31 動き出す想い

31 動き出す想い


邦宏は勢いよく坂道を下り、笹本家へ向かった。

電話をかけてきたのはイネで、倉庫のものを出そうとして、

大きなツボを頭にぶつけたというのだ。とりあえず家で休んでいるが、

出してしまった荷物を中へ入れなければならずに、困ってしまったらしい。


「イネさん、俺だけど」

「あぁ、坂本君、こっち、こっち」


靴を脱ぎリビングへ向かうと、おでこに濡れたタオルを乗せたイネが横になっていた。

すぐに救急車を呼ぼうかと言うと、そこまでじゃないと拒絶される。


「悪いけどさ、出した荷物を中へ納めてくれないかね。
夕方から雨だって予報が出ていたし、ちょっと取ろうと思っただけなのに、
こんな大事になってしまって、嫌になるよ」

「穂乃さんは……」


邦宏が姿を見せると、嬉しそうに顔を出す遥香の姿も見えなかった。


「急に、父親から連絡が入ったんだ。ちょっと話があるって。
全くさぁ、自分が愛人作って別れておいて、その女の子供がダメになったらしい。
手放した遥香がもったいなくなったんじゃないのかね。冗談じゃないよ」

「そう……」


邦宏は、二人がいないことに、どこかほっとしたような、少し寂しいような気分になる。

庭にいたハヤトは、邦宏の登場に、散歩ではないかと首輪を口にくわえた。


「ハヤト、今はダメだよ。片づけが先」





邦宏の周りで嬉しそうに跳ねているハヤトをからかいながら、片付けは順調に進んだ。

作業も終盤に入り、ダンボールを奥に詰めていると、後ろからかわいい音が響く。


「坂本さぁ~ん」


邦宏が来ていることを知った遥香が、肩にポシェットをかけ、

かわいらしいワンピース姿で、嬉しそうにかけて来た。

邦宏はこんにちはと笑顔で答え、合図のように遥香と両手を合わせる。


「ママとね、お土産買ってきたんだよ。坂本さんが大好きだって言っていたドーナツ。
並んで買ったんだよ。ねぇ、一緒に食べよう」

「ドーナツ?」


テラスには穂乃が立っていて、視線をあげた邦宏に向かって会釈をした。

邦宏は同じように挨拶をし、穂乃が穏やかな表情を見せてくれたことに安心する。


「ママとね、『フリーワーク』に持っていってあげようってたくさん買ったから!
ねぇ、行こうよぉ」

「うん……」


強引な遥香の言葉だったが、握られた手のひらを離すことが出来ずに、

邦宏はそのままリビングへ入った。





大和が事務所に残り、貴恵にメールを打っている頃、

邦宏はイネに呼び出されて笹本家にいた。

そして比菜はコンビニのバイトを終え、夜の店を準備する『とんかつ吉田』へ急ぐ。


「こんにちは」

「あ、比菜ちゃん。早いじゃないの、いいよまだ。奥で休んでな」

「はい……すみません」


時間が少し空いた時には、奥の部屋で比菜は仮眠を取ることもあった。

事務所を住まいとして借りているものの、時間に追われていて、

じっくり休めないときもあるからだ。


「どう? どこかいいところあった? 保証人なら叔父さんでも叔母さんでも
なってあげるから心配しなくていいよ」

「ありがとうございます。『フリーワーク』のあるマンション、空き部屋がないかどうか、
不動産屋さんに一応聞いているんですけど、結構、入れ代わり少ないんだって」


比菜はあの同じマンション内で、部屋を借りられないかと考えた。

駅までの距離もそんなに長くはないし、バイト先のことを考えてもロスが少ない。


「みんなやたらに引越ししない世の中事情なんだろうね。比菜ちゃんが男の子なら、
うちに下宿させたいところなんだけど、そうも行かないし……」

「お言葉だけで、十分です」


比菜はそういうと、軽く二人に頭を下げ、奥の部屋へあがった。

おかみさんである和子は、比菜用のお湯飲みまでしっかり用意してくれていて、

まずは1杯お茶を入れる。


「ねぇ、比菜ちゃん。ちょっと聞きたいんだけどさ。靖史、近頃仕事してる?」

「仕事? 『フリーワーク』のですか? えっと……、どうだろう。
坂本さんか高杉さんに聞けばわかると思うんですけど、何か?」


清太郎と和子は顔を見合わせ、和子は三角巾を頭からはずすと、

比菜のいる奥へと、あらためて顔を出す。


「なんだかさ、出前に行くと時間が長いんだよ。
前なら20分くらいで戻ってこられたところなのに、40分、いや、
50分近くかかっていることもあって。一応ね、聞いては見るんだよ、
どこで何してるのよって、でも、ハッキリ答えないんだよ……」

「おぉ! 女でも出来たんじゃないかって、母さんには言ったんだけど、
そんな感じじゃないんだってうるさくてさ。比菜ちゃん、何か知らないか」

「うーん……」


初めてあのマンションに顔を出した時から、靖史に対してそんなに強い印象を

持ったことはなかった。自分をどんどん前へ押し出すタイプでもないし、

大和のように強い口調で、自分を責め立てることもない。

かといって、邦宏のように、大きく包み込んでしまう余裕も感じられない。


「ちょっと勤務表、見てみます」

「邦たちには内緒にしてね。靖史に余計なことを言われて、ケンカになると嫌だからさ、
あ、もちろん靖史にもね」

「はい……」


比菜はそう返事をすると、湯飲みに入れたお茶を、おいしそうに飲み始める。

和子はいただいたお菓子があると、棚から何やら包み紙を出し、

比菜は和子の湯飲みを取り出すと、同じようにお茶を入れた。






32 土の匂い、恋の風


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コメント

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ブルドックは増え続ける・・・?


こんにちは!!

 今回はフリーワークのみんなの周りが
一気に動き出したって感じですね

穂乃さんは元旦那となにをはなしたのかしらね
おばあちゃんの言う通りなら虫がよすぎるよね

邦弘のホッとしたような寂しいようなは
ラブが芽生えてきてる・・・を期待してしまいます

 靖史はやさしくておとなしそうな感じですが
何を隠しているんでしょうね
次からはその彼にスポットが当たるのかな?


    では、また・・・e-463 

私ったら・・・

イネさんには邦宏が何より頼りになる存在なんだよね。
長男よりも(^^;)
穂乃は幾つかな?遥香もいるから、邦宏と♡にはならないのかな?希望はなったらいいな、です。

存在を忘れていた靖史・・・何かあったか?

大和は貴恵と順調?うーーんなんとなくだけど・・
ボンボンと上手くいって欲しいような。。(嫌な奴です、私って)

点と点が集まって

mamanさん、こんばんは

>今回はフリーワークのみんなの周りが
 一気に動き出したって感じですね

はい、ありがとう。
ここから10話くらいの間に、その後の展開が見えてくるのではないかと……思いますよ。
小さな点が、だんだん集まってきている状態です。

邦宏の気持ちも、靖史の気持ちも、クロスしながら進みますので、
相関図を確認しつつ、これからもおつきあいお願いします!

イネさんの心


yonyonさん、こんばんは

>イネさんには邦宏が何より頼りになる存在なんだよね。

そう、長男よりもね(笑)
おそらく、久之がどんな状態なのか、イネはちゃんとわかっていて……で、
と、ここらへんはあまり語らずにおきます。

>存在を忘れていた靖史・・・何かあったか?

あはは……ダメだよぉ、忘れないで!
みんなの動きがクロスして、一つの話になります。

大和、邦宏、靖史、そして姿の見えない康哉
ここから10話くらいの中で、展開が見えてくるのではないかなぁ……

穂乃さんの心

yokanさん、こんばんは

>穂乃さんや遥香ちゃんが穏やかな顔で戻ってきた一安心^^
 でも、話の内容が気になる(;一_一)

穂乃はこれで、何かを決めたようです。
何を決めたのかは、ここでは語れません(って、こればっかりだ)

靖史の秘密は、次回、明らかに