26 すれ違い 【26-3】


【26-3】


「わかりました。しかし、私がその方の名前を言えば、当然誰が聞いたのかと言われ、
お母さんの方に連絡が入ると……」


雄太は『お母さんとの連絡に、何か問題でも……』と伊吹を見る。


「問題はありません。別にそれで向こうに連絡が入っても構いませんので。
ただ、早く知りたいだけです。元々、無連絡で片付く話ではないので、
その後のことは、こちらで考えます」


伊吹は『教えてもらえるのか、もらえないのかどちらですか』と雄太に迫る。

雄太は『大丈夫だと言われましたので、教えますよ』と話し、1枚のメモを出す。

そこには『相良二三男』と言う名前と、電話番号が書いてあった。


『相良二三男』


伊吹は、名前も顔も今まで聞いたことがない相手の情報が、

書かれたメモを受け取っていく。


「相良さんは都心にビルをお持ちだし、芸術的なことに投資するお金もある方です。
先日お会いした画廊の他にも、数カ所、そういった場所をお持ちですしね。
宮田傑さんと息子さんが同級生だそうです。そういった関係性があって、
場所を提供しているはずですが、まぁ、まず『宮田家』に話すことが大事だと思いますよ」


雄太はそう言うと、『伊吹さんにとってはご親戚でしょう』と伊吹を見る。

伊吹は雄太の問いに答えないまま、メモをポケットに入れた。


「私が話すことなど、余計なことだと思うでしょうが、宮田家にはぜひ連絡を……。
宮田家はあなたを傑さんの息子だと、認める意思がありますよ絶対に」


雄太は『あなたは原石なんです』と、両手を広げ笑顔を作り、

以前も話したことを繰り返す。

伊吹は調子のいい話し方の雄太を、怪訝そうな顔で見る。


「8年前、弟に作られた台詞とはいえ、あなたに『何もない』などと言った自分が、
愚かだと思いますよ」


雄太は『ねぇ……』と念を押すように言う。

伊吹は用は済んだとばかりに、何も言わないまま立ち上がる。


「ふざけているわけでも、からかっているわけでもありません。
相良さんに絵のことを話せば、相良さんが宮田先生に連絡を取ります。
宮田家を無視して影でコソコソするような、愚かな投資家はこの世にいません」


雄太は『とにかく宮田家に行った方がいい』と言いながら立ち上がると、

伊吹に向かって繰り返す。


「あなたにとって、私は相当胡散臭いと思いますが……
『川端笙』に一泡吹かせてやりたいという意味では、
仲間だと思ってもらっていいはずですよ」

「ご忠告、ありがとうございます」


伊吹はそれだけを言うと、『川端商事』を出る。

扉が閉まり、伊吹が外に出たことがわかると、雄太は両手を自分の腰に当てた。

コーヒーを入れたのにと、お盆を持ったまま不満そうな顔をする事務員に、

『君が飲めばいい』と雄太は言い、少しひびの入った窓から外を見る。


「あの若い男も、頑固そうだな。どうなることやら……。
まぁ、どっちにしてもおもしろくなりそうだけど」


雄太はそういうと、事務員から自分の分のコーヒーを受け取り、一口飲む。

電信柱に止まっているカラスの数を、『1、2……』と数えだした。





『相良二三男』

伊吹はそのメモをポケットにしまい、『ストロボ』に戻った。

『Breath』との仕事が全て終わったことを、樋口に報告する。


「よし、書類にも問題はないな。ご苦労様」

「はい」


樋口は、すでに仕事に復帰した青柳にも連絡してやってくれと話し、書類をしまう。


「そうですね、青柳も気にしているでしょうし」


伊吹は『わかりました』と答え、携帯を取り出すと、すぐに青柳へ連絡する。

二人の会話を聞いていた海老名は、少し進んだままの時計を見ながら、

『郵便局は何時まででしたっけ』と樋口に声をかけた。





「お疲れ様でした」

「あぁ……お疲れ」


国会を終えた宮田は、支持者と会う約束があったため、事務所に戻ってきた。

デスクの上にある書類が誰から来ているのか確認していると、

洲本から『相良さんから連絡がありました』と報告される。


「相良さん……傑の絵か」


宮田は路葉が相良を頼り、画廊を借りた話を聞いていたため、すぐに反応する。


「はい」


洲本は、『沼田伊吹から間接的に連絡があったと……』とさらに話す。


「間接とはどういうことだ」

「相良さんの画廊で、出入りの業者に会ったそうです。
沼田伊吹が、相良さんの連絡先を聞いてきたと。相良さんがどういう方なのか、
それを調べたとなると、おそらく絵を……」

「売りたいと言うことか」

「はい」


洲本は『路葉さんには話していないそうです』と言うと、宮田の顔を見た。


「話していない」


宮田は、なぜ伊吹が母である路葉と連絡を取らないのかと考え、軽く首を傾げる。


「はい、相良さんはそう言っていました。
路葉さんの方から、傑さんの絵に関して、売却の相談などは受けていないと。
あくまでも個展の場所を貸して欲しいという話しか……」

「うん」

「そもそも、路葉さんのお店の常連だったそうです、相良さんが。
将来的にこういうこともあると思っていたのかもしれませんね……」


宮田はカレンダーを見た後、『個展の後か……』と声に出す。


「はい」

「そうか……」


宮田は上着を脱ぐと、ソファーにかける。


「傑と路葉さんは正式な夫婦ではないが、まぁ、伊吹という息子もいたことだし、
個展の話しも受け、絵の権利も渡すことにした。絵は全部で20くらいだと聞いている。
フランスで世話になった人に分けた物もあるようだ」

「はい、そう聞いています。今相良さんの画廊にあるものと、残りは数点だと」

「それを息子の方が売る気になっているのか」


洲本は『お金が必要なのだと思います』と話す。


「金……」

「はい」

「確か店をしていた父親が、倒れて入院中だと聞いたな」

「ほぼ閉店状態です。これからリハビリをして、もう一度店をするのは、
状態を思えば無理でしょう。この間、彼自身がここに来ていたこともありますし……」


洲本は『こちらから手を……』と言い、宮田の指示を待つ。

宮田はタバコをふかしながら、しばらく考えていたが首を横に振る。


「いや、こちらから手を出すのはやめておけ。路葉さんを刺激するだけだ。
向こうが望まないことを押しつけたら、反発が強くなる。
絵の売却を頭に入れていることになれば、自然と連絡をしてくるだろう。
相良さんには、とりあえず、絵を売るのはそんなに簡単なことではないことだけを、
話してもらえばいい」


宮田はカレンダーを見る。


「わかりました」


洲本は宮田に頭を下げると、明日の予定を前に出す。

宮田は頷きながらそれを聞き、灰皿でタバコを消した。


【26-4】



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