20 隠れていた事実

20 隠れていた事実


部屋の掃除を続けている大和と邦宏を残し、

比菜は昼寝から目を覚ました赤ちゃんの大を乳母車に乗せ、公園へ向かった。

邦宏が康哉の噂を黙っていたことも、それを知った大和が冷静に批判をしたことも、

どちらも間違っているとは言えなかった。

ここ2週間くらいの出来事で、康哉を待つことを諦めなければならない状況なのだとは

わかっているが、それをしてしまうのは、東京から離れなければならないことになり、

決心がつかない。


比菜は電信柱に貼り付けてあった、バイト募集のチラシを見たが、

ポツリと降ってきた雨に気付き、乳母車の方向を変えた。





「長瀬さん、知っていたってどういうことなんだろうな」

「靖史が黙っていられなかったんだろ、何も知らないで店で働いているのを見ていたら。
でも、これでよかったんだよ、あいつだってあきらめがつくだろう。
店のホステスと逃げただなんて、どうしようもない」

「あぁ……」


掃除を終え、ゴミ袋をまとめながら邦宏は一度大きくため息をついた。

康哉を嫌いになりたくないと言い切った、比菜の横顔を思い出し、

心の片隅に残しておいた、不信感をぬぐい去る。


「心のどこかで、長瀬さんは康哉とつながっているんじゃないかって思っていたけど、
俺たちと同じように、騙されたんだな。それでもこっちに残っていたいなんて、
何か他に理由があるんだろうか」

「よせよ邦宏。あれこれ探ったって仕方ない。ほっといてくれって言っていただろうが」

「あぁ、そうなんだけど……。でも……」





信恵が買い物と美容室から帰宅し、3人の仕事は終了した。

邦宏の運転する車に乗り込んだが、行きと違い、誰からも言葉が出てこない。

通り雨の上がった道は、営業車が増えたからなのか渋滞になり、

なかなか前へ進まなくなる。

時間だけが着実に進み、ラジオの番組はまた別の司会者が話し始めた。


「邦宏、俺、ここで降りるわ」

「ん? 事務所に戻らないのか?」

「あぁ、ちょっと行くところがある」


大和は駅から10分くらいの場所で、車を降り、そのまま駅へと歩き出した。

比菜は助手席のサイドミラーで、だんだんと小さくなっていく大和を、

じっと見たままになる。


「『フリーワーク』って、坂本さんと高杉さんのものなんですね」


邦宏は右足をブレーキから外し、ゆっくりとアクセルを踏んだ。

大和の姿は角を曲がった瞬間、視界から消える。


「俺と大和のものっていうと変だけど、まぁ、二人で立ち上げたからね」


比菜は小さなバッグから携帯を取りだし、東京へ来てから送り続けた

メールの送信を確認する。相手は康哉と母だけだ。


「東京で、お世話になっている先輩と便利屋を立ち上げました。
バイトで貯めたお金を資金にして、先輩が営業、俺が管理担当で毎日忙しくしています。
……そう、そんなふうに康哉はメールをよこしたことがあって。
岡山へ戻ってきても、仕事のことをあれこれ聞かされたことがあります」


邦宏はバックミラーに映る比菜の表情を確認しながら、少しずつ速度を上げた。

二人の後ろには、さっきまで大和がいた場所がポツリと空いている。


「今考えて見ると、康哉、高杉さんのことを自分に置き換えて
話していたような気がするんです。会社の管理のこととか、
資金も先輩と二人で出したのだとか……」

「康哉、そんなことを長瀬さんに?」

「はい……。どうしてなんだろう」


邦宏の運転する車が、マンションへ近づくと、それを待っていた美帆が道路へ飛び出した。

運転席に向かって軽く手を振り、ウインクをする。

邦宏は窓を少し開け、首を出し声をかけた。


「美帆! お前、間違ったらひかれるぞ!」


邦宏の言葉にも美帆は舌を出しただけで、反省する雰囲気などどこにも感じられない。


「あれ? お兄ちゃんは?」

「大和は用事があるって言って、もっと前に降りた。
ここで会うつもりなら、連絡寄こせばよかったのに」


邦宏と比菜は車を降り、掃除に使った道具を運んでいく。

美帆も残ったダンボールを抱え、一緒に部屋へ向かった。


「連絡なんかしたら現地に行けばいいって言われちゃうから、だからこっちに来たのに」

「現地? なんだよそれ」

「お兄ちゃんに先輩の仕事を頼んでるんです。モデルなんだから……」


作業机の上にダンボールを置いた美帆は、そう言いながら冷蔵庫を開けた。

ビールの缶が並んでいる奥に、サイダーの缶を見つける。


「あ……これ、邦宏君、飲んでもいい?」

「ん? あぁ、それは長瀬さんのだよ」

「長瀬? あ、あなたが康哉君の彼女? お兄ちゃんがそう言っていたけど」

「あ……」


美帆が比菜を指差すと、その視線が動き、サイダーの缶を見えるように揺らす。

比菜はそんな美帆の仕草に、少し笑顔を見せながら飲んでもいいですよと頷いた。


「モデルってなんのモデルだよ、全裸か?」

「違います。男の人の背中から腕を描くの。筋肉、人の肌とか……もう!
先輩が誰かに頼めないかなって困っていたから、お兄ちゃんを推薦したの」

「そんな仕事聞いてないぞ。あ、あいつ、金をくすねるつもりだな」


邦宏は笑いながらそう言うと、美帆が空けた缶を取り上げ、軽く口をつける。


「あ! 邦宏君、やだ、勝手に飲んで! ちょっと汚い!」

「汚い? 全く、失礼な女だな、それが年上に使う言葉か? 兄貴の教育が悪い」

「うるさい!」


美帆はそれを取り上げ、ポケットからハンカチを取り出すと、飲み口を拭き始める。


「お兄ちゃんはお金をくすねたりしませんよ。
ちゃんとみなみ先輩も書類を書いていたもの。
いいわよ、信用しないなら、ここで私がもう一度書くから」


そう言うと、美帆は書類の入っているファイルを取り出し、

自分のバッグからボールペンを取り出した。

小さなマスコットがついているペンは、動かす度に、ゆらゆらと揺れる。


「……先崎みなみ?」


比菜は荷物の片付けを終え、ソファーへ座ろうとしたが、

少し驚くような邦宏の声に、視線を向けた。






21 淋しい目


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コメント

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ええ?!

邦宏は、大和から大和の家の事情を聞いてるのかな?!

何で余計なことをしゃべった?!
って、すぐ怒る癖を発揮するのかしら~

比菜ちゃんも邦宏に康哉のことを話したように
邦宏にはみんな話したくなるのかなあ。。
優しいものねえ。

でも、大和のことが一番気になるれいもんでした♪

爆弾、地雷だらけ?

こんにちは!!

邦弘も大和のお母さんの再婚先知ってたんだ

美帆は天真爛漫というか天然というか
彼女も爆弾投下してる様な気が・・・

美帆がここにいるってことは
何か予想外のことが起こる?先崎のお母さんが来るとか・・・
そうでなくても何かやばくない?
比菜も大和の事情を知るところになる、のはまだ早い?

康哉の嘘メールの真意も気になるなぁ

***

コメわざわざお引越しして頂き、お手数掛けました
ありがとうございますe-466

お手間取らせましたが、これからもよろしくです!!


      では、また・・・e-463

大和が心配・・・

康哉はフリーワークでの仕事の事
自分と邦宏で立ち上げたように話してたのね

田舎の比菜に良い所見せたかっただけなのか
それとも、いわゆるエリートで何かと女性にも頼られる大和を
羨む気持ちが心のどこかにあったからなのか・・・

邦宏は大和の親の事情、知ってるみたいね

1人でみなみの家に向かっちゃった大和・・・
何か起こりそうで、心配だわ~



話しやすい人

れいもんさん、こんばんは!

>邦宏は、大和から大和の家の事情を聞いてるのかな?!

どこか人を信用しない大和が、信頼しているのが邦宏です。
れいもんさんが書いてくれているように、
優しいし、大きいでしょ邦宏って。

話しやすい人って、絶対にいると思うんですよ、私も。

邦宏の大きさ

mamanさん、こんばんは!

>邦弘も大和のお母さんの再婚先知ってたんだ

知っているんですね。大和の心の中を見られる男は、
この邦宏一人かも知れません。

>美帆がここにいるってことは
 何か予想外のことが起こる?先崎のお母さんが来るとか・・・
 そうでなくても何かやばくない?

あはは……あれこれ考えてくれてますね。
さて、どうなるのかは次回へ!(当たり前ですけど)


お引っ越し、全然問題ないですよ。
本当なら、書いた方が訂正出来るのが、一番いいんですけどね。

期待の展開は?

パウワウさん、こんばんは!

>康哉はフリーワークでの仕事の事
 自分と邦宏で立ち上げたように話してたのね

はい、そのようです。
比菜が、康哉にとってどんな存在だったのか、
まだまだ疑問符が多いでしょうが、これも後々わかります。

>1人でみなみの家に向かっちゃった大和・・・
 何か起こりそうで、心配だわ~

うふふ……、起こった方がいい? 起こらない方がいい?(笑)

疑問の行方

yokanさん、こんばんは!

>今回は、私の中では「?」ばかりだわ(笑)

書いている私は、あまり『?』じゃないんですけど、
みなさんには疑問がたくさん並ぶんでしょうね。

ゆっくり、読みながら納得していって下さい。

>自分の癖は自分では分からないものですね~、
 私は自分の癖が分からなくて^^;

そう、クセを指摘してもらって、初めてわかるってこと、
たしかに多いです。人のことって冷静に見られるものですからね。

康哉は大和に憧れていたのか、それとも嫉妬していたのか?
自分と大和を入れ替えて比菜に話して、東京に出てこられたら、全て分かってしまうと焦ったかな?
それで女と逃避行は無いだろうけど・・・

邦宏は大和の家族のこと知っているのかな?

邦宏君の大きさ

お久しぶりでございます。

随分すすんでたので、一気読みできました。^^

邦宏は大和の事情、みなみちゃんの事情知っているのかな?
なんでも知ってる邦宏くんってやっぱり器が大きいのね。
あの疑り深い大和も、美帆ちゃんも彼を信頼しているものね。

康哉が自分で立ち上げたと言っていたフリーワーク。
リーダーシップが取れる人たちにあこがれていたんだろうね。

さてさて・・・康哉くんは、また出てくるのかな?

ナゾが増えてる~@@

大和って優しいのか冷たいのか、自分を曝け出さないからイマイチつかみどころがないというか・・・ひとりでいろんなものを抱えてるんだろうね。

康哉を信じて待つ比菜ちゃん、彼を待ってるというより、自分を試してるのかな。
保育士への道を進むのか、進路変更するのかも含めてね。

で・・・邦宏くんって、大和の家庭の事情を知ってるの?

バナーの時計・・・どんな意味があるのかな~
ナゾが解き明かされる日を楽しみにしてます^^

比菜の思い

なでしこちゃん、さらにこんばんは!

>康哉を信じて待つ比菜ちゃん、
 彼を待ってるというより、自分を試してるのかな。

彼を待っているだけではない……
そんなイメージを持ってもらえたら。
バナーの時計の意味も含めて、
これからわかってくると思います。

邦宏は、つかめない大和を唯一、つかんでいる人なのかも。