57 さよなら

57 さよなら


「それではよろしくお願いします」


大和は、ホームページ管理で定期的に回っている企業に訪れ、手帳にチェックを入れた。

そろそろ『サイクル』にも顔を見せないとならないが、貴恵のことを考えると、

なかなか足が向いていかない。

それでもなんとか足を向け、受付を通ると営業部へ足を踏み入れた。


すぐに確認した貴恵の席は、綺麗に整っていた。

どこかに出かけているようで、少しほっとした気持ちで社長へ取次ぎを頼むと、

代わりに出てきたのは、見たくもない男の顔だった。


「高杉さん、すみません、こちらから連絡をさせていただこうと思っていたんですが」


大和は出来るだけ無表情に頭を下げた。晃は大和の肩を叩くと、こっちへと案内する。


「社長はいらっしゃらないんでしょうか」

「えぇ、今日はちょっと。でも、高杉さんには私の方から話をするからと言ってあります」


いつもの席ではなく、特別にパーテーションで仕切られた場所へ連れて行かれると、

晃はパタンと扉を閉めた。

営業部に残っていた女子社員が、晃の指示通りコーヒーを二つ目の前に置く。

その香りが、大和の鼻にまだ届いていないくらいのタイミングで、

晃はいきなり話し出した。


「突然のことで申し訳ないのですが。来月いっぱいでホームページ管理の方は、
契約終了ということにさせてもらえないかと」


晃はそう告げると、大和の目の前に腰かけた。契約は半年ごとになっていること、

その更新期間をちょうど来月迎えること、そして、今、会社全体で、

経費削減に向かって動いていること、それらしきことを次々と並べていく。


「うちも以前ほどの売り上げを確保出来てはいないんです。高杉さんのおかげで、
ホームページなどを利用して取引が増えていることは増えているのですが、
その代わり利益率が下がっていまして。数をこなさないと現状維持が難しい状態です。
僕がこっちへ戻ってきましたので……。僕の力で出来るやり方をして行こうと
思っています」


もっともらしい言い方をしているが、大和は、晃がここへ出入りできないように

仕向けているのだろうと、そう感じ取った。

貴恵の気持ちが揺れ、自分へ動いてきたことがわかっているだけに、

刺激を与えたくないのかもしれない。


「わかりました。それは『サイクル』側で決められることですから。
また、ご縁がありましたら」

「作っていただいたものを、そのまま残していただくことは、可能ですか?」

「あ……はい。しかし、管理終了の契約が済んだ後からのトラブルには、
対応出来ませんので、ご理解下さい」

「それはもちろんです」


大和は持っていたバッグから契約終了の書類を取り出し、

来月ここに来るまでに書いて欲しいと告げた。


「わかりました。来月までには必ず……」


晃はそう言いながら書類の内容を確かめ、軽く笑い出した。

大和はその意味がわからず、晃の顔を見る。


「ドライだな高杉さんは。去るものは追わずってことですか? 
僕とは正反対のようですね、性格が。僕だったら、どうしてこうなったんだって、
相手を問い詰めそうですけど。契約が一つ無くなるって、大きな事じゃないですか?
それとも……」


晃の目が、そこで初めて大和を捕らえた。

仕事のことではない何かが、二人の間を走っていく。


「あなたにとっては、もうどうでもいいものだったってことなのかな……」


その目を書類に戻しながらも、どこか勝ち誇ったような晃の態度に、

大和は反応することなく、黙っている。


「もてるんだろうな、そんなふうに冷たく出られたら、女は必死になりそうだ」


大和は書類をバッグにしまい、上着を手に取った。

何もかもわかっていて、そう告げてくる晃の前から、早く出て行きたいと考える。


「何もかも、縁でつながるものだと、そう思っていますので」


大和は立ち上がりドアノブに手をかけ、一度頭を下げた。

こういったものの見方をする男が上に立ったなら、貴恵のことがなくても、

どこかでもめたのではないだろうか。

大和は、晃が人とのつながりを重視する男だと、以前貴恵から聞かされた気がするが、

合理的で、ある種冷淡に見える態度ばかりが目に付き、

彼の中で、自分よりも優れた部分がどこにあったのかと、やりきれない気持ちになる。


「失礼します」


ドアを閉め、営業部の端を扉に向かって歩くと、席へ戻ってきた貴恵と目があった。

別れを切り出したあの日以来の再会で、大和の顔を見ると、困ったように下を向く。

ここに来るまではまだ、貴恵への想いが心の底にくすぶっているような気がしたが、

晃に会ったことと、貴恵の困った顔を見たことで、残された欠片が崩れていく。


「さよなら……」


大和は貴恵の振り向く仕草に気づきながら、エレベーターを待つことなく、

階段を使って下へ駆け下りた。





穂乃が自分に心を向けてくれたことで、邦宏はまたイネの送迎を引き受けることにした。

久之に嫌味を言われないように、あえて笹本家へは入らずに、駐車場だけで引き渡す。

遥香が学校へ行っている間など、二人で会う時間を持つようになったことは、

まだ誰にも伝えてはいない事実だった。


「やっぱり坂本君がいいよ。『フリーワーク』の学生さんも、みんな優しいんだけど、
待合室にいる時に、お茶を買いに行ってくれたり、
薬局に行くときも代わりに取りに言ってくれたり、
細かいところはその都度教えてあげないとならなかったからさ」

「そうでしょ、たまにいなくなると有り難味がわかるってことだなぁ。
これでますますイネさんは、坂本邦宏がいなくちゃダメだってわかったでしょ」

「そうだね……」


イネは嬉しそうに頷くと、遥香にお土産を買うのだと、途中の店で車を停めた。

邦宏が駐車場でサイドブレーキをひくと、見たこともない大きな車が目の前で止まる。


「敏規さん」

「エ……」


車から降りてきたのは、遥香の父親である仲岡敏規だった。

イネに気づくとしっかりと頭を下げ、隣にいる邦宏にも同じように頭を下げる。

穂乃の、別れたご主人だと思い目を向けていた邦宏も、慌てて頭を下げた。


「同じようなことを考えたんですね。遥香がここのケーキを好きだから、
買っていこうと思いまして」

「敏規さん、あなた……」

「遥香に会う権利は、私にもあるはずです。穂乃にもそう伝えましたし、
少し仕事も落ち着きましたから、そういった時間も取れます」

「あのねぇ……」

「遥香に会うことに、何か問題がありますか?」


敏規はそういうと、邦宏の方へ視線を向けた。

その一瞬の目の力に、邦宏は自分のことを、久之が告げているのだろうと考える。

邦宏は穂乃が作ってくれたキーホルダーを、もう一度しっかりと握り締め、

目の前の男に負けないように、強い視線で前を見た。






58 春の訪問者【1】


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コメント

非公開コメント

よく言った!!

大和くん! 今回の君は、えらかった!!
御曹司の挑発にも乗らず、
貴恵ちゃんに告げた「さよなら」は
とっても潔かったです。
君は御曹司になんか負けてません!
れいもんが誉めてあげます♪
さ!前を向いていきましょ(^-^)/

邦宏くん!君にもまた新たな試練が。。
君には、穂乃さん、遥香ちゃん、イネさんがついてます!
がんばれ~

大和には、だれがついてくれる~?!

決着

   
    こんにちは!!

 大和の燻ってた気持ちにも決着がついたようで。。。

しかし、御曹司結構いいやつだと思ってたのに
やっぱり撤回。イヤな奴に格下げに。

貴恵さんをめぐってもだけど
男としてのライバル心もあったのかな、御曹司(名前言ってやんない!)
会話が嫌味っぽかった・・・ちぃせぇ男だ。

大和に春が来るのはもうすぐ・・まだ?
おかあさんのこともあるしなぁ。。。

邦宏と穂乃さん、いい関係を築き始めてますが
新たな(・・でもないか)障壁が姿を現しまたね。
この元旦那は何故に穂乃さんと遥香ちゃんに拘る?
そんなに愛情も感じられないけど???

そういえば穂乃さんのお仕事、前にそれらしきこと言ってましたよね。
ホーム、青空でなぜか駅に直結してしまった(爆)

人生はドンマイの連続(?)
みんな、ファイト~!イッッパァァツッ!!だ。


   では、また・・・e-463

よく言った大和

↑mamanさん私は御曹司も言ってやんない。
ボンボン、ちょっとは良い奴かと思っていたけど
なんだ、ただの嫉妬男なんだ。
貴恵が自分に向いたことで『勝った』なんて秘かに思っていたのかしら?げ~~

貴恵もどこを見ているのかな?
耳障りの良い事ばかり言う男は信じられないよ。
戻ってきたいと言っても、もう駄目だからね!
「さよなら」したから。

邦弘、折角穂乃と良い感じになってきたのに、
ここに来て現れるか?元旦那・・・

嫌味長男、余計なことしてくれる。
でも遥香が会いたいかどうかは分からない。

ハッキリしないとね

れいもんさん、こんばんは

>貴恵ちゃんに告げた「さよなら」は
 とっても潔かったです。

ハッキリしないとね、互いに辛いし……。
貴恵にも想いはあるでしょうが、こうして二人は別の道を……。
ということで。

そう、れいもんさんが応援してくれているので、
大和にはこれからも頑張ってもらいましょう。
色々と、解決していかないとならないことが
ありそうなので。

>大和には、だれがついてくれる~?!

エ! それはれいもんさんでしょう(笑)
もうじき1部、終了です。
おつきあいお願いしますね。

越えないといけないもの

mamanさん、こんばんは

>御曹司結構いいやつだと思ってたのに
 やっぱり撤回。イヤな奴に格下げに。

あはは……格下げされたんだ。
まぁね、ちょっと嫌みっぽいですけど、
しかし、見方を変えると、それだけ貴恵に対して想いがあるようにも見えるし、
ドライに別れを告げた大和は、それで終われちゃうの? って見えなくもない……。

>この元旦那は何故に穂乃さんと遥香ちゃんに拘る?

他の人のものになると思うと、妙に欲しくなる人って
いませんか? まぁ、ここは越えないとならない人物でしょうね。

もうすぐ1部が終了します。
一つの区切りまで、おつきあいくださいませ。

愛されたい女

yonyonさん、こんばんは

>なんだ、ただの嫉妬男なんだ。

あはは……こちらもそうなのね。
まぁね、晃の方へは細かく入り込んでないので。
貴恵は『愛されたい女』なので、強く押してくる男の方が、いいと思えたのでしょう。

確かに耳障りのいいことばかりのヤツは、信用出来ないね。
だいたい、いい話……っていうのは、よくないことの方が多かったりするし。

さて、長男が仕掛けた? 元旦那。
邦宏と穂乃の行方はいかに、

1部がもう少しで終了します。
ぜひ、おつきあいお願いします。

これで、良かった

御曹司、やっぱり大した奴やなかったね

ちょっとは良い奴なんかな~って思ったこともあったけど
なんやの?大和に対してこの嫌味な態度!
仕事はできても、男として・・人間としてどうなんやろ? 
大和、この程度の男の相手なんかする必要は全くないわ。
嫌な思いをしたけど
きっぱり「さよなら」できて、かえって良かった!

そして邦宏の前には
元旦那・・・
今更、良い父親ぶってもどうかと思うけど。。。

今日、ずっと会いたいと思ってた
ウーパーちゃんにやっと会えました^^v
お口も動いてて、凄く可愛い~~♪


口が動くの?

パウワウちゃん、こんにちは

>御曹司、やっぱり大した奴やなかったね

あはは……。嫌味な感じがしましたか?
そうだよね、でも、自分に自信を持っている人って、
案外、こんなタイプがいるような気がして。

そう、でも思い切り『さよなら』になって
よかったと思いましょう。

ウーパーちゃんの口が動くことを
知らなかった私です(笑)

いいなぁ、ほうれん草

yokanさん、こんばんは

>きっと貴恵さんの前と大和君の前とでは
 態度が違うんだわ

ねぇ、そういう女もいますからね。
男がいても、おかしくはないでしょう。
たしかに大和はハッキリしていないところもあったし、
貴恵にとっては不安もあったわけで。

さて、泣きを見るのかどうか……は。

>我が家は旦那様が作ったほうれん草ばかり食べてます^^;

こちらもいいなぁ……
ほうれん草、近頃食べてません。
ごま和え、大好きなんですけど。
ぐすん……(笑)