24 笑う男

24 笑う男


3度目の訪問で、大和のモデル仕事が終了し、美帆を交えて初めてお茶を飲んだ。

今までなら用事があると言い、3人でいることを避けてきたが、

最後だと思い残ってみることにした。しかし、二人は学校の教師の話題や、

共通の友人の話題で盛り上がるが、大和には何も話題はなく、ただじっと部屋の中にいる。


「お兄ちゃん、大学の展覧会行くでしょ?」

「ん? あぁ……」


みなみは大和の返事が、退屈そうに思えたのか、戸棚の引き出しを開け小さな袋を出し、

キッチンから手の付いた紙袋を持ってきた。


「これ、たいしたものじゃないんですけどお礼です。ありがとうございました」

「いや、それは……。ちゃんと仕事として受けたわけだし」

「いいえ、気持ちだけ」

「はい、気持ちだけ……」


みなみの気持ちを、それ以上拒絶する理由などなく、大和は、

横から取ろうとした美帆の手をはたき、紙袋を受け取る。

盛り上がる二人を残し電車に乗り、その小さな包み紙を開くと、

ハンドタオルが入っていて、小さな手紙も添えられていた。

自分には兄や姉がいないため、美帆がうらやましかったこと、

短い間だったが楽しく出来たこと、これを縁に、また困ったときなどには

相談に乗って欲しいというような内容が書かれていた。


「兄はいない……か……」


大和は何も知らないみなみに、これ以上近づくべきではないのだと思いながら、

電車に揺られ続けた。





「ほぉ……どうでしたか? もう一人の妹との数日間の再会は」

「何も感じなかったな。自分は一人っ子だって信じているし、
今更、それを否定するようなことを言うつもりもないし」

「そうか、それはそうだな」


大和が事務所へ戻り紙袋を開くと、その中身はみなみが作ったクッキーが入っていて、

テーブルの上に広げると、邦宏はひとつ、ふたつとつまむ。


「……この間、あの人を見かけたんだ」

「ん? お母さんか?」

「あぁ、彼女のところに来たらしくて、すれ違いになった。
反対側のホームに立っているのを見ていたら、無性にもう一度問いかけたくなったけど、
走り出したとたん、美帆の顔が浮かんだ」


みなみが自分のことを兄だと知らないように、美帆も知らないことがいろいろとある。

自分の父親がどんなふうに生きてきたのか、知りたくないかもしれない。


「そんなことを知っても、全て……今更だ」

「大和、親だって一人の人間だ、誰のことも考えられずに、
行動してしまうことだってあるんじゃないのか。お前には貴恵ちゃんがいる。
振り返らないで前を見ろって。今、お母さんに過去のことを謝罪されたって、
何か変わる訳じゃないだろう」

「……そうなんだろうな、本当は」


大和と邦宏はそれぞれの方向を向きながら、外を走っていく車の音を聞いた。





それから2日後、大和は『サイクル』の社長に呼び出され、昼過ぎに会社へ向かった。

いつもなら席に座り、軽く頭を下げ出迎える貴恵の姿はなく、

代わりに社長の息子だという男から、挨拶を受ける。


「いつもお世話になっています。城所晃です」

「あ……『フリーワーク』の高杉です」


城所社長の息子は、関西の大学を出た後、何年か大手の企業に勤め、

そして今月から『サイクル』の仕事に携わることになったのだと、

嬉しそうに社長から説明を受ける。

どこか自信たっぷりの表情は、なかなか実力もある男なのだろうと、想像が出来た。


「やっと本腰を入れて、家業に取り組むことになりそうです。
私にも色々と教えて下さい」

「いえ、僕が教えることなど何も……」

「高杉君、これなんだよ、ちょっと見てくれるか?」

「はい……」


社長の説明を受けながら、ホームページの確認をしていると、

外へ出かけていた貴恵が戻ってきた。すぐに大和に気づき、荷物をデスクに置くと、

いつものようにコーヒーを入れようと準備を始める。


「あ……山根さん、僕にも」

「……はい」


会社の隅にある、小さなキッチンへ向かう貴恵の後をついていくように晃は姿を消した。

何か話でもあるのだろうかと、大和の視線がスーッと流れる。





貴恵が手際よくカップを取り出し準備をするのを、晃は入り口の壁に寄りかかり、

じっと見る。貴恵はその視線を感じながら、少し濃いめにしたコーヒーに、

ティースプーン半分くらいの砂糖を、素早く入れた。


「あの……部長はどうされますか?」

「僕はブラックです」

「はい……」


貴恵は返事をしただけで、作業を続ける。


「ここへ来て2週間になりますけど、山根さんには僕の好みはまだ、
憶えてもらえてないんですね、1ヶ月に一度くらいしか来ない高杉さんのものは、
流れるように作るのに……」


少し意味深に取れるセリフを聞き、一瞬貴恵の動きが止まる。


「すみません、これから気をつけます」

「あはは……冗談ですよ。でも、こんなふうに言うと、きっと忘れないでしょ」


晃の笑い声は、PC前で作業をする大和の耳にも届くくらい大きかった。

貴恵が一緒にいることがわかっているだけに、つい気になり目が動いてしまう。



「全く、晃は笑い声が大きくてね。隣で電話なんかされると、
話が聞こえないときがあるんだよ」

「……そうですか」


貴恵は、晃がそばに立っていることに違和感を感じ、軽く視線を動かした。

迷惑そうな表情の貴恵に、晃はわかりきったことを聞き返す。


「ここで見ていたら、迷惑ですか?」

「いえ……」


貴恵は、見られていて気分がいいわけではないが、

立場上、強く出られずにそう答えてしまう。


「すみません、色々と興味があって……」


晃はそう言うと、貴恵の前からコーヒーの入った自分のカップを取り、席へ向かった。






25 弱者の微笑み


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コメント

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新しい男@@

またまた新しい人物登場ですね@@
ちょっとやな感じ~
でも、この男のおかげで大和は愛を見つけるのか?!

大和の複雑なところを邦宏は全部受け入れてくれてるんですね。
大和も心から安心して話せる相手のようだし。
よかった♪そういう友達がいて。。

横恋慕?あり

  こんにちは!!

フフフ…なにやら嵐の予感が
ない?

御曹司は貴恵さんに目を付けた?
大和は心中穏やかならず・・・
仕事ミスるなよ!そんな心配は無用か

大和のバイト(?)も終わってこれでお母さんとの関わりは切れた?
また後でみなみが関わってくるのかな
お手紙もあったし・・・

     では、また…e-463

お礼の気持ち・・・

おお~又新しい人物の登場ね!

・・・前回の大声で怒る男も嫌な奴だったけど
今回の大声で笑う男も何だか嫌な感じ。。。

単に貴恵ちゃんに興味があるだけなのか
大和を意識しての事なのか・・・

どっちにしても本当に出来る男なんだったら
女子社員なんかにかまってないで
さっさと仕事しろ~~

モデルの仕事は無事!? 終了したのね^^

だけどみなみからのお礼の手紙・・・
>また困ったときなどには相談に乗って欲しい
これってちょっとヤバクナイ?
って思った私は考え過ぎかしら?

兄妹・・

大和にチュンサンを重ねてしまった。全然違うのに・・・・
知らなくていいことを、あえて知らせる必要は無い。
大人の考えだ。

新人登場で俄かに大和周辺が騒がしくなりそうな予感。

気が有るそぶりを見せますね晃さん。 貴恵が大和と関係があることを
鋭い嗅覚が嗅ぎつけかな??

社長の息子さん

れいもんさん、こんばんは!

>またまた新しい人物登場ですね@@
 ちょっとやな感じ~
 でも、この男のおかげで大和は愛を見つけるのか?!

すみません、また登場人物が増えてしまって。
でもね、れいもんさんの思うとおり、
彼の存在が、大和と貴恵をかき回すことは
確かでございます。

大和にとって邦宏の存在は、とっても大きなものなんです。
また、それを語ってくれるところが、
後々出てきますけどね。

御曹司、晃君

mamanさん、こんばんは!

>フフフ…なにやら嵐の予感が
 ない?

……うふふ……ある!

そう、御曹司晃君は、貴恵ちゃんに目をつけたのです。
どんなふうに、二人の間に割り込むのか、
それはこれから……ですよ。

大和とみなみ達との縁……
さて、切れたのか、切れてないのか(笑)

大きな声の二人

パウワウさん、こんばんは!

>・・・前回の大声で怒る男も嫌な奴だったけど
 今回の大声で笑う男も何だか嫌な感じ。。。

いいところに気付いてますね、さすがパウワウさん。
そう、『大きな声』を出している二人。
雰囲気は違いますけれど、どちらも自分に自信がある人です。

さてどんな影響を、及ぼしていくのか……

みなみからの手紙
大和は妹だとわかってますけど、向こうは知らないですからね。
この辺もまだまだ、これからなのですよ。

愛されない理由

yokanさん、こんばんは!

>謝罪の言葉というより、
 自分を捨てた理由を知りたいんだろうね

大和にとってみたら、そこなんでしょうね。
結局、別の人と結婚して、子供が産まれている。
自分は育ててもらえなくて、みなみは愛されている……

この辺の理由を、彼が知る時は……
来るのかどうか。
それよりも前に、別の嵐が来るのかどうか。

まだまだお付き合いよろしくです!

淋しい目の人

yonyonさん、こんばんは!

>大和にチュンサンを重ねてしまった。全然違うのに・・・・

あぁ、そうだ……と、私も思ってしまった。
書いている時には、意識してませんでしたけど。
親の理由で、振り回された子供ですからね。
淋しい目をしていたはず……。

邦宏に、貴恵の方を向けと言われて、納得した大和ですが、
そこに自信たっぷりの晃登場。
はたして……