24 巡り合わせ 【24-4】


【24-4】


伊吹の頭の中では、病院のベッドで器具をつけ、横になっている友成の姿が浮かぶ。


「父さんのところには行ったのか、母さんには何かを聞いたのか?
今、うちはこれからのことが見えなくて、大変なんだ。何が彼の記録だ……。
自由に生きて、好き勝手に絵を描いて、死んでしまった人だろう」

「伊吹……」

「今更、何を見せられても、繕ってくれても変わらない。
これが真実? そんなものなんてどうでもいい。自分に息子がいる……
それを知ろうともしなかった人の人生を、どうしてこっちが受け入れないとならない。
結局は……何を聞いても、自分たちの都合にしか聞こえない」

「いや、あのね……」

「あなたが誰とどう生きようが、何を考えようが、どうでもいい。
好きにしてくれ。今……」


伊吹は友成のこと、そして付き添いをしながら、心配そうに見つめる鮎子のこと、

寂しくて泣きそうになっていた紗菜のことを考える。


「死んでしまった人に興味などないし、貴重な時間の中でかまってもいられない。
あなたと僕の考えることは、何もかもが違う」


今まで、自分の前で感情的になどなったことがない伊吹の言葉に、

路葉は驚き、そして次の一言が出なくなっていた。

伊吹は『帰ります』と言うと、そのまま外に出ようとする。


「兄さんのところには行ったわよ。でも、病室に長くなんていられないし、
私がいたって役に立たないでしょう」


路葉は『私に何が出来るのよ……』と不満そうにつぶやいていく。

伊吹はわかっていたこととはいえ、路葉は自分を産んだというだけで、

『何もわかっていない』とあらためて思い知る。


「だから今言ったでしょう。あなたと僕の考えることは、何もかも違うと……」

「おっと……」


伊吹が、唯一空いている扉の方へ向かおうとすると、

一人の男と鉢合わせになった。

その男の姿に、伊吹が声も出なくなった時、男は怪しげな笑みを浮かべ、

『お久しぶりですね』と挨拶をする。

伊吹の目の前に立ち、笑みを浮かべたのは雄太だった。

雄太は伊吹の前に立つ状態のまま、

『沼田さん、遅くなりまして……』と、奥にいる路葉に声をかける。


「すみませんね、お話中のところ入ってしまって。
今回、宮田傑さんの作品を展示するために、
作品にふさわしい額縁を用意して欲しいと言われまして、
私が『川端商事』として動いたところです」



『川端笙』



8年前、伊吹の目の前に突然現れ、風との付き合いを辞めること、

それをいきなり突きつけてきた『川端笙』がまた、自分の目の前に現れた。

突然の再会に、動揺している伊吹の視線を感じる雄太は、

ポケットから名刺を取り出そうとする。


「8年ぶりですね、お会いするのは……。いや、違うな。
本当の意味でお会いするのは、今回が初めてです」


雄太の挨拶に、伊吹は混乱した気持ちが整わないため、言葉が出ない。


「伊吹……川端さんを知っているの?」


奥にいる路葉は、雄太と伊吹を交互に見た。

伊吹は路葉の言葉にも、何も言おうとしない。

雄太は口元を少し動かし、少しそれた伊吹の視線の中に入り込もうとする。


「『川端商事』代表の……『川端雄太』と申します」


雄太はそう言うと、笑みを浮かべたまま伊吹に名刺を差し出した。

伊吹は聞こえた言葉が気になり、視線を雄太に向ける。


「……雄太?」

「はい。そうです。私の本当の名前は雄太でしてね。今も……実は8年前も」


雄太は、『8年前』という部分に力を込める。

そして、自分の登場から驚いたままになっている伊吹が手に持つ

バッグの前ポケット部分に、名刺の一片を押し込んだ。

そのまま『あなたが覚えている川端笙というのは、出世を企む弟の名前です』と言い、

伊吹の反応を見た。

伊吹は、『Breath』ですれ違った男の顔を思い出す。

確かに、今、目の前にいる男よりも、見かけた男の方が自分に年齢が近い気がした。


「あなたの純粋な気持ちを知りながら、私もあの時は事情があって、
鬼になるしかなかったもので。今、こうしてお会いして、
いやぁ……申し訳なさしかありませんよ」


雄太はそういうと、伊吹の横を抜け、路葉の横に向かう。

『これがリストです』と言いながら、

雄太は、自分が輸入出来る額縁のリストを路葉に手渡した。

路葉は、出されたリストを受け取りながら、

出て行こうとした伊吹がその場にとどまり、戸惑っている表情を見る。


「ここでお会いしたのだから、この際、全てを語りましょう。
私と弟は異母兄弟でして、弟は森嶋家とは親戚関係になるため、
『Breath』で出世を狙っていましてね。
ただでさえ、目をかけてもらっているというのに、欲は果てしないのか、
天羽議員の息子さんと、そう……風さんが縁を持つことになれば、
『梶木原』で、いや、もっと色々と『Breath』はさらに展開が出来ると考えて。
あなたを排除した。天羽さんの人脈を利用し、あいつは自分が大きくなるつもりです」


雄太はそう言うと伊吹を見るが、突然の自己紹介に、放心状態のように思えたので、

あえて続きは語らず、『会場はこちらに決まったのですか?』と口調も変えて、

路葉に話し始めた。


【24-5】



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