48 嵐の予感

48 嵐の予感


靖史は武雄のところに到着し、熱を発し続ける窯を目の前に立った。

武雄はいきなり現れた靖史に何も聞かず、ただ黙々と作業を続け、

音に耳をすませながら、火の加減を調節し、しぼりの手ぬぐいをはずす。


「1時間くらい前に、亜紀から電話があった。
ここへ君が行ったら、すぐに東京へ戻るように伝えてくれと」

「亜紀さんがですか?」

「あぁ。ご両親が心配されると、慌てていた。
親の心配なんて気にしていたら、息苦しくて、生きていられないよな、吉田君」


そういうと、武雄は豪快に笑い出し、作業室へと靖史を誘った。

鳥の声が聞こえ、木々に当たる風が、初めて訪れた靖史を、優しく受け入れる。


「店を営む家に生まれて、親のあとを継ぐのが当たり前だと思っていました。
頭がいいわけではないし、特にこれ! っていう強い希望もなくて、
だから、高校を卒業して、店に入って、仕事を覚えて……で、このまま何も考えずに、
店をやっていくことになるんだろうなと」

「……それで?」

「そんな時に、武雄さんの作品を見つけたんです。
驚きと感動と、久しぶりに心臓が動いているって自分で確認できました」

「あはは……。心臓が動いているかどうか、わからなかったんじゃまずいだろう」

「そうなんですが……」


靖史は自分の口ベタさに、ため息をついた。

心の中にある想いが、うまく言葉になって出てこない。


「まずは陶芸教室へ来るといい。いきなりこっちの道へ全てなげうって入ってくるなんて
言われても私が困る。土に触れながら、心を無にしてみるといい。
ろくろはね、いろいろなことを考えながら回していると、必ず失敗してしまう。
その時間を持つのなら、東京の教室で十分だ。亜紀と一緒に好きな時間にやるといい。
互いに刺激になるだろう。あいつは作品作りには本当に集中するんだ」

「いいんでしょうか」

「あぁ、いいよ。その代わり、ご両親の説得は自分で頑張りなさい。
それすら出来ないのなら、無になどなれるはずもないからね。
私はもともと、陶芸を芸術扱いするつもりはないんだ。日々の生活の中で、
ちょっとしたオアシスになればいいと思っている。自分で楽しく作るもよし、
手作りのカップを買って、ちょっと贅沢にお茶を飲むだけでも、
慌しい日常から、開放された気分になれるもんだ。
人は、気の持ちようで、なんでも変えられる」

「はい……」

「まぁ、せっかく来たのだから、あと2、3日こっちにいて、
窯出しを手伝ってもらうかな」

「はい!」


靖史は武雄が自分の気持ちを察してくれたことが嬉しく、

お茶を飲み干すと、しっかり手伝いますと、袖をめくった。





夕方過ぎに大和が事務所へ戻ると、中には誰もいなかった。

テーブルの上に置いたはずの携帯はなく、1枚の紙だけが残されている。



『携帯は預かった。返して欲しければ、3階の長瀬家へ来るように!』



邦宏の字と、得意のイラストが書かれた紙を、大和はクシャクシャにすると、

ゴミ箱へ向かって放り投げた。壁に当たったその紙は、そのまま中へストンと落ちる。

重たい足取りで上へ向かい、扉を叩くと、出てきたのはエプロンをつけた比菜だった。


「あ! 来た、来た! 坂本さん、高杉さん戻りましたよ」

「お! 大和。お前、何してたんだよ今まで。肉が溶けるぞ」


大和、邦宏、靖史の3人が、比菜に送ったテーブルの真ん中に、コンロが置かれ、

しゃぶしゃぶの準備がすっかり整っていた。

比菜がネギを切る音を後ろに聞きながら、大和は部屋の奥へ向かう。


「携帯……」


邦宏はポケットに入れてあった携帯に、1枚の紙を挟みそのまま大和へ手渡した。

大和はそれを受け取り、紙を開いてみる。

それはスーパーの領収書で、宛名はしっかり『高杉大和様』と書いてある。


「何だよ、これ」

「お前が携帯を忘れて、寂しく帰ってくるから待っていてやったんだぞ。
長瀬さんと最高級の肉を買ったんだよな」

「はい! これ、有名ブランド肉なんですよ。今、ネギを持っていきますから」


邦宏は呆れ顔の大和の前に、左手を開いて差し出した。


「なんだよ、その手」

「はい、お支払いをお願いします」

「邦宏が立て替えたのか?」

「あぁ……」

「ふーん……」


そう言うと、大和は邦宏の目の前で領収書をビリビリと破りだした。

取り上げようとした邦宏に渡さずにさらに破り、細かくなった領収書を、

ベランダの窓を開け投げ捨てる。


「あ! 大和、お前!」


ヒラヒラと雪のようになった領収書は、それぞれが風に乗り、散らばっていき、

ベランダには笑顔のまま立っている大和と、それを嬉しそうに見つめる邦宏が立つ。


「始めますよ!」


比菜は並んでいる二人にそう声をかけると、コンロの火をつけた。





「普通捨てるか? 領収書」

「……しつこいぞ、邦宏」


比菜の部屋を出た二人は、春を前にした強い風に吹かれながら、駅への道を歩く。

さらに強い風が吹いたとき、道路の反対側に置かれていたポリバケツが

ゴロゴロと道を転がりだした。


「明日は荒れそうだな……天気によっては草むしり延期にしないと」

「そうだな」


大和は邦宏の後ろに隠れるようにしながら、風をよけようとする。

それに気づいた邦宏はわざと止まり、大和はつまずきそうになった。


「やることがガキだな、全く!」

「お前もだよ!」





二人が駅に向かって歩いているとき、笹本家では穂乃が、

倉庫の屋根につけようと、ビニールシートを懸命に広げていた。


「穂乃、よしなさい。変につけたら飛ばされるよ」

「でも……このまま雨が降ってきたら、雨漏りしてしまうから。
中の荷物を出すわけにもいかないし……」

「ママ……」


倉庫の中にあったはしごを取り出し、穂乃は物置の前に置いた。

それは以前、出窓を拭いた時に、邦宏が乗っていたものだ。

すぐにでも電話をかけて助けを頼みたかったが、それをするわけにはいかなかった。


「お母さん、ここだけ押さえていて!」


心配顔の遥香の前で、穂乃は懸命に手を伸ばし、雨漏りが予想される部分に、

ひもでビニールシートをくくりだした。






49 彼を呼ぶ声


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コメント

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オレマニエヨ

ももんたさん、こんばんは^^
プチお久でm(__)m

大和は二人に救われましたね。
特に、比菜ちゃんちからの帰りの邦宏とのやりとりは、ほほえましいくらい。。
で、夕方までどこにいたのかしら?!

穂乃さん、怪我でもしなきゃいいけど。。
靖史は、少しずつ道が開けてくるのかなあ。。

と書きながらも、
やっぱり大和が一番気になるれいもんなのでありました。

サークルの方もやっと読むことが出来ました♪

嵐かぁ・・・

靖史って、不器用なのね。
陶芸を経験することで彼の心に余裕を生むのでしょうか。

大和と邦宏の会話って絶妙だよね。
ケンカを売っているようでもあり、気にするなといっているようでもあり・・・

私は邦宏が好きなのよ~!
(大和ファンのれいもんちゃん、ごめんよ~^^;)
男の優しさを彼から感じるのです、そばにいたらフラフラ~っと寄って行っちゃうかも(笑)
しかし、彼には気になる人が・・・
嵐の夜にシートなんて、事件の前触れかしら。

男三人、気になるねぇ・・・



危険がいっぱい?

 
   こんにちは!!

 靖史は武雄さんのおかげで少し落ち着きましたね。
分ってくれる人がいたということで。

両親の説得うまくできるかな?
“無”になれる時間が持てるといいですね。

その時亜紀さんとも進展・・・を期待は動機が不純?

 大和も邦宏と比菜いてよかったね。
どこで何してたか知らないけど、心配して元気づけてくれる友達がいて。
比菜が上にいてくれて、お鍋したのがよかった?

そんなちょっと持ち直した2人の男子に安心してたら
穂乃さんが危ない感じになってますぅ。

何様兄貴のせいで
邦宏に頼りたいのに頼れない穂乃さん、怪我しそうで怖い。
怪我したら、また嫌味言うんだろうか、何様は。

 次回、どんな嵐が吹き荒れるのかしら。   

     では、また・・・e-463

3階の長瀬家

今度はしゃぶしゃぶ♪
確かこの前はちゃんこだったよね^^

大和に笑顔が戻って一安心。
「3階の長瀬家」が
これからの大和にとってどんな場所になって行くのか・・楽しみです。

靖史も武雄さんが良い人で良かったわ
先ずは土に触れて心を無にする事か・・

でもその前に今の気持ちを
御両親にちゃんと言葉で伝えなくちゃね!

そして倉庫の雨漏りを防ごうと一人頑張る穂乃さん
あの嫌味な兄ちゃんは、来なくて良いような時にはちょくちょく来るくせに
こんな肝心な時には顔見せないんだね

それで又何かあったらごちゃごちゃ口出ししてくるんだよきっと・・・

嵐の予感・・心配だなぁ~~






人の優しさ

武雄さんが靖史の気持ちをしっかりわかってくれて良かった。
きっと靖史も父親と上手く話が出来るでしょう。

夢中になれる何か、大切なことです。

又大和も邦宏と比菜に救われた。
何も聞かない、言わない二人。でもちゃんと痛みはわかってくれる。
特に邦宏は素敵な友達です。
貴恵との連絡が無い今、人の優しさは身にしみる。

穂乃さんそれは危険以外の何者でもない。
無茶は止めて連絡しましょう。

邦宏……でも、大和なんだよね

れいもんさん、こんばんは

>特に、比菜ちゃんちからの帰りの邦宏とのやりとりは、ほほえましいくらい。。

ありがとう!
この話は、もちろん恋模様も大事なんですけど、友情もポイントだと思ってるんですよ。
そう言ってもらえると、とっても嬉しいな。

夕方までどこにいたんですかね、
そこは飛ばしてしまいましたが(笑)

サークルの方も、ありがとう。
お返事書きましたよ。

邦宏……そう、邦宏なんだよ!

なでしこちゃん、こんばんは

>大和と邦宏の会話って絶妙だよね。

ありがとう!
この話の中で、二人の関係は重要なのよ。
そういってもらえたら、嬉しいのです。

>私は邦宏が好きなのよ~!

あはは……、そうなんだ。
いやいや、そういう人が多いと思う。
大和と邦宏は正反対に書いてあるけど、女性として、頼りがいがあるのは、邦宏でしょう。

まぁ、これからの大和は、まだまだ謎ですけどね(笑)

そう、この『嵐』。邦宏にも大和にも『嵐』なんだよねぇ

何様兄貴はどこに

mamanさん、こんばんは

>靖史は武雄さんのおかげで少し落ち着きましたね。

理解してくれている人が見つかると、気持ちが落ち着くものですよね。
それはきっと、靖史だけではなく、他のメンバー達もそうだと思います。

>何様兄貴のせいで
邦宏に頼りたいのに頼れない穂乃さん、怪我しそうで怖い。

おぉ……そうそう、何様兄貴。こういう時には、お約束のように来ないんですよ(笑)。
さて、この『嵐』は本当に『嵐』なんだよ。
邦宏にも、そして大和にも

長瀬家は日当たり良好

パウワウちゃん、こんばんは

>今度はしゃぶしゃぶ♪
確かこの前はちゃんこだったよね^^

あはは……男どもには鍋が一番だよね!
というか、『湯気』って温かさの象徴に思えるんですよ。

『3階の長瀬家』そうそう、これからも注目していて。

>嵐の予感・・心配だなぁ~~

うん、何かが起こるよ。
どういう『嵐』なのかは、続きで確かめてね。

邦宏の魅力

yonyonさん、こんばんは

>夢中になれる何か、大切なことです。

そう、本当にそう思います。
ただ生きているってだけだと、続かなくなる。

>何も聞かない、言わない二人。でもちゃんと痛みはわかってくれる。
特に邦宏は素敵な友達です。

はい、邦宏は全ての登場人物を並べても、一番の人物だと思います。
心が広く、優しく、だからこそ強い。でもその強さを見せびらかしたりはしない。

さて、穂乃の無茶な行動は、何を生み出すのか。
それは続きで。

嵐が来るのです

yokanさん、こんばんは

>穂乃さん、危ないね~・・・何か起こりそうな予感だわ(ーー;)

はい、起こるのです(笑)
この嵐が、邦宏にも大和にも、大きな転機をもたらしますからね。

大和と邦宏のシーン、二人の友情を感じてもらえたら嬉しいです。