41 トライアングル

41 トライアングル


靖史はバイクをいつもの場所に停め、ヘルメットを脱ぐと店の中に入った。

隅の椅子には伝票の数字を追いかけている亜紀が座り、靖史に気がつくと笑顔を見せる。


「吉田さん、いらっしゃい」

「亜紀さん。あのお皿、うちで買い取ります。ちゃんと使い道もあったし」

「エ……」


靖史が言っているのは、先日、急に持ち帰って清太郎とケンカになった皿のことだった。

実は、別の店から注文を受け作ったものだったが、急にオーナーが店をたたみ、

行方不明になったのだ。そのキャンセルされた商品が店の隅にあり、

靖史はそれを見つけ、自分の店で買い取ると言い出した。


「いいんです、あれは。父も、使ってもらえるのなら、
代金はもらう必要はないってそう……」

「そういうわけにはいかないよ。あれだけの数をタダで渡したら、
どれだけ『彩夢』が損をするのか。あれくらいなら買い取れるし、
うちも、目先を変えられていいと思うんだ」

「でも……ご迷惑ですよ。あれは別の注文で作ったし、それを押しつけるようなこと。
もし購入してもらうのなら、きちんとお店のご意見を取り入れて……」

「いいんです。気にしないでください。それより、この間の提案どうでしたか?」


靖史は、亜紀の辛そうな表情を変えようと、話題を別の方向へ変えた。

心の中に確かに出来た芯の思いに、靖史は後悔するまいと、戸惑う亜紀を見ながら、

そう心に誓った。





その頃比菜は、新しく借りることになった部屋で窓ガラスを拭いていた。

三枝さんからもらったテレビを邦宏に運んでもらい、

岡山から持ってきたカバンを上へ持ってきた。こっちへ来てから買った物は、

一組の布団だけで、この掃除が終わったらそれも移動する。


「あ……来た」


1台の軽トラックを運転した邦宏が、事務所の前で止まり、

その荷台には冷蔵庫と掃除機、小さなタンスが乗っている。

比菜が新しい生活をすることを知った信恵が、ホステス仲間に声をかけ、

使わなくなったものを譲ってもらったのだ。

それを取りに向かったのは、その日、事務所に残っている邦宏だった。


「坂本さん、すみません」

「ひよこちゃん! 手伝うから」

「信恵さん……あ、大ちゃん」


軽トラックの助手席には、大を抱いた信恵が座り、窓を開けると、

待っていた比菜に手を振った。


「全く、アリスがどうしても来たいって言うから連れてきたけど、
お前、大なんか連れてたら、邪魔なだけじゃないのか?」

「失礼ね、邦ちゃん。大ちゃんがいたって、手伝いくらい出来るわよ」


信恵が大を抱いたまま車を降りると、比菜を見つけた大は、嬉しそうに声を出した。

比菜は信恵から大を受け取り、ほっぺにキスをする。


「大ちゃん、新居へようこそ」

「ねぇ、ひよこちゃん。大和はいないの?」


信恵は、この間怒ったまま飛び出したことを気にしていた。

それを聞いた邦宏は、掃除機を信恵に手渡す。


「大和は今頃、自分のヌードを見て、口をポカンと開けてるよ」

「エ……何? 何よ、ヌードって……。どこで脱いだの?」

「なんだよアリス、お前見たいのか?」


事情を知っている比菜は、その邦宏の言葉に少しだけ微笑み、

大を信恵に戻すと、掃除機を部屋へ運ぶために階段を上りだした。





大和は落ち葉の道を、駅からまっすぐ歩きながら、すれ違う人の顔を何度か見た。

大学が近くなる雰囲気を感じ、ポケットからチケットを出す。

みなみから渡されたチケットには、送り主の名前を記入する箇所があり、

受付で回収されるようになっていた。

とりあえず、このチケットさえみなみの元に戻れば、

自分の任務は全て終わるのだと、大和は歩きながら考える。

自分の母校以外の大学に入っていくことは初めてで、

チケットの裏に書かれていた地図を頼りに、作品のある展示室を目指した。


『芸術展覧会』と称されたイベントでは、野外ステージが設けられ、

フルートを吹く学生が3人並んでいる。リズムを軽く足で取りながら、

目を時々合わせ、今流行の音楽をアレンジした形で披露した。


みなみの作品が飾られている場所は、一番人の出入りが多そうな建物の中だった。

外へ出ていく人達と重なり、大和は廊下の隅を歩く。

美帆と同じ制服に身を包んだ付属の学生も中に入っているらしく、

時折、笑い声が聞こえてきた。


人が集まっている場所へそのまま足を進めると、

何度か見せてもらったみなみの作品が視界に入る。

確かに、モデルをしていた時、見たものと比べると、

肌の色が深みを見せていて、絵に奥行きも感じられた。

みなみが自分の異母兄妹でなければ、こんな仕事を引き受けることなどなかったが、

結局、名乗るわけにもいかず、どうしようもない時間の流れを感じただけの再会だった。

大和は自分が作品としてみなみの元に残るのかと思うと、少し複雑な気分になる。


「あ……すみません」

「いえ……」


大和が少し左へ動くと、隣で見ていた人と肩がぶつかり、すぐに謝った。

相手の人もすぐに返事を寄こし、視線を上へ向ける。

大和はそのまま通りすぎようとしたが、その女性が母、奈津であることに気付き、

足が止まり、その表情を見た奈津の顔が、すぐに変化を見せた。


「大和……大和じゃない?」


あのランドセルで会いに行った日から、こうして声をかけてもらうのは初めてだった。

駅で見かけた時には、結局そばへ行けなかったが、この状態では逃げることも出来ない。

奈津はすぐに大和だと気づき、懐かしい響きで呼びかける。


「大和……」

「失礼します……」


見つめられたその目に、耐えられなかったのは大和の方だった。

すぐに視線を外し、この息苦しい場所から、離れようとする。


「ねぇ……待って……」


奈津が大和にそう言いかけた時、みなみが別の男性と話しながらその場に現れた。

戸惑う大和に気付き、嬉しそうに声をかける。


「高杉さん、来てくれたんですね」


みなみの隣に立っていたのは、奈津が再婚した先崎豊だった。

大和は、奈津、みなみ、豊が立つ先崎家の中に入ったまま、

息苦しいトライアングルから抜け出せずに立ち続けた。






42 帰り道


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コメント

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No title

こんばんは^^

苦しいトライアングルだね。
母親は息子だと気がついたけれど、先崎さんは大和を認識できたのだろうか。
さて、娘の前でどんなリアクションを見せてくれるのか、ドキドキで待つとしましょう。

子どもの頃母親に拒絶された経験を持つ彼の心は、大人になっても影となり、素直に気持ちを表せない。
これって、大人の事情が生み出した罪だよね。
誰が彼を救ってくれるのでしょうね。
(でも、いつか親の思いを知るときがくるんだろうね)


話が前後しちゃったけれど
靖史はどうするのかな、こっちも気になるし・・・

ひよこちゃん(笑)も・・・

あっちもこっちも、目が話せなくなってきましたね!

新たな展開にワクワク・ドキドキ

 

     こんにちは!!

 靖史は決意を胸に動き出したね
お皿のこと力になりたい気持ちは判るけど
でも空回りしてないか・・・。

比菜もお引っ越し!って、マンション内を移動だけど
ホントの新生活スタート?少しは落ち着けるかしら。

大和、義理を果しに来ただけのつもりなのに困った状況になったね。
みなみにしたらうれしい状況?
お母さんはどんな気持ちで声をかけたのかな…
大和が小学生の時に出掛けて行った時とは違うんでしょうね。
みなみのお父さんは知ってる?

大和は居心地の悪いトライアングルな事態の中で
どんな会話をするのかなぁ。

     では、また・・・(^_^;)/~~~

こんなトライアングル。。T_T

ああ~ん、こんなふうに大和とみなみを会わせるなんて
ももんたさんのいけず~T_T
心の準備が出来てなかった。。

ここで直接対決なのか。。
肩すかしなのか。。
大和と一緒に息苦しいまま、次を待ちますT_T

今日は、すっかり大和気分です。

アリスさんが大和を気にしてくれてるのが救いだわ。

母と子

靖史は反対を押し切って、自分の思い通りにしたい。その気持ちなんとなく分かるな。
亜紀にも良いとこ見せたいって気持ちも有るのだろうけど・・・

新しい住まいに、心が晴れやかな比菜の様子が嬉しいな。
気分一新!

大和と母奈津、みなみ、そして豊。
会うだろうと予想しなかったの?

奈津は大和を紹介するのだろうか???
その時みなみは???



大和を救う人

なでしこちゃん、こんばんは!
お返事遅れてごめんなさい。

大和の心が複雑なのは、愛されないとならない人に、
愛されている感覚が薄かったこと……

だと思うんだよね。(って、自分で書いているんだけど)

>誰が彼を救ってくれるのでしょうね。
(でも、いつか親の思いを知るときがくるんだろうね)

ねぇ……どんな形で、どう知るのか、
ここら辺は、大和のポイントになるんだけどさ。

靖史も、邦宏も、それぞれに抱えております。
ちょっとずつ、前へ進まないとね。

靖史の1歩!

mamanさん、こんばんは!
お返事遅れてごめんなさい。

>お皿のこと力になりたい気持ちは判るけど
 でも空回りしてないか・・・。

前へ出ることが難しかった靖史。
でも、一歩出てしまうと、止めるのが難しいのかも(笑)

大和の居心地の悪さは、さらに来週へ続きます。
予想もしていなかったタイミングだけに、
互いに辛いのは間違いなくて……

軽いも重いも両方

れいもんさん、こんばんは!
お返事遅れて、すみません。

>心の準備が出来てなかった。。

そうそう、駅での出会いと違って、急だからね。
でも、心のどこかでみなみとの接点を
早く断ち切っておきたかったところも
あったかもしれない大和です。

>アリスさんが大和を気にしてくれてるのが救いだわ。

あはは……。
軽い会話も入っていた方が、それっっぽいでしょ?

はじめの……

yokanさん、こんばんは!
お返事遅れてすみません。

>靖史君の気持ちは固まったんだね、
 これからは一直線のような気がするわ。

難しかった一歩が出せれば、本人は突き進むのみ! なのでしょうが、
そこら辺はまだちょっとあとに続きます。

それぞれ色々なものに追いかけられている
『フリーワーク』の面々です。

スタート!

yonyonさん、こんばんは!

>新しい住まいに、心が晴れやかな比菜の様子が嬉しいな。

ある意味、ここからが比菜のスタートかもしれないなと。
邦宏や大和とも、また違った関わりが出来るんじゃないかな。

>会うだろうと予想しなかったの?

駅で会ったことを考えても、全く予想していなかったことはないと思うんです。
だからこそ、みなみとの関係を早く絶ちたかった気もするし。
まぁ、でも、驚きでしょう。

さて、トライアングルの行方は……次回へ!

こんばんは^^

最近仕事が立て込んでいて、昨日久しぶりに来ました。
で、二日間で一気に1話から41話を読破(*´艸`*)ε3。゚ε3

さすが、ももちゃん。
描写が巧みで、登場人物ひとりひとりが個性豊かなんだもの。
いい本に出合うと頭の中でどんどん空想が膨らむんだけど、
今まさに、そんな状況。
今後も楽しみにしてるね❤

ありがとう

midori♪さん、こんばんは!
来てくれてありがとう!
私もなかなか、そちらにうかがえず、ごめんなさい。

一気に読んでくれたの?
読書家のmidori♪だから、恥ずかしいんだけど(笑)

>でどんどん空想が膨らむんだけど、

うわぁ、嬉しいです。
たくさん想像、空想しながら楽しんでね。
こちらもまた、遊びに行きます!