74 カーボンの約束

74 カーボンの約束




比菜は預かっていた子供を迎えに来た親に引渡し、手を振って見送った。

時間を見ると午後2時を回ったところで、横に残したメモを見る。



『金曜日 19時 南口』



比菜は、淳平からの電話に、子供が寝ているので長く話せないと切り替えしたが、

だったらあらためて時間を取ろうと言われ、それを受け入れることになってしまった。

昔から少し強引なところがある淳平は、比菜が忙しい日を聞きだし、

それを外した日程をすぐに提案した。結局断るタイミングを逃し会う約束をしてしまう。

しばらくそのメモをにらんでいると、インターフォンが鳴り、

淳平が言っていた通り、ユニフォームが入ったダンボールが届けられた。





「おぉ、なんだか一流企業に入ったような気になるな」

「とりあえず明日、本田と鈴木に取りに来てもらうことにした。
スタートはこの4人だからさ」

「あぁ、そうだな」


仕事から戻った邦宏は、送られてきたユニフォームを確認し袖を通し鏡を見た。

大和がリース会社から届いた明細書を手に取ると、関係ない比菜の筆跡が目に入る。



『金曜日 19時 南口』



大和は、淳平からの電話を受け取った比菜が、

下にカーボン用紙があることに気づかないまま、メモを取ったのだと思いながら、

その紙の文字が邦宏に見えないよう、半分に折った。





「そう、イネさんがそんなことを」

「兄も相当ショックだったみたいで、権利書も何も受け取らずに帰ったの。
でも、私はそれでもいいと思ってる。何も出来ない妹だけれど、
あの家が兄の役に立つのなら、それでって……」

「うん……」

「私ね、遥香と暮らせる部屋を探すことにしたの。すぐに引越しはしないけれど、
考えておかないと、いつ出なければならなくなるかもしれないし。
それにね、仲岡の家にも、私はしっかりと頑張るって姿を見せたいのよ。
もう、あなたたちのところへ戻る気持ちはありませんって……そう……」

「穂乃さん……」


邦宏の言葉に、穂乃は顔をあげた。秋の深まりとともに、

月の色はより黄色さを増している。


「なんだか前向きで嬉しいけど、僕がいることだけは忘れないで欲しいな」

「エ……」

「頼ってもらえないと、男は結構寂しいものだよ」


邦宏の言葉に、穂乃は笑顔を見せ小さく頷いた。

静かな夜は優しい月明かりとともに、心地よい風のハーモニーを、二人に届けた。





靖史が事務所を使うようになって、大和は家に戻ることが増えた。

以前なら貴恵の所へ逃げていたが、もうその場所はなくなっている。

美帆は相変わらず忙しそうに動き、父も仕事で遅くまで戻っては来ない。


「お兄ちゃん、ちょっといい?」

「なんだよ」


美帆は部屋へ入るなり、大和のクローゼットを開き、なにやら探し始めた。

勝手に動かすなと注意すると、ネクタイを貸して欲しいと訴える。


「ネクタイ?」

「そうなのよ、ちょっとね、仮装に使うの」

「だったら親父のを借りたらいいだろうが」

「いやよ、加齢臭がするもの」


美帆は部活動の最後に、みんなでパーティーを開くのだと言い、

大和のネクタイをあれこれ品定めする。


「あれ? これ、みなみ先輩がくれたやつじゃないの? お兄ちゃん。
やだ、使ってないの?」

「ん?」


美帆が見つけたのは、以前、大和がみなみの絵のモデルをした時、

御礼にもらったタオルだった。一度開けて中を確認したものの、

結局しまったままになっている。そういえば、展覧会で会って以来特に連絡もなく、

それが寂しいというわけではなかったが、どうしたのだろうかと気になりだす。


「彼女、元気か?」

「ん? みなみ先輩?」

「あぁ……」


大和は、女の子の心は移り気なものだと思いながら、

そばにあった雑誌を手に取り、何気なくめくり始める。


「うん、色々とあってね。しばらく大阪に行ったりしてたのよ。
お母さんが事故にあって入院していたから」

「入院? 事故って、車にひかれたのか?」

「ん?」


美帆は大和の驚いた様子に言葉が止まる。その美帆の表情に、

つい声を大きくした大和も、必死に冷静さを保とうと、わざと雑誌へ視線を向けた。


「そんなに驚くこと? お兄ちゃん」

「事故だなんて聞いたら驚くだろうが。知っている人の親なんだから」

「う、うん、そうか、そうだよね。自転車でね、引っ掛けられたんだって。
で、入院して。もう退院したから、戻ってきたけど、
しばらくあっちとこっちで忙しくて、あんまり会ってないの」

「そう……か。大変だったんだ」

「そうみたい」


美帆は2本のネクタイを選び、そのまま部屋を出ていった。

大和は、みなみの展覧会で会った時、嬉しそうに笑顔を見せた奈津を思い出す。

退院したのだから心配することはないだろうと思いつつ、

割り切れない想いを処理することが出来ず、布団を頭からかぶった。







75 子供心


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コメント

非公開コメント

こんにちは!!

見つけちゃった大和、比菜ちゃんと淳平の逢う日のメモ。

どうすんのかな?偵察に行く・・・?

奈津お母さんが事故に合ったって・・気になる大和は動く?

美帆はなにか大和の様子に不信感をもったみたいだけど・・。

どうなるんでしょうか、た・の・し・み♪

    では、また・・・e-463

どうする・・大和?

母としてのイネさんの言葉
今度ばかりは、さすがの久之もショックだったみたいね

そして『金曜日 19時 南口』
偶然見てしまった大和、やっぱり気になるよね~~
おまけに実のお母さんの事故の話も聞いてしまって・・・気になる事が次々

割り切れない想いを抱えたままの大和だけど
そろそろ自分から一歩踏み出す時が来たんじゃないのかな?

どうする?大和・・・

どうする?

押しの強い淳平に比菜は???

大和に気がかりが増えていきますね。
比菜のメモ、母奈津の事故。

穂乃が前向きになったのは嬉しいけれど、年下とはいえやはり男、少しは頼りにされたい。
頼るなと言われたり、頼ってと言われたり・・・
でも今の穂乃にはどちらも分る。

偵察?

mamanさん、こんばんは!

>どうすんのかな?偵察に行く・・・?

あはは……偵察かぁ。
それはちょっと大和の中には、ないと思う。
でも、メチャクチャ気になるよね。
また、邦宏を使うのか、それとも?

いい加減に、自分から前へ出ないとね。

奈津の出来事も、大和の心を動かすきっかけとなるのかどうか、
楽しみにしてもらえたら、とっても嬉しいな。

動け、大和!

パウワウちゃん、こんばんは!

>母としてのイネさんの言葉
 今度ばかりは、さすがの久之もショックだったみたいね

今まで黙っていたイネですからね。
しかも、そんな母親から、家を取り上げることに
なるわけだし。
久之も、ちょっとは考えるでしょう。

>そろそろ自分から一歩踏み出す時が来たんじゃないのかな?

はい!
でないと、いつまでも、エンディングへ向かいません(笑)
大和なりの方法とは、どんなものか、
それは続きで。

大和VS邦宏

yonyonさん、こんばんは!

>押しの強い淳平に比菜は???

会うつもりがなかったはずの比菜。
でも、会う約束をしてしまった比菜。
それを偶然知った大和。

もやもやの行く先は。

気がかりが増えてきて、抑えているだけでは
いられなくなるわけで。
少し、前に出て行かないとね。
邦宏に頼るのか、それとも……。

穂乃は内心、邦宏のセリフが嬉しいはず。
どこまでも『優しい』男です。

動かないとね

yokanさん、こんばんは!

>大和君、なにやら不機嫌そうな^m^

ねぇ、いつも不機嫌そうな大和ですけど、
素直じゃないので……(笑)

色々なことが起こるのかどうか、
もう少しお付き合いお願いします。