27 運命のいたずら

27 運命のいたずら


貴恵は待ち合わせ場所をメールで送信し、時計を確認した。

以前、大和が部屋へ来た時、雑誌に付箋を貼っていたのは、結婚に関する記事で、

いつもはぐらかされる気持ちの方向を、確認してみたいとそう思っている。


「山根さん、今日、空いてない?」

「すみません、今日は……」

「そうか、何人かで飲みに行こうかって言っているんだけど、デート?」


お茶の片付けをしている貴恵に、そう話しかけたのは晃だった。

社長の息子であるという自信からなのか、何の躊躇もなく人を誘う態度に、

貴恵は驚きながらも、立場を考え強く出られずにいた。


「待ち合わせは何時? 少しだけでもこっちに参加しない?」

「いえ……すみません」

「そう……」


誘いを断るのは初めてではなかった。強引な態度に貴恵は何度も携帯を開き、

大和の返信を待つ。オルゴールの音が聞こえ、そばに置いてあった携帯をすぐに取り、

メールを確かめた。



『ごめん、ちょっとトラブルがあった。今日は無理』



期待して待っていた返事は、1行しかない簡単なものだった。

気持ちをそがれた貴恵は、大きなため息とともに携帯を閉じる。


『フリーワーク』の仕事が、時間通りに動かないことは理解しているつもりだった。

今までもこんなことは何度かあったし、それは仕方のないことだと思い続けてきた。

しかし、つきあって半年が経つのに、貴恵は何も大和のことを知らないような気がして、

不安な気持ちが増していく。


何度、体を重ねても、心はそばにいてくれない気がして、

貴恵は席に座ったまま、ファイルに書類を閉じた。

別に今やらないとならない仕事ではなかったが、すぐに家へ帰る気持ちになれず、

やることを探しながら残っていると、就業時間はすでに過ぎていて、

時計は7時を回っていた。


ふと視線を前に向けると、斜め前の方でじっと腕を組んだまま

席に座っている晃に気づく。.


「……仕事、終わりですか?」

「あ……、あの、どうしてここに」


営業部の何人かと出かけると言っていた晃の姿に、貴恵は慌てて帰り支度をし始める。


「山根さんが行かないから、僕も辞めました」

「……エ?」

「今、ここで話をしてもいいですか?」


真剣に自分の方を向く晃の目に、貴恵は帰り支度をしていた手が動かなくなった。





その頃、大和は貴恵の心を全くわからない状態で、事務所内の片付けを全て終了し、

バイト達にサインをさせた。彼らに頼んだ仕事の内容はここまでで、

これから先の作業を手伝わせるわけにはいかない。

比菜の時計探しは、あくまでもこっちの問題だ。


「ここにあるゴミ袋を、1つずつ開けながら探していろよ。
俺も業者との話が終わったらやるから」

「いえ、いいです。これは私のミスですから。一人で……」


比菜は自分の責任だとコメントしようとしたが、大和の目に止められる。


「くだらない意地を張るな。お前一人で取り組んだら朝までかかるかもしれないぞ。
そんなことをしていたら、間違いなく警備に止められる」

「……でも……」


エレベーターの音が鳴り、大和は比菜を給湯室の前に残し、業者の方へ行ってしまった。

それ以上、何も言えるはずもなく、比菜はゴミ袋を1枚ずつ広げ、

時計がないかを確かめる。

自分が無くし物などしなければ、このゴミは全て下へ運ばれていて、

作業時間も短縮できたのにと、迷惑をかけてしまったことが悔しくなり、

紙くずを叩きつけるように袋へ戻した。





会社から少し離れた店だったが、中へ入るのは初めてだった。

店のライトに光るワイングラスが2つ、テーブルに運ばれ、

貴恵はそれを目の前に置き、注がれていくワインを見続ける。


「すみません、結局強引に誘ってますね。おそらく僕が社長の息子でなければ、
無視して帰りたかったんでしょうけど」

「いえ……そんな」


事務所に残っていた貴恵に晃が問いかけたのは、取引業者とのことだった。

長い間、同じ契約をしているものの、晃はその契約に、無駄があると思っていた。

晃の話を真剣に聞き続けた貴恵は、待ち合わせがキャンセルになったことを見透かされ、

結局、二人で食事に来ることになる。

確かに社長の息子という立場も無視できなかったが、

この男がどんなことを考えるのか、聞いてみたい気もした。


「僕は、父親の事業を継ぐ以上、色々なことに積極的に取り組んでいこうと思っています。
責任を取らないとならない立場ですし、だからこそ、中途半端にはしたくない。
生意気だと言われても、出なければならないこともあると、思っているので……」

「出なければならないこと……ですか?」

「はい、1度や2度の付き合いで終わるものなら、そんなことはしません。
適当にあわせて、そこだけを乗り切ればいい。
でも、これからの長い時間を考えると、妥協するようなことはしたくないんです」


晃はワインに軽く口をつけ、広がる香りを楽しむように飲むと、

少し笑みを浮かべ貴恵の方を向く。


「山根さん、せっかくこういった場を持てたんだ。立場を意識しないで話して欲しい」


貴恵がその告白に驚き視線をあげると、晃の表情にどこか余裕を感じ、

気付くと自然にコクンと首が動いた。





業者との交渉を終えた大和が、比菜と一緒に時計を探し始めて少し経った時、

会社の窓から見える、電光掲示板の時計が9時を過ぎた。

本当なら今頃、貴恵と食事をしていたはずだったが、

まだ、袋の中身は半分くらいまでの確認状態で、比菜の時計も見つからない。


「なんの時計なんだよ、いったい……」


大和の予定を狂わされた気持ちが、言葉になって口から飛び出した。

比菜はすみませんと謝りながら、また新しい袋を開く。


「祖父の形見なんです、震災で亡くなった……」


大和は、袋からゴミを出す作業を止め、悔しそうにする比菜の方を向いた。






28 受話器の向こう


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コメント

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気になることが気になることを呼ぶ

  こんにちは!!

 貴恵さん大丈夫かな?
大和の心をつかみ切れていない心の隙間に
スルリと入り込んできた横恋慕御曹司
ただのアホぼんじゃないみたいですね

大和~、貴恵さんの危険がアブナイ(>_<)

比菜の時計はほんとに大切なものだったのですね
故郷に帰りたくない理由は
仕事にあると思ってたけどそこにあるの?

心配、気になることだらけです

      では、また・・・e-463

ああ~、すれちがい。。

大和と貴恵ちゃんのすれ違い。。危険ですね。
大和の心がつかみきれない寂しさの瞬間をつかれちゃいますよ~御曹司に。。

大和、どうする。。

どちらにしても、大和が真実の愛をつかんでくれればいいと私は思ってます。

貴恵ちゃんでなくても、それが比菜ちゃんでも♪
それはないのかな~と、つぶやいてみる(笑)

比菜ちゃんの事情も見えてきました。
あのときのまま止まった時計なんですよねT_T
見つかるといいなあ~
大和くん!見つけておくれ~

見つかるよ

改めてももちゃんのお話の引張りには参るな~~
???の疑問だらけで、次はどうなるの?と気が気じゃ無くなる。

貴恵が知らない大和の心、でもちゃんと聞かなかったのでは?
そして自分も大和には知ってもらってないのでは?
御曹司晃、なかなか手ごわい奴かも。

比菜ちゃん、本当に大事なものだったんだね。
きっと見つかる、大和が意地でも見つけると思う。

心の行方・・・

雑誌に貼られた付箋にはそんな意図があったのね

一緒に居ても掴みきれない大和の心
・・・でも貴恵ちゃん自身も大和に自分の心をさらけ出す事は出来てなさそう

そしてそんな貴恵ちゃんにじわじわ近づく御曹司!
ただのぼんぼんじゃなさそうな所が
かなり危ない!

比菜ちゃんがなくしたお祖父ちゃんの形見の時計
どうか見つかりますように。。。

すれ違いのタイミング

貴恵さんと大和はすれ違っちゃったんだね。
それが比菜ちゃんの時計事件とは・・・
きちんとした事を伝えていればまた貴恵さんの不安はぬぐえたかもしれないのに・・・

そこでまた出てくる運命のいたずらか・・・御曹司
御曹司のちょっと芯のある話にもついつい引き込まれちゃいます。
貴恵さんの動揺している姿が・・・危うし!!

大和は大和で比菜ちゃんが気になる様子で
運命のすれ違いって、タイミングが関係あるんだなぁ。

危険だ、危険!

mamanさん、こんばんは!

>大和~、
 貴恵さんの危険がアブナイ(>_<)

このmamanさんの叫びが、
とってもグー! です。

そう、御曹司はただのアホぼんじゃ
ないんですよ。

比菜の探している時計から、
彼女の秘密も、これから明らかに。
さて、大和は……

気になるところ、たくさんのまま、
まだまだ、どんどん、続きます!

大和君、ガンバレ

れいもんさん、こんばんは!

>どちらにしても、大和が真実の愛をつかんでくれればいいと私は思ってます。

れいもんさんの大和くん贔屓。
ご意見、確かにちょうだいしました。
貴恵とのズレ、修正するのか
それとも別の道を選ぶのか……

それはまだ、続くのであります。

比菜の時計

そう、『あのとき』のままなのです。
そこら辺の事情は、次へ続きます。

色々なタネがありますよ

yonyonさん、こんばんは!

>改めてももちゃんのお話の引張りには参るな~~
???の疑問だらけで、次はどうなるの?と気が気じゃ無くなる。

?だらけですみません。
最初にお話した通り、人は多いし、謎も多い。しかし、ちゃんと解決していきますからね。
放りっぱなしにはしない予定……です!

yonyonさんの書いてくれているように、貴恵は晃の登場で、何かに気付いていくことになります。

それは大和にとって……

と、ここら辺まで。

比菜の時計から、彼女の過去も
明らかになりますよ。

貴恵ちゃんの心

パウワウさん、こんばんは!

>雑誌に貼られた付箋にはそんな意図があったのね

そう、貴恵の女心です。
自分の気持ちと、相手の気持ちの温度が一緒なのかどうか、気になっています。

そう、でも貴恵も
全てを出しているとは、言えないんですよね……。
でも、自分のことは気付きにくい。

そこらへんも気になりますが、
まずは、比菜の時計から、
彼女の過去を、知って下さいね。

御曹司の器

tyatyaさん、こんばんは!

>御曹司のちょっと芯のある話にもついつい引き込まれちゃいます。

そうなんですよ。
この御曹司、金持ちにあぐらをかいている男とは違うようです。

この大和と貴恵のすれ違いは、
逆に絆を産み出すのか……
それとも、さらにずれていくのか……

は、これから続きます。

意外に出来る男

yokanさん、こんばんは!

>これはやばいんじゃ~ないですか(ーー;)社長の息子、意外とシャンとしてそうだし、
これからの会社のことも考えてそうだし・・

そう、思っていたよりも、この御曹司、おかしな男じゃないでしょ(笑)。
だからこそ、貴恵も戸惑うわけですが。

さて、大和と貴恵のズレは、新しい絆へ向かうのか、それとも……

比菜の過去、邦宏の想いなどど同様に、追いかけてね!