25 内なる声 【25-7】


【25-7】


「なんだかおもしろい人だな、風さんって」

「ん? そうだな」


3人でお酒を飲み、食事をした後、方向が違う風は一人でタクシーに乗り、

直輝と慶は同じタクシーに乗り込んだ。しばらくすると雨が降り出し、

車窓のガラスに、雨粒が跡をつけ始める。


「もう少しお芝居に巻き込んでいいかってことは、直輝といいおつきあいをしていると、
親には伝えると言うことだろう」

「あぁ、そうなるな。仕事が楽しいらしいし……」

「お前、いいよなんて軽く受けていたけれど、本当にいいのか?
俺は、このままのんびりとはいかない気がするけど……」


慶は『色々とあるんだろ』と直輝を見る。

直輝は、先日、事務所で秘書の生島と話し込んでいた父親のことを思い出す。

仕事の話をしながらも、『風さんとは会っているのか』と近頃は、よく気にしている。


「色々?」

「うん……」


慶はここがタクシーの中だと言うこともあり、自分の携帯を出すと、

メモに『宮田先生のところ』と文字を打ち込んだ。

直輝はその文字を確認し、一度慶の顔を見る。


「また親父からの情報か」

「まぁ、いや……うん」


慶は『天羽先生が、動き出しそうだって……』と少し小さな声で続きを話す。


「親父に話すかな」

「何を?」

「運転手の橋本は、本来、秘密にしていないとならないことを、
あちこちに披露しているから、仕事は任せられないのではないかと……」

「エ……あ、なんだよ、それ」


慶は『お前と俺の間だからだろ』と、直輝の腕を取り、慌ててゆすり始める。

直輝は『どうするかな』と笑いながら答えを返した。



『都心からでは走りませんよ』



その頃、『三国川』にタクシーで向かう風は、

以前、伊吹が車で話していたことを思い出しながら、車窓から外を見ていた。

乗り込んでから線路はずっと車の右側にあったが、

道路が立体に交差する場所で、車が上がりその後下に降りると、線路は左側に変わる。

そこからはずっと車の左側に存在していた。

こうしてタクシーに乗る時は、いつも携帯を見ていたため、

外の様子など気にしたこともなかったが、あらためて町を見ると、

確かに線路のこっちと向こうで、雰囲気も違っている。

最初は少しずつ線のような跡をつけていた雨は、だんだんと粒が大きくなり、

風が家の前に着く頃には、傘がなければ歩けないくらいの強さに変わっていた。





「おはようございます」

「おぉ、笙。悪いな朝から呼びだして」

「いえ、経過報告も会議でしなければと思っていましたので、ちょうどよかったです」


新しい週になり、笙は『ブレスガーデン』を作る候補地をいくつかピックアップし、

恭一も参加する会議で、資料を配る予定になっていた。

笙の上司も出席するため、少し早めに到着する。


「城所さんとお会いして、やっと少し肩の荷が下りた」

「あぁ……そうでしたね」


笙は昴の相手の家族と、会う予定があると言っていた恭一の発言を思い出していた。

いよいよ次は風の番だと考え、

『会は来週になります』と天羽議員が参加する会の話を披露する。


「あぁ……それなのだが、今回は難しくなった」

「エ……」

「いや、『Breath』にも招待状が来ていたし、天羽先生が出られるのなら私がと思ったが、
『小暮製菓』の社長が、内々で話がとわざわざ連絡をくれて……」


恭一は、おそらく買収計画を進めている企業のことだろうと言い、

会には副社長に出席してもらうつもりだと話す。


「いえ、あの……」

「風と直輝君は、食事に出かけたりして順調そうだ。昨日も一緒だったと、
今朝もそう話していた。風は、今取り組んでいる仕事が楽しいと、
嬉しそうに話をしてくれて。真由子も、まぁ、今は昴のこともあるし、
風のことはそれほど急がなくてもと……」


恭一は、『寂しさもあるのだろう』と話し、その表情には笑みも浮かぶ。

笙は『そうですか』と言いながらも、気持ちは穏やかではなかった。

風が、体中の涙を流してしまうくらい泣いたことを覚えている笙は、

『沼田伊吹』という存在が、

時間が過ぎていく中で、また意味を持ってしまうような気がしてくる。

宮田議員が引退について、あまり触れなくなったのも、

『沼田伊吹』という『宮田傑の息子』が、

出てきたからではないかと考えるようになった。

さらに、伊吹が色々な面で接点を持つと、8年前のからくりに気付き、

自分が風にした仕打ちを、話してしまうかもしれないという思いも湧き出てくる。

『決断』が遅れるほど、笙にとっては、マイナス要素が増えていくことになった。


「あ、そうだ、笙。昴の新居選びの相談にも、乗ってやってくれ」


恭一はそういうと、笙が渡した資料を読み始めた。





「前回は、こちらの都合ですみません」

「いえ……お父さんは……」


昴の問いに、伊吹は『なかなか難しいところです』と正直に話す。


「そうですか」

「はい。年齢も重ねていますし、正直、店はもう無理だと思っていて……」


前回、契約書類を持ち帰る予定だった伊吹は、

この日、あらためて『Breath』に顔を出した。

伊吹は間違いがないかどうか、書類に目を通し始める。

昴は、風が『伊吹を好きだった』と話したことを思いだし、

過去のことについて、聞くべきことがあるかもしれないと考える。



『風との別れは、森嶋家が重荷になったのか』



しかし、それを聞いたところで、すでに別の道を歩き出している伊吹にとっては、

答えに詰まることも予想でき、結局、何も言えないままになった。

内線電話をしようとした昴の手が止まる。


「沼田さん、少し待っていてもらえますか」

「はい」


昴は伊吹を残し、『販売促進部』を出た。

すぐに階段を降り、営業部に向かう。

内線電話をかけないことにしたのは、風に選択権を与えたいからだった。

電話で伊吹が来ていることを言って、風が来ないことを選択すれば、

伊吹も昴もどこか会話がしづらくなる。

何も言わず営業部に向かい、『どうするか』を聞けば、たとえ風が嫌がっても、

伊吹には『風の決断』を知らせずに済む。


「……風!」


昴の声に、風が顔を上げる。

手招きされたため、そのまま廊下に出た。


「何?」

「沼田さんが、今、契約書を取りに来ている。どうする……」

「今?」

「あぁ……今朝連絡があって、それで……」


昴の問いかけに、風は小さく頷き『会うこと』を選択した。


【26-1】



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