56 恋する男たち

56 恋する男たち


目覚まし時計のセットを失敗した比菜は、慌てて身支度を済ませた。

ふと冷蔵庫の上に目を向けると、1週間そのままになっている

大和が投げ捨てた、水色の小箱が置いてある。

そのまま戻ってくる気になれずに、つい持ってきてしまったが、

どうしたらいいのか迷い続け、1週間が経ってしまい、結局手に持つと下へ降りた。


「大和が?」

「はい、新装開店の手伝いをした店で買ったんです。
でも、その日、ここに戻ってきたら投げ捨ててしまって」

「貴恵ちゃんとケンカでもしたか」

「さぁ……、でもここで相当飲んでましたよ。
坂本さんとの出会いを語ってみたり、小さい頃のことを語ってみたり……」

「エ! あいつが自分のことを語ったの?」

「はい、酔っていて口が動いちゃったんじゃないですか? 途中で居眠りしたり……」


比菜は自分のファイルを開き、仕事の確認をした。

どうでもいいことのはずなのに、何かが引っかかりつい邦宏に問いかける。


「貴恵ちゃんって言うんですか……。高杉さんの彼女」

「あぁ……。『サイクル』って専門部品のメーカーで経理事務をしている人なんだ。
とっても美人で、大和に一目ぼれしちゃったのか、彼女の方が積極的だったんだけどな」

「へぇ……」


邦宏は水色の箱に触れたまま、少し難しそうな顔をした。

結局、自分の引き出しを開き、奥の方へ入れる。


「あいつがわがままだから、怒らせちゃったんだろうな、さっさと修復しないから。
まぁ、いいよ。すぐに仲直りするだろう。しばらく持っておくわ」

「お願いします」


比菜は肩の荷をおろし、少しほっとしたのか、深呼吸をした。





邦宏は時計の針がしっかり重なっていくのを見ながら、ある公園を目指した。

休憩時間が決まっていて、その時に必ず行くと約束したからだ。

噴水がある公園には、周りにちょうどいいベンチがいくつか置いてあり、

ぐるりと見て回ると、本を読んでいる穂乃が目に入った。


「穂乃さん」

「あ……」


穂乃は本を閉じ、嬉しそうに立ち上がると、邦宏に頭を下げた。

思っていたよりも電車の乗り継ぎが悪くて時間がかかったと、邦宏も頭を下げる。


「本当に無理して来てくださったんじゃないんですか?」

「いえ、大丈夫です」


邦宏が横に腰かけると、穂乃は持ってきた包みを取り出し、二人の間に置いた。

開いて出てきたのはお弁当で、何種類ものおかずが顔を見せる。


「先週くらいから、ここでお昼を食べているんです。
ちょうど午前と午後の入れ替わりになる時間で、ホームの中で食べてもいいんですけど、
ずっと同じ場所にいるのも、肩がこってしまうような気がするので」

「大変なんですか? お仕事」

「大変は大変ですけど、でも、楽しさもありますから」

「そうですか……」

「どうぞ、食べてみてください。ずっと遥香のお弁当ばかり作っていたから、
ウインナーもタコの形にしてしまいそうでした」

「あはは……、それでもいいですよ、僕は」

「いえ……」


恋をしようと言った邦宏に、黙ったままの穂乃だったが、

それから何日かして、この誘いを受けた。

ちょうど仕事で近くまで行く日に合わせ、青空ランチが実現する。


「うん! おいしいです」

「本当ですか? よかった……」


いくつか置かれた他のベンチにも、昼休みに入ったOLやサラリーマンが座りだした。

緑に囲まれたこの場所にいると、すぐ横を通る車の音も、噴水の音にかき消され、

静かな場所になる。


「毎日、自分のお弁当を作りながら、坂本さんのことばかり考えていました。
今頃どうしているんだろうか、どんなふうに過ごしているんだろうかって……」

「僕も同じです」

「自分に歯止めをかけようとするんですけど、そう考えると涙ばかり浮かんできて、
遥香の前で泣いてしまったんです。ママが泣いちゃうと、遥香も悲しい……。
そう言われてしまって」

「そうですよ、遥香ちゃんはママが大好きなんですから」

「あなたと……恋が出来たら、そんな夢を見ることができたらって、私」


邦宏は弁当箱の中からおにぎりを取ると、青空に浮かぶ雲を見ながら一口ほおばった。

右から左へゆっくりと動く雲が、太陽の前を横切っていく。


「夢じゃ困ります。その言葉を僕は待っていたんですから」


穂乃は少し照れくさそうにコクンと頷き、バックから小さな水筒を取り出すと、

邦宏の前に置いた。





「吉田さん、お昼にしませんか?」

「あ……先にどうぞ。僕はもう少し頑張ってから」


陶芸教室が終わっても、靖史は教室内に残り、ろくろの基本を何度も何度も繰り返した。

途中から入ったので、他の生徒たちより遅れていることもあったが、

人よりも努力することで、迷っていた時間を埋めていける気がしたからだ。

亜紀は優しい面しか見えていなかった靖史の強さを知り、

隣に椅子を動かすと、作業をじっと見る。


「あの……」

「はい」

「亜紀さんが見ていると、緊張するんです」

「見ていたら、ダメってことですか?」

「いや、ダメっていうよりも……」


少し手を動かせば触れられる距離にいることが、靖史にとっては嬉しくもあり、

また辛くもあった。その微妙な気持ちを伝えることが出来ずに、指先が動いてしまう。


「あ!」

「あ……」


綺麗に回っていたろくろの土はゆがんだ形になり、

靖史と亜紀は顔を見合わせて笑いあった。






57 さよなら


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コメント

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もも・サス劇場


  こんにちは!!
  
 水色の箱は比菜から邦宏へか。
次は、誰の手に?

比菜ちゃん、なぜに大和の彼女が気になる・・・^m^ムフッ

邦宏と穂乃さん青空ランチ爽やかでいいですねぇ。
(リアルと違って)お天気も良さようだし。
ホームって穂乃さんのお仕事ってキ〇〇クのおば・・お姉さん?

邦宏を想って涙するなんて、もうかなり恋しちゃってる。
子供はいるけど今から青春、乙女な穂乃さん!かな。

しかし、あいつが邪魔してこないか、心配じゃ!
でも今度は、もう一歩も引かないよね2人(3人か?)とも!!

靖史も陶芸教室も、亜紀さんともいい感じ。
想い人に見つめられて轆轤を触る手が乱れるのはご愛敬?
これからだね・・・。

「フリーワーク」の面々、いい感じの人もそうじゃない人も
これからどうなる?

今までなんちゃってだった康哉も登場で
日常のサスペンスは益々混迷に向かうのか?

・・・てな感じで、続きをお待ちいたしております。


あっ!2・3日前金魚鉢のきれいな石に混じったウーパーちゃんを始めて見ました。
とぼけた顔をして可愛かったです。

     では、また・・・(^.^)/~~~  

みんな恋してる・・・

恋の形もいろいろね。

遠慮がちな恋愛や、一方通行的な恋愛
純情路線も可愛くて・・・

三人三様の恋模様
性格がでているというか、なるほどと思いながら彼らの心に寄り添っています^^

誰が一番最初に成就するのかな^^v
それとも、恋愛を通じて成長する男たちなのでしょうか。

次を待ってるね!

いいね~

邦弘も驚いただろうね。大和が自分の事を語るなんて。
比菜はまだその事の重大さを分かっていない。
大和も気づいていないのか?

徐々に動き出している恋達。
邦弘の年下なのに大きく包んでくれる優しさに、穂乃も恋をしたくなったのね。とってもいいことだわ。

亜紀も靖史の気持ちに近づきつつあるような・・・
暖かい空気が流れていく。

恋の始まり・・

邦宏の想いに穂乃さんも応えてくれたのね

青空ランチの二人♪
初々しい会話の中にも
お互いを想いあう温かい空気が感じられて
>「夢じゃ困ります。その言葉を僕は待っていたんですから」
あぁ~もう穂乃さんと居る時の邦宏ったら
本当にカッコ良いんだから~(〃▽〃)

そして靖史も亜紀さんと何だか良い感じだね^^
大好きな人に見つめられて
緊張してる靖史が可愛いなぁ

少しづつ動き出したそれぞれの恋♪

その後の大和も気になるし・・・
邦宏も靖史も、これからまだ乗り越えないといけない事は多そうだけど

幸せに向かって、皆頑張って欲しいなぁ~

あとは

yokanさん、こんばんは

邦宏と靖史は、しっかり前進の様子を見せてます。穂乃も気持ちを決め、
邦宏を信じようと決意を固めましたし、
亜紀も、そばにいてくれる靖史に対して、少しずつ感情が動いている……そんなところでしょうね。

>後は大和君だけか~・・・

はい、そのようです(笑)

ホームは駅じゃないのよ

mamanさん、こんばんは

>水色の箱は比菜から邦宏へか。
 次は、誰の手に?

ねぇ、誰の手にいくのかしらん(笑)
それにしてもサスペンスじゃないし……

穂乃の仕事は介護関係ですよ。
ホームっていうのはお年寄りがお昼に集まって過ごす施設のようなもののことです。

キ○○クじゃないの(笑)

邦宏も靖史も、しっかりと進み始めました。
もちろん、なにも壁がないわけじゃないけどね。
(特に、邦宏の方は……)

そう、なんちゃって状態だった康哉が、
いよいよ出てくるのですよ。
それはまた、続きを読んでね!

あ、ウーパーちゃん、見ましたか?
あいつはいつ出てくるのか、私にもわからないんです。

恋の数

なでしこちゃん、こんばんは

そう、恋の形は色々だよね。
人の数だけ、恋の数もあるってことで。

>誰が一番最初に成就するのかな^^v

それはまだまだってところですね。
(すでに56まで来ているのに……のんびりでしょ)

また、遊びに来て下さいませ。

大和の変化

yonyonさん、こんばんは

>邦弘も驚いただろうね。大和が自分の事を語るなんて。

そうだろうね。
大和のことは、一番知っている男だからね。

比菜も大和も、本人達は意外に気付きにくいってこともあるんじゃないかな。

邦宏、靖史の恋は進み始めましたが、ひとり孤独な大和は、
どんなふうになっていくのか、もう少しおつきあいお願いします。

恋の動き

パウワウちゃん、こんばんは

>邦宏の想いに穂乃さんも応えてくれたのね

はい! 誠実な彼の姿は、仕事だとはいえ、
色々な場面で見てきましたからね。
しかも『夢じゃ困ります……』なんて言われたら、私ならすぐにでもついていくけど(笑)

靖史も亜紀の優しい視線に戸惑いながら、それでも前に進み始めました。

壁がないわけじゃないけれど、互いの気持ちがあれば、頑張れるはずだもんね。

さて、大和はどこへ流れていくのでしょう。