49 彼を呼ぶ声

49 彼を呼ぶ声


昨日、深夜から降り出した雨は、朝になってもやまず、一時、弱くなったはずの風は、

また強く吹き始めた。家からなんとか事務所に到着した邦宏は、

草むしりをする予定だった家に連絡をいれ、あらためて日程を調節する。

担当になった学生にも、すぐに中止の連絡を入れた。

その間も、窓ガラスはガタガタと揺れる。


「ひゃー……、3階からここへ来るのもふらつきそうでした」

「あ、おはよう。預かり予定の子供はどうだって?」

「車で行くから予定通りと連絡がありました。まぁ、手術の付き添いですからね、
こんな嵐でも中止にはならないでしょうし、ビデオ見せたりしながら適当に遊びます」

「そうだな」

「よかったですよね、小学校お休みで。小さい子供じゃ吹き飛ばされそうです」

「休み? あぁ、そうか、今日は土曜日か」


邦宏はすぐに遥香のことを考えた。

この嵐の中を登校することがないのだと知り、ほっとする。

しかし、その頃笹本家では、昨日倉庫の屋根につけたビニールシートが取れかかり、

バタバタと大きな音をさせていた。


「穂乃……」

「大丈夫よお母さん。あのひもをもう一度くくってくる。
あれじゃ、さらに風が強くなったら外れちゃうもの……」

「ねぇ、『フリーワーク』にさぁ電話してみようよ。坂本君いるかもしれないし……」

「こんな日に失礼よ、いくらなんでも」


穂乃はレインコートを着ると、止めるイネを振り切り倉庫へ向かった。

一人でなんとかしようとするものの、強い風でなかなかうまくいかない。

しばらく見ていたイネは、我慢しきれず、同じようにレインコートを身につける。


「遥香、ここにいるんだよ」

「おばあちゃん……」


小屋から玄関に移されたハヤトは、外の音に落ち着かない様子を見せた。

遥香は一人残され、二人の様子を窓から見ていたが、

大きなビニールシートはバタバタと動き回り、なかなか押さえることが出来ない。


「ママ……」


遥香は一度時計を見た後部屋に向かい、レインコートを着ると玄関に向かう。

小さな傘を手に取り、吠えそうになるハヤトに指で合図をし、

二人が気づかない間に、家の門を出た。





「いいよ、無理しなくて。これじゃ電車もすぐには走らないだろ」


その頃邦宏は、大和からの連絡を受けていた。

邦宏と違い、電車で事務所へ来る大和は、この天気の影響で止まってしまい、

駅で身動きが取れなくなっている。


「今日は仕事にならないよ。草むしりも中止したし、長瀬さんの保育だけだ……」


電話の5分ほど前に、比菜に預ける子供を連れてきた母親が事務所を出て行った。

すでに2回ほど比菜と遊んだことのある女の子は、ビデオの続きを見るのだと言い、

テレビの前に座っている。


「じゃあな」


邦宏は大和との電話を切り、携帯を閉じた。

比菜がビデオのスイッチを入れると、見慣れたアニメ番組が始まり、

女の子は嬉しそうにテーマソングに合わせて踊り出す。


「高杉さんですか?」

「あぁ、駅で動けないんだと」

「そうでしょうね、これじゃ……」


比菜は、親がもたせてくれたお菓子を皿に入れ、女の子の前に置いた。

女の子はピンクの丸いチョコレートが好きだと、嬉しそうに口に入れる。

比菜が一緒にビデオを見ようとした時、ポケットの携帯が鳴り出した。

相手は今、ここへ来たばかりの女の子の両親で、何かあったのではないかと、

慌てて受話器を開く。


「もしもし、どうしました? 忘れ……エ!」


驚いた比菜の様子に、新聞を読んでいた邦宏の視線が向かう。

比菜は、何度か頷きながら話を聞き、ちょっと待ってほしいと受話器を手で押さえた。


「何、どうした、何かあったの?」

「いえ、あの……笹本さんのところの、遥香ちゃんを保護したって。
同級生らしいんです。この雨の中、壊れた傘を持って歩いていたのを、見つけたそうで。
おうちに送ろうかって言っても、『フリーワーク』へ行きたいって。
こっちへ連れてきてもいいでしょうかと……。どうしたんですかね、こんな雨なのに」

「遥香ちゃんが? 今、どこだろう、なんなら俺が車で……」

「まだ、十字路くらいなので、いいなら連れてきて下さるそうです」

「あ……うん……」


比菜が電話の相手に頭を下げているのを見ながら、

邦宏は笹本家に何かあったのではないかと考え、カーテンを開けた。

外はまともに見えないほど、風と雨が強くなっている。

遥香の名前を聞き、そばにいた女の子はどうしたのかと、比菜に何度も問いかけた。

そして、電話を切ってからすぐに、びしょ濡れの姿で遥香が現れた。

邦宏と比菜は揃って礼を言い、遥香を事務所の中へ入れる。


「遥香ちゃん、何があったんだ。どうして一人でこんな日に歩いてきた! 
ママは? おばあちゃんは家に居るの?」

「坂本さん、どうして来てくれないの! スーパーマンだって言ったのに! 
ママが……おばあちゃんが……ママが……」

「ママがどうした、何をしたの」

「ママ……マ……ママが……」


泣きじゃくる遥香はうまく伝えることが出来ずに、ただ邦宏にしがみついた。

邦宏は携帯を取りだし、すぐに笹本家へ連絡を入れたが、

2分近く呼び出しても、誰も電話に出ることがなかった。

邦宏は受話器を閉じ、『フリーワーク号』のカギを取ると、遥香を抱きかかえる。


「ダメだ。電話に出てくれない。悪い、留守番頼む。俺、行ってくるから」

「坂本さん、これ。そのままじゃ遥香ちゃん風邪ひきます」


比菜はロフトから毛布を降ろし、邦宏に差し出した。

遥香を着替えさせたくても、子供用の洋服などここにはない。

邦宏は一度遥香を床に下ろすと、毛布でくるむようにし、もう一度抱きあげる。


「こっちは大丈夫ですから、気をつけてくださいね」

「あぁ……」


邦宏は泣き続ける遥香を抱えたまま、嵐の中へ飛び出していった。






50 涙の雨


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コメント

非公開コメント

危険が危なすぎ・・


      こんにちは!!

 おいおい、穂乃さん、おばあちゃん
そんな嵐の中、庭とはいえ外に出ちゃ危険!ですよ。

しかも遥香ちゃんまで、危ないよー・・・。と思ったら
同級生の親に保護されてよかった、よかった。

邦宏は無事に笹本家へ着けるのか?
穂乃さんとおばあちゃんは大丈夫なのか?

日常の中のサスペンス!!なんちゃってぇ。

でも冗談抜きで、嵐の中の作業は無謀ですよ、穂乃さん!!


       では、また・・・e-463

キャー!

穂乃さん、イネさん貴方がた何故邦宏を呼ばない?
あの俺様バカ息子にやらせればいいのに!
風で飛ばされちゃえ!!(なんてね^^;)

しかし危なすぎ。何かあってからでは遅い!

遥香ちゃんは同級生のお母様が見つけてくれたから良かったけど・・・

いや~もう~ ドキドキ♡しちゃうわ

無事で良かった・・けど

嵐の中、フリーワークに向かった遥香ちゃん

さぞ怖かっただろうに・・・
たった一人で邦宏に助けを求めに向かった気持ちを思うと、胸が痛くなっちゃったよ

とにかく無事、フリーワークに着いて良かったけど・・・

穂乃さんだけじゃなくイネさんまで外に出てしまった笹本家
どうか、邦宏が行くまで二人が怪我などしていませんように!

走り出した邦宏君

mamanさん、こんばんは!

何様兄貴に睨まれるので、笹本家を避けていた邦宏ですが、
遥香の無謀な行動と、涙に、ついに行ってしまいました。

>邦宏は無事に笹本家へ着けるのか?
穂乃さんとおばあちゃんは大丈夫なのか?

はい、それからどうなるのか。
サスペンスのように
ドキドキしていただけたら嬉しいのですが。

まぁね、何かを動かすときには、
何かが起きるものなんですよ。
でも、本当に危ないですよ、強い風は。
毎回、コメント、ありがとう!

バカ息子、役に立たず

yonyonさん、こんばんは!

>あの俺様バカ息子にやらせればいいのに!

何様息子は、こんな時、役に立たないのです。
都合がいい時にしか、来ないのよ。
邦宏が笹本家を避けている……
そのことに、薄々穂乃は気付いているんですよね。

なぜ、避けているのかも……

しかし、遥香の行動に、向かってしまった邦宏。
まぁ、彼の性格なら、無視出来るはずもなく……。

ドキドキ待っててね!
毎回、コメントありがとう。

遥香の思い

パウワウちゃん、こんばんは!

>たった一人で邦宏に助けを求めに向かった気持ちを思うと、
胸が痛くなっちゃったよ

子供って一途なんですよ。
色々と渦巻いている裏とか表とか、そんなこと関係なくて。
素直に目の前のものを、見ようと思うからかも……。

自分の気持ち、穂乃の気持ちと立場、
それに気づき笹本家を避けてきた邦宏。
しかし、ついに行ってしまいました。

さて、続きは……です。
いつも、ありがとうね。

二人の『嵐』

yokanさん、こんばんは!

>この遥香ちゃんの行動が、
邦宏くんにどんな行動を起こさすか・・・

心のままに、助けてほしいと願った遥香。
自分の気持ち、穂乃の気持ちを考え、
あえて避けてきた邦宏ですが、
ついに笹本家へ向かってしまいました。

この『嵐』が邦宏に、そしてここにはいない大和に、
どんな展開を持たせるのかは、次回へ続きます。

いつも、ありがとう。