77 進むべき道

77 進むべき道




その日の仕事を終え、大和はそのまま家へ戻った。

ポケットに押し込んだメモを取り出し、じっと見る。

邦宏から離れてかけた電話は、生みの親、奈津の両親の家だった。

祖父はすでに亡くなったが、残っていた祖母が、久しぶりの連絡に驚きながらも喜び、

奈津が大和との再会を喜んだこと、みなみの存在を知り頼みを受け入れたことを、

嬉しそうに語ったと聞かされた。

近況報告を軽くすませ、奈津の住所と携帯の番号を聞きだし、大和は電話を切った。


自分を捨てた母への処理できない思いは、そ知らぬ顔をしても、いつも心の隅にあった。

いいことを言う人が来ても、完全に信用することなど出来ずに、

自分のことを話すことはいつも避けてきた。

同じ境遇にでもならない限り、理解などされないと思い続けていたし、

理解したような振りをされ、同情されるのも嫌だった。


大学に入り、距離を保ったまま、それでも心の中を見抜く邦宏にだけは、

自然と気持ちが通じ合った。大和が作った壁は決して越えることなく、

しかし、大和が望むことはいつもわかってくれた。

そんな人間は邦宏以外、いるわけがない、そう思い込んでいた。


しかし、突然の震災に家族を奪われ、体と心を傷つけられた比菜は、

自分に気を遣われることのむなしさの中、もがきながら生きてきた。

理解してくれると思っていた康哉は、結局自分を裏切ったのに、

そこから這い上がり、しっかりと自分の道を切り開いた。


全く同じではないにせよ、どうしようもない過去の傷を持ってしまったことは一緒で、

また、信じていた人に受け入れられなかった想いも重なったが、

しかし、それを跳ね返していく強さを見ているうちに、

不確定な気持ちが、大和の中で芽生え始める。



『好きだったんです……』



堂々とそう言い切れる淳平を目の前にし、嫉妬に近い感情が大和の心の中を駆け巡った。

待ち合わせをし、どんな会話をしたのか、また合う約束をしたのか。

何気なく聞いてみたいと思ったが、邦宏のように気楽に受けられるような

言葉が出てこない。


過去を乗り越え、しっかりと前を向いて歩き始めた比菜に対しては、

今、自分が抱えている想いを乗り越えなければ、

何か話しかけても、しっかりと届かないのではないかと、大和は決意を固めた。





何度か鳴らした電話は、奈津の声を届ける。


「もしもし……大和です」


思いがけない電話に、一瞬戸惑ったような奈津の、

それでも喜びを隠せない、優しい言葉が大和の気持ちに少しだけ重なった。





靖史は教室に亜紀を呼び出し、作った花瓶を手渡した。

亜紀はそれを受け取り、素敵な形ですねとほめてくれる。


「店へ戻ります」

「はい……」

「中途半端になってしまって、ごめんなさい」


亜紀は首を振り、そんなことはないのだと笑顔を見せた。

しかし靖史の表情が辛そうに見えて、亜紀の笑顔もしぼんでしまう。


「陶芸はこれからも続けます。今までのようには出来ませんが、
趣味として、気持ちのよりどころとして持っていくつもりです。
二つの道を歩むことは出来ないので……」

「そうしてくれたら、父も喜ぶと思います」


亜紀は靖史の手渡した花瓶を、指でゆっくりとなぞりだす。

少し手に残るような凹凸は、靖史の想いがこもっている。


「亜紀さんにとって、この店と陶芸がどんな意味を持つのか、
ここで一緒に学んで、以前よりももっと理解したつもりです。
僕と同じように、あなたも仕事に誇りを持つ、父親の背中を見て育ったのだから……」

「はい……」

「でも、だからといって、道がひとつだとは思えません。武雄さんも言ってました。
茶碗にも色々と形があるように、人の好みも、道も、その数だけあるはずで、
目の前にいいものがなければ、それならば自分達で作ればいいんです」

「吉田……さん」

「あなたが好きです。僕はこの想いを諦めるつもりはありません」


亜紀はその言葉にすぐ、顔をあげた。

ここへ来るまではどこか自信なさげだった靖史が、しっかりと前を向き、

堂々と意見を言うことが、嬉しくもなる。


「一緒に探しましょう。僕たちの想いが、両方叶えられる道を……」

「吉田さん……」

「陶芸よりも、とんかつの店よりも……あなたのことが好きなんです」


亜紀は靖史の渡した花瓶をしっかりと握り締め、小さく頷いた。

靖史は亜紀と、陶芸への想いを両方抱きしめるつもりで、一歩前へ出た。





亜紀と気持ちを確認しあった靖史は、『とんかつ吉田』へと向かった。

すでに時間は夕方になっていて、扉の前に立つと、夜の営業に向けて準備をする

比菜と和子の声が響く。

大きく深呼吸をして、扉をあけると、店の中にいた2人の視線が、一気に靖史へ動いた。


「話があるんだ……」

「靖史……」


厨房でキャベツを刻む清太郎の動きが止まり、靖史の方を一度見たが、

何も言わずに、そのまま奥へ入っていく。

自分勝手に店を出て、また戻ることをすぐに許してもらえるとは思っていなかった。

しばらくは口も聞いてもらえないと覚悟をしていたが、

気持ちを引き締めるために大きく息を吐く。


「母さん、あのさ……自分から出て行ったくせに、今さらこんなこと……」

「おい! とっとと着替えろ! これから忙しくなるんだぞ。
今日は団体さんが入っているんだ。このうちの息子を何年してる。
時間を取る話ならな、定休日でも選んで来やがれ!」


清太郎はしっかりと洗濯され、アイロンのかかった靖史の作業服を放り投げた。

靖史はそれを受け取り、和子を見る。


「こんな時間に店に入ってきて、のんびり寝ていられると思ったら、
大間違いだぞ」


清太郎はそう言いながら、また包丁を握り、キャベツを刻み始める。

和子は清太郎らしい迎え方だと思いながら、靖史の荷物を受け取った。


「今日はいつもいらっしゃる、森山建設さんの飲み会なんです。
だから張り切らないとダメですよ、靖史さん!」


比菜は靖史の背中をポンと叩き、すぐに厨房へ入ってくださいねと付け加え、

靖史は深呼吸を一度すると、懐かしい声と油の匂いに、自然と顔がほころんだ。







78 帰る場所


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コメント

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いいねえ、若いということは。。

大和は、比菜ちゃんから過去を乗り越える強さを学んだんですね。
その比菜と向かい合うためにも
大和は一歩踏み出したんだ。
思いこみから抜け出してみれば
案外、大和の望んでいたものが待ってくれているのかも。。
閉じこもっているだけでは何も手に入らないもの。

靖史と亜紀さんにも新しい道が開けそうですね♪

ん~、ハッピーエンドに向かって
いい風が吹いてるわ~

私も頑張ろう!
明日の正念場を乗り越えれば、私も楽になる予定♪
元気をもらえました~

結果オーライ

大和も前に進むべく踏み出しましたね。
奈津に今までの思いをぶつければいい、大人になったって親からすれば子供。喚いて泣いて愚痴って、それで吹っ切ればいい。
奈津の思いも知ることが出来るだろうし、
比菜に言うべき言葉も見つかるはず。

靖史の「好きです」は凄く気持ちがいいな~
こんなに素敵な男だったんだ。きっと黙々と焼き物を作る武雄や亜紀を見てきて、素直になれたんだろうね。又清太郎が『ヨッ、江戸っ子』と言いたくなるほどだ。

それぞれが顔を上げて前を向いているのがいい。

皆、頑張ってるね^^

ようやく新しい一歩を踏み出した大和!

辛い過去を乗り越えてきた比菜ちゃんに
きちんと気持ちを伝える為には
自分も実のお母さんとの事を乗り越えなくっちゃ
いつまでもこのままじゃ何も変わらないものね!

そして店に戻る決心を固めた靖史!
頑張ったね~^^
>「あなたが好きです。僕はこの想いを諦めるつもりはありません」

男らしく堂々とした告白、とってもかっこ良かったよ^^v
いつもどこか自信なさげな靖史だったのに・・・
私も凄く嬉しいなぁ

大和の口からこんな素敵な告白が聞けるのは
いつになるのかな?なんて考えたりしながら・・・

新しい道を歩き始めた皆のこれから
ますます楽しみになってきました~♪

嬉しかった

お久しぶりです。ももんたさん。昨夜ブログを開いたら、UPされた時間とジャストで私が一番目!と、何だか得した気分になちゃいまして今日も開いてニヤニヤしています( ̄▽ ̄)b
さてさて、みんな清々しいほど前に進んでいて、嬉しいです。特に、大和については、親戚のおばちゃんモード(いえ、おねーさんモードです( ̄∇+ ̄))で嬉しく感じています。
大和がやっと、真正面から本気で対峙したい女性と巡りあったのかと、ジーンと来ちゃいました。
続き待ってますね


こんにちは!!

 靖史、結構男っぽいのね。

亜紀さんへの告白のとこは、男らしくてカッコイイって。
この前までは優柔不断でヘナァっとした感じだったのに・・。

愛する人のために強くなった?
ちょっとは自信ついたというか、ホントに為すべきことが見つかったからかな。

大和もとうとう決心したか・・・
・・・奈津お母さんとのわだかまりに決着を付ける事を。
決心いったろうけどそれを助けたのは邦宏だけじゃなかったんだね、やっぱしーーー。

そこには比菜ちゃんへの気持ちがあったんだね。

大和、いくらなんでももう気付いたよね、自分の想いに・・・。

どのくらいの比重になってんだろう大和の中で^m^
グフフ・・(き・き気持ち悪いぞ(・・;)いい傾向だわ♪

青年よ!大志(ってほどでもない?)を果たせ!!

happylife?はもう目の前かしらヽ(^o^)丿

     では、また・・・e-463

学んだ大和

れいもんさん、こんばんは!

>大和は、比菜ちゃんから過去を乗り越える強さを学んだんですね。

そうですね。比菜の頑張りを目の前で見て、
影響されたのでしょう。

前に出るぞと決意した、大和の前には……
何があるのでしょう。

>ん~、ハッピーエンドに向かって
 いい風が吹いてるわ~

はい! ガンガン吹いてますからね(笑)

そう言えば、正念場さんは過ぎましたか?
元気をあげられたかなぁ。

靖史親子

yonyonさん、こんばんは!

>靖史の「好きです」は凄く気持ちがいいな~

物語が始まった頃は、目標も見えず、自信もなかった靖史ですが、
自分から行動し、何かを掴んだので、こんなふうに変わりました。
もちろん、亜紀の存在が大きいわけですが。

さて、大和の方はどうでしょうかね。

清太郎は気持ちのいい男として書いています。
ウダウダ言わずに、ドン! と来い! です(笑)

家出の効果

yokanさん、こんばんは!

>靖史君は逞しくなりましたね。一度、家を出て正解だわ。

はい、この家出が靖史を成長させました。
自分の力で決めることが出来たら、男はどんどんステップアップするはず。

清太郎のいい味出てるでしょ?
私はとっても気に入っているキャラなんです(笑)

変化

パウワウちゃん、こんばんは!

>いつまでもこのままじゃ何も変わらないものね!

はい、変わらないと嘆くより、変えないとね。
大和も周りに影響され、やっと腰を上げました。

>いつもどこか自信なさげな靖史だったのに・・・
 私も凄く嬉しいなぁ

一番変化をしたのは、靖史かもしれないですね。
愛の力は、偉大なのです(笑)

残りももう少し、最後までぜひぜひ、
お付き合いしてやってくださいね。

こちらも嬉しいです

milky-tinkさん、こんばんは!

>昨夜ブログを開いたら、UPされた時間とジャストで私が一番目!と、
 何だか得した気分になちゃいまして

あはは……そういうのって分かります。
UPして、すぐ拍手とかついていると、
驚きと同時に、嬉しかったりするんです。

親戚のお姉さんモードで、大和の応援をよろしくお願いします。

>続き待ってますね

この言葉に、勇気100倍です! ありがとう!

男の成長

mamanさん、こんばんは!

>ちょっとは自信ついたというか、
 ホントに為すべきことが見つかったからかな。

そう、自信なく、頼りがいのなさそうだった靖史が、
劇的に変化を見せました。
自分で考え、行動できると、男は成長するのです。

>大和、いくらなんでももう気付いたよね、自分の想いに・・・。

だと思います。

『幸せの時間』まで、もうちょい……
お付き合いお願いしますね。