76 向こうの景色

76 向こうの景色




邦宏は季節ごとに頼まれている庭掃除とペンキ塗りに、学生達を連れて出掛けている。

大和は、事務所に残っていたが、午後からは閉店したラーメン店の荷物出しを、

靖史と手伝うことになっていた。


「うーん……どうしようかな」


大和の目の前では比菜が、子供の預かり表を置き、

同じ日に頼まれてしまったと頭を抱えている。


「この日、坂本さんも高杉さんもいないんですよね、配送で」

「ん? あぁ……」

「無理して二人はやめた方がいいし……」


配送の仕事の開始は、目の前に迫っていた。

これから毎日のように、あの佐々木淳平と会うことになる。



『金曜日 19時 南口』



大和は、書類を見ながら悩んでいる比菜の顔をじっと見た。

比菜は、あの約束をどんな気持ちで受けたのだろうかと、思ってしまう。


「なぁ……どうだった?」

「エ?」


比菜は書類から視線を上げたが、大和の問いかけの意味がわからないのか、

不思議そうな顔をする。


「会ったんだろ」

「誰にですか?」

「いや、だから……」


当たり前の返事に、大和はそこからどう話しをつなげたらいいのかがわからなかった。

そもそも、約束のことを知っていること自体、比菜は知らない。

大和が黙ってしまったので、比菜は席を立つと、

冷蔵庫から自分用のヨーグルトを取り出した。

スプーンのビニールを取りながら、何かがわかったのか笑顔を見せる。


「そうか、そうでしたね、私、すっかり忘れてました。
康哉のことみなさんに話をするの」

「ん?」


比菜は、ヨーグルトを食べながら、思い切り頬をひっぱたいたこと、

康哉が地元の工務店に就職したこと、本当はここへ来て謝りたいと思っていることなど、

嬉しそうに話し出した。

大和は話の方向がずれていくのを感じながらも、修正することが出来ず、

黙って聞き続ける。


「高杉さんには、ちょっと複雑な思いを持っていたみたいですよ」

「複雑?」

「康哉がお兄さんを震災で亡くしたって話、以前しましたよね」

「あぁ……」


比菜は、色々見えてきたウソの中で、その話もウソではないかと疑っていたが、

実は本当だったこと、出来すぎるくらいのお兄さんの面影が、大和に重なってしまい、

どうも近づきにくかったこと、康哉から聞いた話を、比菜なりに理解して語り続けた。


「きちんと生活できるようになったら、きっと謝りに来ると思うんです。
もう少し、待ってあげてくれませんか?」


あれだけ苦しめられたのに、すっかり味方のように康哉のことを語る比菜が、

大和には不思議に思えて仕方がなかった。今まで色々なことがあっても、

決して他人の責任にすることがない強さと、常に前を向くタフな気持ちが、

どこから出てくるのだろうかと、そう思ってしまう。


「嫌いになりたくないんですって……、お前言ってたよな」

「あ……はい」

「全てがわかっても、そう思うのか?」


その問いに、比菜は一瞬考えるような表情を見せたが、すぐに笑顔に戻る。


「向こうに帰る前は、相当怒っていたつもりだったんですけど、
いざ顔を見たら結局ほとんど言えないまま……。
でも、康哉がいなかったら、私の今はなかった。それも事実ですし……」


大和は、結局、比菜が淳平とどんな再会をしたのか聞き出すことが出来ないまま、

また、PC画面に視線を向けた。





月が替わり、邦宏と大和は淳平の会社へ車を走らせることになった。

軽トラックは運転しやすく、荷物もしっかりとまとまっていて、運ぶにも問題はない。


「2週間ですが、よろしくお願いします」

「はい……」


淳平が細かい指示を出しながら見せる晴れやかな笑顔が、必要以上に眩しく見え、

大和はすぐに視線を外した。





「ほら……」

「うん……」

「たまにはいいなぁ、青空の下で食事っていうのも。
しかし、相手が大和っていうのがむなしいが」


休憩時間になり、邦宏はサンドイッチの袋を開け、食べ始めた。

大和も同じように袋を開けたが、そのまま動きが止まる。


「笹本家はどうなったんだ?」

「ん? お兄さんからは何も連絡がないらしい。
イネさんはいつでも出て行くつもりだって言いながらも、
毎日楽しく過ごしているみたいだし、彼女も相変わらず仕事と家事とで追われている」

「そうか……」

「遥香ちゃんがさ、絵を描いてくれたんだ」

「絵?」

「あぁ……」


邦宏は、遥香が学校の授業で、自分と穂乃の3人で出かけた思い出を

絵にしたんだと嬉しそうに語った。絵の話しを聞いた穂乃はすぐに電話をよこし、

邦宏も張り出してある校長室前まで、見に行ったのだと笑う。


「離婚したことは、きっと傷になっているんだと思うけれど、
その傷を放置することなく、再生できる力を持っているんだろうな。
遥香ちゃんなりに、運命を受け止めて、そこで精一杯頑張れるようにって、
自然に気持ちが動いているんじゃないかなと。だから、自分たちも頑張らないと……って」

「傷……か……」


二人の前を大きな翼を持った鳥が、羽ばたきながら飛んでいった。

どこまでも高く見える山を、簡単に乗り越えていく。


「なぁ、大和。あっちには……何が見えるんだろうな」

「ん? 向こうの町だろ」

「うーん……そうかもしれないけど。でも全く違う物が見えるのかも知れないぞ」

「たとえば?」

「たとえば……。まぁ、実際には行かれないから、見られないか」


おそらくそうかもしれないが、行ってみなければ、どうなっているのかはわからない。

大和は、そんな邦宏の言葉を黙って聞いた。

鳥の姿が見えなくなった時、サンドイッチの袋を一緒に渡されたビニールに戻し、

大和はその場から立ち上がる。


「邦宏、休憩時間ってあとどれくらいだ」

「あと、30分」

「わかった……」


邦宏のそばを少しずつ離れながら、大和は携帯を開くと、指で番号を押し始める。

そんな大和の後姿を見ながら、邦宏は一度背伸びをし、またサンドイッチを食べ始めた。







77 進むべき道


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コメント

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ここで一句・・・?

   こんにちは!!

 うわ~!大和、聞いちゃったよーーー淳平のこと
・・・と思ったら、比菜ちゃん勘違いしてるし・・・
まぁ、はっきり聞いたわけじゃないからね。

正直、《康哉のことはどうでもいい。
淳平とはどんな話をして、どうなってるんだ!》って思ったことでしょう。。。

 さわやかな 笑顔恨めしい 大和かな・・字余り^_^;

まだまだ先は遠いか?・・・この2人。

邦宏は穂乃さん・遥香と結構順調そう?

その邦宏、山の向こうは行ってみないと分からないは、
踏ん切りがつかなかった大和の背中を押すには
丁度良かったみたいですね。

でも誰に電話?比菜ちゃん、淳平、奈津おかあさん?
・・奈津おかあさんですよね?

優しさと懐の深さは、空の広さ、海の大きさ程もある?
 
さり気ない 気遣いの人 邦宏なり ・・・これも字余り^_^;

お楽しみがたくさん♪です。

    では、また・・・e-463

あ~勘違い

ヽ(´o`; オイオイ 比菜ちゃん、勘違いですから!とはっきり言えない大和。
でも康哉のことを、比菜が吹っ切れたことが分っただけでもヨシとしよう。
前向きな姿勢を眩しく思うかな?自分もと?

邦宏は学校まで見に行ってしまうほど、嬉しかったのでしょうね。少しづつ少しづつ家族になっていけば良い。焦ることは無い。イネが賛成なら大丈夫!

物事一方から見ているだけでは分らないことが多い。違う目線に立ってみたら?

動き出す大和

『金曜日 19時 南口』
大和はよっぽど気になってたんだね~
まさかこんなふうに聞くとは思わなかったわ
でも比菜ちゃんには康哉の事だと思われちゃって
結局、一番聞きたい事は聞けなかったみたいだけど^^;

遥香ちゃんの書いた絵を校長室前まで見に行ったと話す邦宏。
遥香ちゃんの中にも、穂乃と邦宏と三人で過ごす事がとても自然になって来てるみたい

色々苦しい事があっても、それを他人の責任にする事無く前を向いて進もうとする比菜、
そして幼いながらも、辛い運命を受け止め再生していこうと頑張る遥香ちゃん。

邦宏の言葉にも後押しされて
大和も動き出す気になったね

向こうの景色はどんなふうに見えるかなぁ
頑張れ、大和~

ふぁいてぃん!大和~!

大和くんにしては、詰めの甘い尋ね方でしたね@@
それだけ、比菜ちゃんのことが気になるんですよね~♪

ちょっと、うじうじ君になってる大和には、
すっきりさっぱりしてる比菜ちゃんがまぶしいかな~

山の向こうに飛び込もうとしている大和。
何かが変わりそうですね。
がんばれ~!
れいもんはいつも応援しています(笑)

正反対の二人

mamanさん、こんばんは!

>うわ~!大和、聞いちゃったよーーー淳平のこと

聞いちゃったよ(笑)
思わず……ってところなんでしょうけど。
気にしていることは、間違いないですよね。

人の気持ちの動きに敏感で、優しい邦宏と、
気付きながらも、うまく表現出来ない大和。

正反対の二人は、もう少し頑張りますよ。

楽しい一句、ありがとうございました。
それぞれ、心情が出ていて、おもしろかったぁ

前向きな人達

yonyonさん、こんばんは!

>前向きな姿勢を眩しく思うかな?自分もと?

まぁ、そう見えますよね。
比菜だけでなく、邦宏も靖史も、自分の想いに向かって、
まっすぐに進んでいる。
はて自分はどうなんだろうか……と。

>違う目線に立ってみたら?

そうそう、そうなんだよね。
大和君、どうなるのか、もう少し見てやってね。

向こうの景色

パウワウちゃん、こんばんは!

>まさかこんなふうに聞くとは思わなかったわ

冷静に見えても、いざ自分のこととなると、
どうしたらいいのかわからない、大和です。
特に、連絡を取ることを嫌がっていたように見えた比菜ですからね。
会いに行ったという事実は、ちょっとショックなのでしょう。

前向きになったみんなを見ながら、
このままではいけないと、重たい腰をあげた大和。

向こうの景色は、いったいどんなもので、
そこから何を得られるのか、
もう少しお付き合いください。

邦宏と大和

yokanさん、こんばんは!

>大和君て、自分の気持ちを表現するのが下手だよね~^^;

下手ですよね、だから話しが続いてるんですけど(笑)
そういう点では、邦宏と大和は正反対な性格なんですよ。
でも、根っこにあるものは、一緒……。

さて、電話の相手は誰で、なんのためなのか。
それは次回で。

山の向こう

れいもんさん、こんばんは!

>ちょっと、うじうじ君になってる大和には、
 すっきりさっぱりしてる比菜ちゃんがまぶしいかな~

比菜だけでなく、邦宏、靖史、みんな眩しいはずです。
自分だけがどこか遅れているような、
そんな気持ちになったのかもしれません。

さて、山の向こうには
一体、何があるのか。

そうそう、応援してやってくださいね。