、ベッドの横から立ち上がり、昴に背を向けると、

カーテンを開けて『三国川』の街の灯りを見る。


「覚えていたんだ……」



『ねぇ、どっちがいい?』

『急に何だよ』

『私と……ほら、あそこで草を食べているヤギと、ねぇ、どっちがいい?』

『は? 子供みたいだな、風』

『みたいでもなんでもいいでしょう。ねぇ、どっちがいいのか言って……』



『風……』

『……もう一度言って』



『風がいい』



風は『好きだった……』と、初めて伊吹のことを昴に語った。



『好きだった』



昴は多少、頭の中で考えていたことだったが、

風から語られた言葉が、あまりにもストレートだったので黙ってしまう。


「そう……私は伊吹を知っていた。当然彼も私を知っている。
私が大学1年の学園祭で知り合って、いつもお父さんのこととか、愚痴を言って」


風は楽しかった頃のことを、思い返しながら語っていった。

伊吹と会って、初めて他のことはどうでもいいと思えたこと、

百合子だけには全てを語り、いつも『よかったね』と言ってもらえたこと、

今まで誰にも語ることがなかった伊吹のことを、今、昴に話すことが出来るのは、

道佳が言ってくれた通り、昴の心の中も聞くことが出来たからだと考える。


「伊吹は大変だったと思う。『Breath』に私がいることはわかっていたから、
出来たら関わりたくなかったはずだし。でも、同僚が事故にあって、
覚悟を決めて『Breath』に来て、仕事をして……」



『すみません』



昴は、菊野から名前を聞き、仕事を依頼した時、

喫茶店で出来ないと頭を下げた伊吹を思い出していた。

風の兄だとわかり、『Breath』に関わりたくなかった伊吹の気持ちを、今知ってしまう。


「別れを切り出された時には、全然自分で納得が出来なくて、
百合子おばちゃんと笙君の前で、もう涙がなくなるくらい泣き続けて……」


『百合子おばちゃんと笙君の前……』


昴は風の告白を聞いている中で、先日、笙と会った時に、

話題が伊吹になったことが、その瞬間頭に浮かんだ。

笙に『沼田』という名前を出したときには、確かに『知らない』と言われたし、

風に資料を渡すようなことをしてきたのは、社長の子供である自分たちに、

近寄りたいからではないかというようなことも言っていた。

どちらかというと、伊吹に対して『マイナスイメージ』の言葉が多かった気がする。


「笙さんも知っていたのか……」

「うん」


昴は『そうか……』と言いながらも、どこか違和感を覚えた。

しかし、昔から理解者だった笙が『知らない振りをした』のは、

風のことを考えてなのだろうと思い、小さく頷きながら納得しようとする。

笙と風の関係性を知る昴からすると、『別れの原因』を作ったのが笙であることなど、

想像もつかないことだった。


「だからここで再会するまでは、私ずっと、伊吹を恨んでいたと思う。
お兄ちゃんが仕事を頼んで、『Breath』に来た伊吹に対しても、
最初は嫌みを言ったりしたし……」

「うん」


昴は、昼食に誘っても無視した風の態度を思い出す。


「でも、伊吹のことだけではなくて……
自分に足りないところとか悪いところがあることを、色々と学ぶことになって」


風は、『AREA』のチケットを、わざと置いてきたのに、

それを戻してくれた紗菜のことを考える。


「この環境に甘えながらも、不自由な部分だけ反抗して。
あ、ほら、おつきあいをしている人がいるって言ったでしょう。
その人にも思い切り……振られちゃったし」


風は、悠真が自分の手を払ったときのことを思い出し、少し寂しそうな顔をする。


「でもね、そこで初めて『自分には何もない』ってことに気付いたの。
何もかも中途半端で、独り立ち出来ていない。周りのおかげで立っているだけだなと。
まぁ、半分は順風満帆に見えていた伊吹にイライラして、
ただきついことを言ったのだけれど」


風は、『だからダメなのよね』と、自嘲気味に笑う。


「その言葉を、伊吹は何かに変えてやりたいときっと思ったはず。
おつきあいをしている頃、お父さんはお兄ちゃんとBreathがあればいいんだって、
いつもそんなふうに拗ねて言っていたし。
でも、本当は認めてもらいたい、自分を見て欲しいと思っていたことを、
伊吹は知っているから……」


風は『そういう人なの』と言うと、なんとか笑顔を作ろうとする。

昴は、自分が感じた違和感から、妹に辛い話をさせていることに気付き、

『ごめん、もういいよ』と言葉を送り出す。


「何よ今更、自分で聞いてきたくせに」

「そうだな……うん」

「あ、そうだ、『三国川』の南口にね、保護ネコカフェがあるの『ニャンゴ』っていう。
そこの店長さん、伊吹の妹さんで……私、全く知らない状態で知り合って」

「ネコ?」

「うん……彼女、私より年下なのに、すごくしっかりしているの。
話をしているとね、私が学ぶことの方が多くて」


風は笑いながら『やっと始められる』と言うと、

引き出しの奥にしまってあるネクタイピンのことを考える。


「なんかずっとこの辺にひっかかっていたのよ。でも、説明出来ないし……。
うん、でも、やっとなんとなくほっとした。これから前を向いて、
自分でしっかり歩いて行かないとね」


風は、そういうと『私……』と昴を見る。


「あの資料のおかげで、自分発信の仕事が出来ているでしょう。仕事が楽しいの。
入社して初めてかもしれない。だから、頑張りたい」


風は『道佳さんに会えるのを楽しみにしているね』と話し、昴を見る。

昴は『うん』と少し明るい声を出し、『おやすみ』と言いながら立ち上がった。


【24-3】



コメント、拍手、ランクポチなど、みなさんの参加をお待ちしてます。 (*´∇`)ノ ヨロシクネ~♪

コメント

非公開コメント