54 愛されたい人

54 愛されたい人


靖史が新生活を始めて3日後、大和と比菜は新装開店の手伝いで、ある店の前にいた。

訪れた客にプレゼントを配るのが仕事で、本来なら別の学生が担当するはずだったが、

卒業追試験にひっかかり、急遽代理になる。


「いいなぁ……みんなキラキラしてる」


2つの駅をつなぐ商店街に開店したのは『ジュエリーショップ』だった。

大手の宝石メーカーが、カジュアルなおしゃれを目指し出したアンテナショップで、

客層は若い主婦や学生なのか、開店を心待ちにしていた女性客で、店の前はあふれかえる。


「高杉さん、知ってます? シェルピアス」

「知らん」

「でしょうね、聞いた私が間違っていました。でも、雑誌でも話題になっているんですよ。
貝をイメージしたピアスで、今すごい人気なんだそうです」

「ふーん……」


大和が携帯で時刻を確認すると、メールのマークが見えた。

差出人を見ると相手は貴恵で、今日か明日、時間を取れないかと書いてある。

結局、あれからどうしても電話をかけることが出来なかった大和は、

貴恵からの連絡が入ったことにほっとし、すぐに返信をした。


「高杉さん……」

「あ、ごめん、ちょっと待って」


大和がどこかそわそわとしながら、嬉しそうにメールをしているのがわかり、

比菜はほんの少しだけ距離を開けた。大和はメールを送信した後も、

すぐに返事が帰ってくると思っているのか、画面を開けたままで立っている。

それから2分くらいして、大和にまたメールが届き、

安心したような大きな息を吐く音が、比菜の耳に届いた。


予定していたプレゼントは、あっという間に定員まで届き、

二人の仕事は予定より1時間も早く終了した。

奥にいた店長に書類を手渡し、サインをもらう。


「ちょっと中を見てから帰るわ」

「あ……はい」


大和は下の売り場へ戻り、比菜は入り口の前で一人になった。

携帯電話のメールが入ってから、明らかに大和の態度が変わり、

少し前まで興味がなさそうだった売り場で、何やら探している姿を見る。


自分の携帯電話を開き、少し空いてしまった時間をどこでつぶそうか、

比菜は考えながら駅への道を一人で歩いた。





大和は比菜に言われた『シェルピアス』を見たが、結局別のピアスを買うことにした。

急に自分のことを語り、戸惑った貴恵に謝らないとならないが、

これがきっかけになる気がしたからだ。

事務所へは戻らずに、時間をつぶした後、待ち合わせの場所へつくと、

10分も早く来たのに、すでに貴恵は一人で席に座っていた。


「貴恵……」

「あ……」


大和の顔を見た貴恵は、どこか落ち着かない雰囲気で、申し訳なさそうな目を向けた。

自分と同じようにぎくしゃくした気持ちを抱えてたのだと、大和はほっとする。


「ごめんね大和、急に呼び出して。仕事は平気?」

「うん……」


言葉がスムーズにのどを通らず、大和はポケットに入れてきた小さな箱に触れた。

誕生日ではないけれど、雰囲気を変えたくて出そうとした手が、

入り口に一瞬ひっかかる。


「あのね……私、この間わかったことがあるの」

「ん?」


つかんだ箱から手を離し、大和は話し出そうとする貴恵を見た。

何かを決意したように見えるその表情は、

はるか昔、どこかで見たようなそんな気持ちになる。


「大和ってどうして何も語ってくれないんだろうって、いつもそう思っていた。
でも、聞き出そうとすると、嫌がられる気がして、私、いつも聞けずにいた。
だけど本当は、そんな自分が不安で、不安でたまらなかった。
この人は私のことを見てくれているんだろうかって、ずっと……」

「貴恵……」

「それがこの間、隣で語ってくれているのを見て、わかったの。
大和って……愛されたい人なのよ」


貴恵の言葉に、大和は何も言うことが出来なかった。

『愛されたい人』の意味がわからず、予想外の流れに、気持ちがついていかない。


「大和は自分を受け入れてくれる人を求めているんだって。
大きな心で包んでくれる人を探しているんだって……私……」


大和は、貴恵の部屋で、一気に語ってしまった過去が、

少しずつ自分の首を締め付けているようで、

限られた回りの空気を吸い込むために、必死に呼吸をする。


「私には……あなたを包むのは無理じゃないかって」


何も知らないウエイトレスが、大和にオーダーを取りに来た。

何かを選ぶような気持ちになれずに黙っていると、

貴恵と同じもので構わないかと聞かれ、黙って首を縦に振る。


「私には、あなたを支えるのは無理だって、そう思った。常にあなたを気にして、
先回りをしないとならない愛情を、注いでいく自信がない。
話して欲しいと願っていたはずなのに、いざいろいろと話されると、
聞いている自分がどうしたらいいのかわからなくて。
誰か頼れる人を探していた。それが……よくわかった」

「貴恵の気持ちを受け止めてくれる人が……いるってこと?」


貴恵は黙ったまま下を向いたが、大和はすぐ晃のことを思い浮かべた。

社長の息子であり、自身ありげに語るあの男は、

あの日も出ない電話を何度も鳴らしてきた。


「……私も愛されたい人間なんだって、それがよくわかったから」


邦宏のように、きっと貴恵は自分を受け止めてくれると思っていた大和の気持ちは、

行き場所のないまま、心の奥をさまよい始める。


「……別れてほしい」



『大和……もう、ここにはこないでね』



下を向いたまま言った貴恵のセリフに、大和は自分を追い返した母、奈津の姿を重ねた。






55 傷ついた鳥


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コメント

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遂に来たこの日T__T

こんな日が来るとは思っていましたが、
遂に来ました。

しかも、思いっきりストレートにT_T

「貴恵からの」メールを受け取ったのと
プレゼントを選んでいるときの大和の気持ちを思うと
とっても切ない。。

大和の気持ちを盛り上げるだけ盛り上げといて。。
一気に奈落の底へ。。
ももんたさんのいけず~T_T
でも、上手い~このシチュエーション。。

貴恵に甘えきっていた大和も気付くかな。。
相手に求めるだけじゃいけないってこと。。

ああ~、ショックなまま、仕事です。。
行って来ます。

辛いなぁ~

ずっと待っていた貴恵ちゃんからのメール・・
まさかこんな結果になるとは思ってなかったよね

ついさっきまで興味のなかったジュエリーショップで
ピアスを選ぶ大和の心を思うと本当に辛い

はっきりと自分の気持ちを告げた貴恵ちゃん

掴みきれない大和の心を不安に思いながら
幸せな結婚だけを夢見ていた時とは
ずいぶん変わったんだよね

別れを切り出した貴恵ちゃんに
自分を追い返した奈津の姿を重ねてしまう大和の心は
どこかまだあの幼い日のままなのかも・・・

今は辛いけど
この出来事が大和が変わるためのきっかけになる事を願ってます

寂しげな後ろ姿

ついに来たか・・・
届いたメールにどれほどホッとして、ピアスを選ぶとき
嬉しい迷いに心が浮き立ち、急いだ足が切ない。

母に捨てられたあの日から、誰かに無条件で愛して欲しかった。
貴恵がその人だと思ってすごした日々。
でも違ったんだ。
きっと貴恵も悩んだと思う。そして傍には居られないという結論


肩を落とす寂しげな後ろ姿。誰か抱きしめてあげて!

「愛」って・・・難しい

おはようございます!!

 ついに来る時が来ましたか・・・。

大和が貴恵さんに告白した時、「どうして欲しいの」といった時点でダメかもと思ったけど・・・。
受け入れてくれると思った大和にとっては青天の霹靂?

自分のことだけを考えて
相手を思いやることまで考えていなかったのだから
当然と言えば当然の結果ですが、ショックで辛いことに変わりはないですよね。
今は辛いけどはっきりさせられてよかったのかも・・です。

御曹司のおかげで貴恵さんが変わったのもショックだったかもね。

お互いに愛されたい人じゃうまくいかないかぁ。
貴恵さんにも愛されたい何かがあったんでしょうね。

大和の心は奈津お母さんに追い返されたあの日から立ち止ったまま。
これをきっかけに大和も一歩前進できる?

お母さんたちと向き合って、話して思いの丈をぶちまけろぉ(お下品・・^_^;)、大和!!

      では、また・・・(^.^)/~~~

お仕事は大丈夫?

れいもんさん、こんばんは

大和を贔屓してくれているれいもんさんには、ちょっぴり辛い回になりました。
思いきりストレートな貴恵ですが、こういう時はその方がいいでしょう。
伝わらなかったら、どうしようもないですしね。

>ももんたさんのいけず~T_T

キャー! それは褒め言葉?(笑)
まぁ、こういうこともありながら、人は成長する……と思うけれど、大和はどうかしら。

ショックなままのお仕事は、どうでしたか? 楽しい週末になっているといいけれど。

新しい自分

パウワウちゃん、こんばんは

>掴みきれない大和の心を不安に思いながら
 幸せな結婚だけを夢見ていた時とは
 ずいぶん変わったんだよね

人の心は動くものですね。
貴恵は、別の人の視線を受けるようになって、少しずつ新しい自分に気がついたようです。

信じていた人に、裏切られた大和。
寂しく辛いところですが、これを乗り越えて、何かを掴んでもらいましょう。

防水いいなぁ

yokanさん、こんばんは

>お互いが「愛されたい人」では、続けていくのには無理があるよね。

そうですよね。貴恵はそこに気付いてしまいました。お互いに包んで欲しい……では、
うまくいかないでしょう。

ここから大和がどうなっていくのか、まだまだお話は続きます。

さて、単二電池。

防水のCDプレーヤーかぁ。ハングルの曲がたくさん流れていそうだなぁ(笑)

愛されたい大和

yonyonさん、こんばんは

>母に捨てられたあの日から、
 誰かに無条件で愛して欲しかった。
 貴恵がその人だと思ってすごした日々。

母親という絶対的存在から、傷つけられた大和。
貴恵にその代わりを求めてみましたが、また同じような想いを引きずることに。

>肩を落とす寂しげな後ろ姿。誰か抱きしめてあげて!

『マリリン』のあやめちゃんなら、すぐに来てくれそうなんだけど(笑)

ついに……です

mamanさん、こんばんは

ついに来た……と、みなさん思っているようですね。そうです、ついに来ました。

>自分のことだけを考えて
 相手を思いやることまで考えていなかったのだから

そう、自分のことを中心だった大和に、不安を感じていた貴恵。
それに気付いてあげられなかったのは、痛いところです。

しかし、誰かわからないならともかく、
御曹司だとわかってしまうだけに、辛さも倍増でしょうね。

立ち止まったままの大和の心時計
さて、進めていくことが出来るのでしょうか。