25 内なる声 【25-4】


【25-4】


伊吹が運転する車は、『カリポリ』の駐車場を出て、

近くにあったコンビニの駐車場に入った。

携帯で『宮田邦男』の名前を調べ、事務所というキーワードを打ちこむと、

『カリポリ』からそれほど離れていない場所にあることがわかる。

『梶木原』の駅から2、3分歩いたところにある3階建てのビル。

そこの1階が『宮田の事務所』と歯科になっていた。

伊吹は車を走らせ、地図に示された場所に向かう。

敷地がちょうど角になるからか、掲示板は大きく、地元の県議員議員、

そして『天羽広之』と一緒に並ぶポスターも貼られていた。



『天羽議員の息子』



川端雄太と名乗った男は、風の相手はこの議員の息子だとそう言った。

それは、弟になる本物の笙が、自分の地位を高めるために企てた話で、

そのために、何も知らない大学生の伊吹を排除したと堂々と語った。

天羽議員は、元々、ニュースキャスターをしていただけあり、写真のうつりもよく、

隣にいる宮田よりも若いことが、さらに強調されている。


「何かご相談などあるのでしたら、遠慮なくお入りください」


声がした方に振り返ると、『沼田クリーニング』までやってきた洲本が、

事務所に備え付けられた郵便受けの前に立っていた。

伊吹は見られたくない人に見られてしまったと思い、すぐにその場から逃げようとする。

自分には関係ないという素振りで、洲本の訪問を振り切ってから、

まだ数時間しか経過していない。


「そんなに慌てなくてもいいではないですか。議員の仕事の一番大事なところは、
地元のみなさんの悩みや要望を聞き取り、どう解決していったらいいのか、
一緒に考えるところです」


洲本は車に向かおうとした伊吹の前に、少し身体を出すようにする。

伊吹の導線は洲本に遮られたが、体の向きを少し変え、反対側に向かう。


「商売のこれからも、あ、そうです。リハビリに特化した病院のことなども、
お話出来ると思いますが……」

「いえ、別に……」


伊吹は、洲本の問いには答えないと決め、車の運転席に向かう。


「それなら……いっそ身内として、雑談をしたらどうですか?
何をどうしろではなく、宮田先生は、あなたにとって伯父になるのですから。
伊吹さん、あなたがどんなふうに過ごしてきたのか、苦労しているのではないかと、
気にされています」


洲本の言葉を遮るように、伊吹は車に乗り込むと、すぐにエンジンをかけ始める。

バックミラーに映る洲本も姿は見ないようにして、伊吹はアクセルを踏み込んだ。

洲本は深追いすることなくその場に立つ。

走り出した伊吹の車を、見えなくなるまで見送った。


「ふぅ……」


洲本にとってみたら、ここに伊吹が立ち寄っただけでも、予想外のプラスに思えた。

洲本はポケットから携帯を取り出し、宮田と一緒に行動している別の秘書に

メールを打ち込み始める。



『沼田伊吹が、事務所の前に来ていたと先生に伝えてくれ』



洲本はすぐにメールを送信すると、事務所の中に戻った。





「はぁ……」


伊吹は事務所から離れた場所で車を止め、ハンドルに頭を乗せた。

どうして宮田の事務所に自分から行ってしまったのか、

半分の後悔と、半分の本音が頭の中で交差する。


伊吹の中の、半分の本音。

それは、『宮田傑』という人物が、もっと早くから自分を認め、

何かアクションを起こしてくれていたら、『沼田伊吹』として生活しながらも、

今とは違う『プランB』の人生があったのではないか、その考えになる。

『なかった人生』を考えた頭が、伊吹を動かしてしまった。


以前、同じようなことを考えた時には、友成や鮎子に申し訳ないと思った伊吹だが、

今は逆に、『何かが出来るかもしれない』という思いに変わってくる。

今まで、自分のことなど二の次にしていた生みの母、路葉に対しても、

反抗的な態度は取らず、宗佑が言うように『我慢』をし続けてきた。

8年前も、川端笙の言う通り、風には何も告げずただ身を引いた。

それは、病気になった父が元気になり仕事に戻ることを、

そして、商店街がこの先も続くことを優先し、選んだことなのに、

8年後、その時の決断が、何もプラスになっていないという現実に、

今、また、沼田家が飲み込まれそうになっている。

伊吹は顔を上げ、携帯を取り出すと、『宮田傑』の絵について細かく調べ始めた。


【25-5】



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