24 巡り合わせ 【24-5】


【24-5】


「まだ正式には決めていませんが、相良さんにお願いするのが一番いいかと……」

「そうですか」

「フランスに借りていた部屋は引き払わないとならないですし……」

「あぁ……はい」


路葉は雄太と話をしながらも、黙っている伊吹のことを気にしていた。

何かを言い返すのかと思っていたが、伊吹は何も言わないまま出ていってしまう。


「あ……」


声をかけようとした路葉を、雄太は手を出して止めた。

路葉は、自分の行動すらコントロールしようとした雄太に、

『あなたどういう人なの?』と言い、怪訝な表情を浮かべる。


「どういう……」


雄太は大げさに聞き返し、首を傾げる。


「そうよ。あなた伊吹を知っているの? 何だかわからないことを、
ペラペラ話して」


路葉にとってこの雄太は、『傑の絵を飾る額縁を用意したい』と言うことから、

この画廊を持っている持ち主、『相良二三男』に紹介された輸入雑貨の業者、

その意識しかなかった。

しかし、笙との関係に色々と思うところがある雄太としては、

『宮田家と沼田家』の運命に関わることで、さらなる展開を生み出せると思い、

あえて過去を話題に出したのだ。

さらに雄太にとって幸運に思えたのは、伊吹本人がここにいたことだった。

自分の顔を忘れていないことはすぐにわかったし、これなら、思っているよりも早く、

次なる展開が起こるのかもと考える。


「沼田さん。あなたの息子さんは……これからいくらでも輝きを見せる原石ですよ」

「は?」

「傑さんと約束しているから、宮田家との関わりは持ちたくないと
まぁ、そう言われる気持ちもわかりますが、いやぁ……もったいない。
息子さんのためには、持った方がより有利だと……」


雄太はそういうと、路葉を見る。


「あなた……伊吹の何を知っているの」

「今、伊吹君に話をしていた通りです。8年前、私はあなたの息子さんと、
『Breath』社長の娘、風さんの交際を終わらせた」


路葉は『Breathの社長?』と声に出す。


「はい。大学時代、二人は知りあい、いいおつきあいをしていました。
しかし、私の母違いの弟が、天羽議員に目をかけてもらっていたために、
その息子さんと風さんの縁談を作ろうとしたのです。川端家の跡を継ぐのは、
長男の私ではなく自分だと。『Breath』という企業で、地位を高めるため、
そんな身勝手な事情に、伊吹さんは振り回されました」


雄太はそういうと、『私も、振り回されました』と後悔しているような、

演技を見せる。


「天羽議員……」

「そうです。宮田家も以前なら跡取りがいましたが、病気で亡くなった。
そこにあなたと伊吹さんが……」

「何を言っているの。伊吹は、宮田家のものではないです」


路葉は、『宮田家と関わらない』というのが、傑との約束だったという気持ちで、

あえて強めにそう言い返した。


「宮田家のため……違いますよ。息子さんは望んでいたのですよ、風さんとの交際を。
それを引き裂かれた。『何もないから』という理由で……です」

「何も?」


路葉は『どういう意味ですか?』と雄太に問いかける。


「すみません、あくまでも義弟が考えた台詞で、それを私が伊吹さんに伝えました。
『君には何もない』。つまり、伊吹さんが風さんとつきあっても、
森嶋家には何も利益がない……ということです。失礼な話です」


路葉は雄太の聞きながら、自分が知らないところで、

伊吹が過去に、思い通りにならなかったことがあったと知っていく。

さらに、『何もない』と言われ、相手方に軽く扱われたという内容に表情を曇らせた。

路葉は、伊吹が自分とは似ても似つかない優秀な息子であることを、

心のどこかで誇りに思っていたからだ。


「しかし違うでしょう、彼には『何もない』なんて……そんなことはないです」


雄太は傑の絵に触れる。


「沼田伊吹さんは、この宮田傑さんの忘れ形見です。
『梶木原』を大きく発展させた宮田家の一員だ。さらに現在、
跡取りのいない宮田家にとって、誰からも文句を言われない後継者になれる可能性もある。
宮田邦男議員の父、いや、宮田傑さんの父、元大蔵大臣を務め、
与党政党の会長にまで上り詰めた人の血を引く男性、その流れは伊吹君なのですよ。
そんな星を持って、生まれてきた人ではないですか。
『何もない』と思われていた男は、実は底知れぬ輝きを秘めた『原石』だった……」


雄太は『このままでいいのですか?』と路葉を見る。

路葉も雄太の視線を感じ、目を合わせた。


「宮田の家に関わることが出来たら、伊吹さんは思い通り、
森嶋風さんとおつきあいをすることも……いや、結婚することも可能だ。
なんせ、宮田一族なのですから」


雄太はそういうと、黙っている路葉をそばで感じながら、

混乱させるのはこれくらいでいいだろうと思い、

そこからは『サイズを伺ってもいいですか』とあえて冷静に仕事の話をしようとする。


「伊吹が……何もないだなんて……」


路葉はそういうと、傑の絵をあらためて見る。


「伊吹が『Breath』の社長の娘と付き合っていたというのは、本当なの?」


路葉の言葉に、雄太は『間違いありません』としっかり返事をする。

油絵の凹凸に触れながら、

路葉は『何もないだなんて、そんなことないわよ』と小さな声を出した。


【24-6】



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