68 秘密

68 秘密




リビングでお酒を飲んでいた健児は、機嫌がよかったのか、

それともすでに酔いがまわっていたのか、明るい顔で大和にグラスを差し出した。

たまには付き合えと言われ、目の前の椅子に座ると、

礼子は大和の前に置かれたグラスに、氷を入れる。


「どうだ、お前の仕事の方は順調か? 世の中は不況まっただ中だしな」

「まぁまぁ……かな」


ソファーでテレビを見ていた美帆が、自分も参加したいと言い出し、

冷蔵庫からジュースを取り出すと、大和の横に座る。


「そうか、それならいいんだが。実は仕事の依頼なんだ。
来月の中旬から2週間、人数は4人、配送を頼みたい」

「配送?」


健児の話によると、取引会社の中に倉庫の移転を計画しているところがあるらしく、

抱えている商品の移動を頼みたいのだと言う。

期間が2週間と短く、車は会社のものを使い、人だけの応援を頼みたかったため、

大手の配送会社には仕事を請けてもらえなかったのだ。


「2週間、毎日朝9時から、まぁ、午後の3時くらいだと思うが、
お前のところなら学生を使えるだろ。どうだ、受けられるか」


仕事の内容は簡単で、しかも軽トラックを使うだけだったので、

普通免許があれば問題なかった。人手だけが欲しいのだという健児に、

大和は同じ人物を2週間は難しいのだと告げる。


「難しい? どうしてだ」

「時期的に卒業がかかっているやつは、大学を休みっぱなしには出来ないんだよ。
俺と邦宏とで2人確保して、あとは日によって人が変わってもいいなら……」

「いいんじゃないのか?」

「お父さん、勝手に返事をしないほうがいいですよ。
もし向こうともめるようなことになったら、大和君が困るんですから。ねぇ……」


キッチンでつまみを作る礼子が、簡単に返事をしてはダメだと、健児に忠告する。

水の音が止まり、健児は氷をグラスに入れると、瓶を手に取ったが、

すでに中身は空のようで、軽く振って確認する。


「まぁ、それもそうだな、じゃぁこの人にお前から連絡を取ってくれ」


健児は瓶を横に置き、隣のバッグから名刺を取り出し、大和の前に置いた。

名刺を取ろうとすると、横から美帆が手を出してきたので、

大和は軽く美帆のおでこを叩き、それを阻止する。


「痛い! お兄ちゃん。どうして叩くのよ」

「お前には関係ないだろうが。さっさと寝ろよ」


名刺に記された名前には『第1営業部 佐々木淳平』とあり、

印刷された会社の番号の下に、手書きで携帯番号が書いてある。


「うちにもよく出入りする若手のやつなんだ。礼儀正しいし将来有望な青年だぞ。
お前よりちょっと下だった気がするな」


健児は美帆におかわりとグラスを振ったが、飲みすぎていると逆に取り上げられた。

大和はその名刺を見ながら、どこか名前に覚えがある気がして、

その字をしばらく見つめ続けた。





深夜1時近くなった頃、穂乃は音を立てないように扉を開け、

すぐに寝ている遥香の様子を見に行った。

少し横にずれてしまった布団を元に戻し、ゆっくりと扉を閉める。

階段を降り洗面台の前に立つと、そっと首筋に触れた。

少し前まで重ねあったぬくもりを思い出し、目を閉じ小さく息を吐く。


「穂乃……」

「エ……あ、はい」

「なんだね、まだ起きてるのかね」

「あ……うん、今寝るから」


予想外に聞こえたイネの声に、穂乃は慌てて現実に戻り、部屋への階段を駆け上った。





「配送?」

「あぁ、親父の取引関係らしくて。4人必要だって言うんだけど、
ずっと同じメンバーは無理だろ。人が変わることに問題がないかどうか、
ちょっと確認してみようかと」

「そうだな。俺もイネさんの送迎があったりするから、2週間全てとはいかないし、
靖史にも声をかけて、手伝ってもらわないと」

「あぁ……」


大和はデスクに置いた『佐々木淳平』の名刺を手に取り、会社の番号を押し始めた。





その頃靖史は、『とんかつ吉田』の前に立ち、扉を開こうかどうしようか迷っていた。

何度か手を出したり引いたりを繰り返していると、いきなり扉が開く。


「靖史」

「あぁ……」


扉を開けたのは和子で、突然姿を見せた靖史にケンカ中だと言うことも忘れ、

ちゃんと生活しているのかなどと嬉しそうに語りかけた。

その左手に白い包帯が見え、靖史はどうしたんだと問いかける。


「あぁ、ちょっとね。自転車で転んじゃってさ。手首をひねったんだよ。
ダメだねぇ、お母さんも若い、若いと思っていたのに、年を取ったんだか……」


和子は店の裏へ回り、掃除道具を取り出すと店の前を掃き始めた。

靖史はそれを取り上げ、自分がやるから休んでいろと言ってやる。


「靖史……」

「ちょっと手伝うだけだよ、無理するな」

「うん……」


しばらく離れているうちに、どこかたくましくなった気がして、

和子は靖史の後姿を、嬉しそうに見た。





「それでは今日は先日作ってもらった作品に、色を塗っていきましょう」


武雄が開催する陶芸教室が始まり、亜紀は時計を確認する。

自分の隣になる靖史の場所には、作った皿だけが置かれ、本人は姿を見せない。

父が窯の掃除などを手伝わせたので、

珍しく寝坊してしまったのかと何度も店の外をのぞくが、

その姿は見えないままで、時間だけが確実に過ぎていった。







69 スーツの男


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コメント

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No title

   こんにちは!!

 大和のお父さんは仕事の依頼だったのですね。

名刺の〈佐々木淳平〉って誰?・・・と思ったけど
比菜ちゃんの妹の想い人ですよね。

これから大和と比菜ちゃんの間に絡んでくるのかしら。
比菜ちゃんに言い寄ってくるとか・・
大和が一人でヤキモチ妬くとか・・

妄想、突っ走りです^m^

家が気になる靖史と靖史が気になる亜紀さん。
この2人もどうなってくんでしょうね。

 *****
 
 お話とは関係ないけど、ここへ入ってくると
左側以外が真っ白、おバカPCだから エラーしたのかと何度も出入り
・・・何度目かでずーっと下へ行くとありました、つぶやきもお話も^_^;

昨日そんなことやったのに
今日も1回やって、「あっ」と気付いたのでした・・・

    では、また・・・e-463

何かが起こる?

↑mamanさんのコメントで、そうか、佐波ちゃんの好きな人だ!と納得

健児の話は仕事の以来だったのね、でも・・・
何だか一波乱有りそうですね。って、あること期待してる(爆)

穂乃は邦宏とv-238良かった。少しでも幸せな時間を過ごせたのね。イネには未だヒ・ミ・ツ

靖史も亜紀には実家に来てることヒ・ミ・ツなの?

ライバル登場!?

佐々木淳平って佐奈ちゃんの好きな人だけど
確か彼自身は比菜ちゃんの方に気持ちがあったんだよね!

う~ん・・これは大和にとって強力なライバル登場か!?
比菜ちゃんを間にこれから色々ありそうだね~^^

靖史も陶芸と実家の店の事で悩みそうだし・・

邦宏との二人だけの時間を過ごせた穂乃さん♥
深夜の帰宅、イネさんは気付いてないのかな?

親子バトル! ならず……

mamanさん、こんばんは!

>大和のお父さんは仕事の依頼だったのですね。

そうなんですよ。親子バトルじゃなくて、ごめんね(笑)

>これから大和と比菜ちゃんの間に絡んでくるのかしら。

佐々木淳平が1部の最後で名前を出した時、mamanさんは注目すべきなのかどうか、
聞いてくれましたよね。

鋭い! と思った私(笑)

さて、どんなからみになるかは、これからです。

このテンプレート、見づらいのかなぁ、
種類は多いんだけど、創作の長さに合うのが、
なかなかなくてね。

また、しばらくしたら変わると思うけど。

それぞれの秘密

yonyonさん、こんばんは

>健児の話は仕事の以来だったのね、でも・・・
 何だか一波乱有りそうですね。って、あること期待してる(爆)

まぁ、何もなければ登場してもらう意味がないですからね。
どれくらいの登場なのかは、読んでもらわないと

秘密……はいつかバレるもの。
邦宏、靖史、どんなことになるのかは、次回へどうぞ!

風が吹くか?

yokanさん、こんばんは

>彼がこれからどのように絡んでくるのか・・・
 次回が楽しみです^m^

佐々木淳平が、大和と比菜の間に、風を吹かせるのか、
それはこの後へ続きます。

靖史と亜紀、邦宏と穂乃も、まだまだ色々とね。

そうなんだよ

パウワウちゃん、こんばんは

>確か彼自身は比菜ちゃんの方に気持ちがあったんだよね!

おぉ! さすがパウワウちゃん、
細かいところを、よく覚えていらっしゃる。

はい、そうなのです。
彼がどんな動きを見せてくれるのかは、
これから、これから。

靖史と邦宏、それぞれの秘密。
こちらもどんな展開を見せるのか、お付き合いを!