24 巡り合わせ 【24-6】


【24-6】


二度と顔など見たくないと思っていた男との、突然の再会に驚き、

その場を離れた伊吹は、呼吸をすることも忘れるくらいの勢いで、駅まで足を動かした。


「あの……」

「はい」


声をかけられて振り向くと、後ろを歩いていた女性が『落ちました』と、

少し前に雄太がバッグの前ポケットに少しだけ押し込んだ、名刺を差し出してくれる。


「すみません」

「いえ……」


女性は伊吹を追い抜き、そのまま駅の改札へ向かう。

伊吹は『川端雄太』と書かれた名刺を見た後、そのまま破り捨てようとしたが、

その手は動くことなく、下に降りる。



『川端雄太』

『川端笙』



『Breath』の中で、昴が『笙さん』と呼んでいたのは、あの階段で会った男性で、

雄太の話を信じるのなら、雄太はあの男に頼まれて、演技をしたということになる。



『君には何もない』



あの時も、今のように友成が病に倒れ、伊吹が冷静さを失っている時だった。

学生から社会に出ようとしている伊吹には、迷っている時間も、考えている時間も、

与えてもらえないくらい、『流れ』を作られてしまい、

ただそれを受け入れざるを得なかった。


『天羽議員の息子』


雄太の話を信じるとすれば、風にはやはり相手がいるということになる。



しかし……



自分を失意の底に落とした男、階段ですれ違ったあの『川端笙』が、

自分の利益のために風を動かそうとしているのなら……



風は、昴が兄と慕うような親しい人に、『利用されている』ということになる。



『ありがとうございました』



伊吹は、風を森嶋家まで送り届けた日のことを思い出す。

雄太が渡した名刺を、あらためてカバンの中にしまい、駅の改札へ歩き出した。





『都合がいい日付を、教えてください』


直輝は風にLINEをした後、カレンダーを見た。

以前、深酔いして慶と直輝に助けてもらった時のお礼をしたいと、

一度は日程まで決めたが、直輝の都合でそれが流れてしまった。

再び風から誘いが来るのを待った方がいいのかと思っていたが、

宮田家が騒がしくなることで、父が動き出すこともあると思い、

今度は直輝の方から風に連絡を入れた。

すると事務所の前に車が停まり、すぐに父親である天羽議員と、

秘書の生島が姿を見せた。

今日はやけに慌てて事務所に入り、奧の部屋に入ってしまう。

何かよくないことが起きたのかもしれないと思いながらも、

自分にはあまり関係がないと思い、また仕事の続きをし始めた。



「延期?」

「あぁ……昨日、宮田先生側から急に連絡が入った」


天羽は体を投げ出すように椅子に座った。

ギーという音が響き、同じタイミングで天羽のため息が落ちる。


「どういうことですか」


秘書の生島は『出席者は天羽先生と決めたはずでは……』と表情を曇らせる。


「それが、党の幹事長である坂田先生から、直々に出席を頼まれたと」

「坂田先生が」

「そうだ。まぁ、元々、付き合いのある人だし、言うこともあるだろう。
しかし、宮田先生が『代わりに天羽が……』と言えば、
別に1であることに変わりないのだから、通ったはずだ」


天羽は『欲が出たのかもしれない』と唇を結ぶようにする。


「傑さんの息子のことですか」

「あぁ……宮田先生もそうだけれど、後援会がストップをかけていると」

「後援会……」

「宮田先生には持病もあるから、党も出来たら代替えをと願っていることは間違いない。
しかし、地元の後援会は、宮田家との長い付き合いで今がある。
地盤を引き継ぐ、このまま応援をと言っても、私が表に出るようになれば、
また別の人達が力を持つことになるのではないかと……」


天羽はそういうと、思い通りに流れて言っていない時間を感じ、右手の人差し指で、

軽く机に触れる。爪の音がカツン……と小さな音をさせる。


「傑さんの息子が、宮田家の事業に関わるとなれば、
宮田先生の健康面を心配していた地元の後援者達も、保険が出来るため乗り気になる……
そういうことですか」

「あぁ、そうだ」


天羽は『面倒だ……』と言った後、カレンダーを見る。


「何も知らないような素人が、一番怖い」

「……はい」

「生島、森嶋さんとお会い出来るのは、今月末か」

「はい。パーティーが行われるので、そこでご挨拶をと、川端君も話していました」

「末か……」


天羽はカレンダーを見つめながら、そう言った。

生島は『はい』と返事をする。


「森嶋家には、うちの他にも風さんと……という話が入っているのだろうか」


天羽は、風の父になる恭一が、あまり積極的になっていない気がして、そうつぶやいた。

生島は『まぁ、Breathと縁が持てたらと思う企業は多いでしょうが……』と答えを戻す。


「本人同士が前向きだと言うのだから、直輝と風さんの話しも、
少し具体的に出来た方がいいな」


天羽は、扉の向こうにいる直輝のことを考える。


「うちが『Breath』との縁を作れるのだとわかれば、年齢を重ねた宮田先生ではなく、
私にと言ってくれる地元の有権者も増えるだろう。企業を誘致し、
広げてきたのは宮田先生だが、これからを考えたら、『Breath』の力は大きい。
『梶木原』方面に事業を広げられたら、レストラン業もあるので、
生産工場を持ってくることも可能になるかもしれないし」

「はい……」


生島は『流れを止めずに進みましょう』と天羽に話す。

天羽はその通りだという意味で、何度か頷いた。


【24-7】



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