23 弱い者いじめ

23 弱い者いじめ


邦宏がイネを乗せ、笹本家へ戻ると駐車場には大きな黒い車が止まっていた。

イネは息子の久之が来ているのだと言い、邦宏が荷物を持ちついていくと、

玄関を越えるような大声で、穂乃を責め立てている。


「お前がわがままを言うから、仲岡家から出されたんだろう」

「申し訳ありません。でも、遥香のことを考えたら、あのままじゃ……」

「何が言いたいんだ。自分の無力さを棚に上げて。
たいした話し合いもしないまま、向こうを出てきたんだろう。
いいか、この家の財産を好きに使えると思ったら、大きな間違いだぞ!」


イネの荷物を玄関に置き、邦宏はそのまま出て行こうとしたが、

腕を引っ張られ動けなくなる。


「ちょっとあがっておくれ。久之も坂本君が入ってくれば、世間体を気にして、
責めることが出来なくなるから」

「いや……その」


個人的なもめ事に入り込む趣味はなかったが、イネの切なる願いに仕方なく靴を脱ぎ、

リビングへ入っていくと、案の定、何をしに来たのだとにらみ付ける久之がいて、

その奥で下を向いたままになっている穂乃がいた。


「誰だ、君は」

「『フリーワーク』の坂本と申します。
今日はイネさんの通院付き添いを、頼まれたものですから」


ソファーに堂々とすわっている久之は、目だけを下から上へと動かし、

邦宏を品定めするかのような視線を向けた。


「病院くらい穂乃が行けばいいじゃないか。
お前、母さんに世話になっているくせに、そんなことも出来ないのか」

「いいんだよ、久之。こうしたいと決めたのは私なんだから」


イネが戻ったことと、邦宏が顔を出したことで、

テラスにいたハヤトが急に元気を取り戻し、動き始めた。

久之はソファーの真ん中に座ると足を組み、立っていた穂乃にあごで合図をする。


「『フリーワーク』っていうのは何ですか。
名前から言ったらなんでも屋ってことなんですか?」

「はい。そういったところです」

「なんでも屋か……」


そう言った久之の視線は、職業差別とでも言いたげなものだった。

リビングの隅から、キッチンの方へ動いた穂乃に付いていくように遥香が後を追う。


「いい加減にしなさい!」


その時、キッチンから聞いたことのないような穂乃の叫びが聞こえ、

続けて遥香の泣き声が響きだした。ソファーに座る久之は、迷惑だとばかりに嫌な顔をし、

真ん中に立つイネはどうしたらいいのかとおろおろする。

それぞれが自分の置かれている立場に立つのが精一杯で、誰も遥香のことまで、

気持ちが回らないように見えた。


「イネさん、ハヤトの散歩、行って来てもいいですか?」

「あ……あぁ、そうだよね」


邦宏は部屋の隅を通り玄関から出ると、テラスにいるハヤトにすばやく鎖をつけた。

こんな場所にいることも嫌だったし、いても意味がないこともわかっていた。


「遥香ちゃん、ハヤトの散歩に一緒に行こう!」


リビングの隅の柱に寄りかかって泣いている遥香に、邦宏がそう声をかけると、

真っ赤になった目をこすりながら、遥香はコクンとうなずいた。





「ママも疲れちゃったんだよ、きっと……」

「うん……」


邦宏は、住宅街を抜けた川のサイクリングコースを歩きながら、遥香にそう話しかけた。

離婚をした理由も、笹本家の事情も知っているわけではないが、

あんな声を出す、穂乃の精神状態が乱れていることは明らかで、

初めて見た時の優しい雰囲気を思い、邦宏は切なくなる。

ハヤトはいつも水遊びをする小川に向かって、一目散に走っていく。

それを見た邦宏と遥香は、芝生の上に並んで座った。

日差しは柔らかく、泣いていた遥香の涙あとを、ゆっくりと乾かしていく。


「ママね……いつも泣いてたの」

「ん?」

「ママね……おうちでいつも泣いてたの」


遥香の言うおうちとは、離婚する前に住んでいた家のことなのだろう。

小学校に上がったばかりの子供に、そんなことを言われてしまい、

邦宏はどう答えていいのかわからなくなる。

仕事をしていると、その家の環境が見たくなくても見えることがあり、

個人的な感情を入れてしまうことは避けてきた。

しかし、威圧感のある男の態度を、ただ認めることが出来ず、邦宏は遥香に問いかける。


「どうして泣いてたの? ママ」

「……パパがね、おうちに帰ってこないから」


何も知らないハヤトは、小さな川に足を入れたり出したりしながら楽しんでいて、

遥香はそばに咲く、小さな花を摘む。


「久おじさんは、パパには優しいのに、ママにはすぐ怒るの。
ママ、何も悪いことしてないのに、すぐに怒るの……」

「そうか……」

「ママ……かわいそう」

「うん……」


何も悪いことをしていないのに、怒られる自分の母親と、

離婚原因を作ったのは向こうなのに、責められる穂乃が重なり、

邦宏は思わず空を見上げた。






24 笑う男


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コメント

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あんた、何様?


こんにちは!!

厭ーな状況に出くわしちゃいましたね

子供のいる前なんだから、もっと考えなさいよ
久之~、外に聞こえるほど怒鳴らなくても・・・

邦弘の仕事のこともバカにしてるようだったけど
あんたはそんなに偉いんかい!
感謝されても、バカにされる謂れはないと思う

邦弘が犬の散歩に連れ出してくれてよかったけど
遥香ちゃんも小さい胸を痛めてつらいだろうね

依頼人の家の中の事だから
口を出すわけにもいかないけど
見て見ぬふりもできない?


    では、また・・・e-463

あんた、何様?②

大きな声で怒鳴る男にろくなのは居ない。
職業で判断するって・・・
イネさんも居た溜まれないだろうね。自分に家の恥を見せてしまったようで。

幼い遥香まで心痛めて、邦宏もなんと言ってあげていいのか分からないね。

その家その家で事情はあるでしょうが、長男がそんなだと纏まる話も纏まらない気がするな~。

嫌なヤツ

mamanさん、こんばんは!

>邦弘の仕事のこともバカにしてるようだったけど
 あんたはそんなに偉いんかい!

嫌なヤツですけど、実際の世の中にもこういう人
いるんですよね。
人のことを聞くときに、『職業は何?』って聞くの。

まぁ、聞きたくなかった、知りたくなかった笹本家の事情。
これが邦宏にどういう影響を与えてくるのか……は、
さらに続きます。

子供はダメだよね

yonyonさん、こんばんは!

>幼い遥香まで心痛めて、
 邦宏もなんと言ってあげていいのか分からないね。

子供が悲しい顔をするのは、聞いていて嫌なものですよね。
離婚して戻ってきた穂乃親子なのですから、余計に。

久之にも大きな声を出す事情があるんですけど、
それは邦宏には、理解できないことなんですよ。
その辺も、これから……です。

邦宏の心

yokanさん、こんばんは!

>遥香ちゃんがかわいそうだね。
 小さくても、しっかりとお母さんのことを
 見てるんだわ~(TT)

父親が子育てに興味なし! の家だったようです。
余計に母との時間だけが増えて、遥香も小さな胸を
痛めています。

知ろうとしたわけではないのに、知ってしまった邦宏。
これから、どう動くのか、追いかけてやってね。