78 帰る場所

78 帰る場所




それから3日後の月曜日、布団や荷物を持って、靖史は実家へ戻ることになった。

店をもう一度手伝わせて欲しいと言った靖史に、清太郎は『おかえり』と声をかけ、

和子は嬉しそうにちらし寿司を作った。


「そうか、戻るのか」

「あぁ、色々と悪かったな。仕事もあまり手伝えなかったし、
荷物もあったから、狭くしちゃって」

「いえいえ、ちゃんと家賃はいただきますし」

「まぁ、そうだけどさ」


自分を温かく迎えてもらえた靖史の口調は明るく、

これからまた目指す道への決意が感じられた。

大和はそんな靖史を見ながら、心配していた亜紀の顔を思い出す。


「なぁ、靖史。亜紀さんにはちゃんと話したのか?」

「ん?……うん。ちゃんと話しをした」


靖史の表情が真剣なものに代わり、邦宏も大和も、

靖史が自分の気持ちを話すことが出来たのだとわかる。


「一緒に頑張っていける方法を、探していこうと思ってさ。
諦めなければ道は見えてくると思うんだ。だから……」

「そうか……」

「お前がとんかつ揚げて、亜紀さんが皿を作ればいいじゃないか。なぁ、大和」

「彼女は店を守りたいんだよ、ただ、皿を作ればいいって……あ!」


大和は何かを思い出したのか、PCを開き何やら探し始めた。

邦宏はその様子を横からのぞき込み、靖史は最後の荷物を詰めていく。


「そうだ、ここだ。ご主人が創作料理を作っている店だけど、
入り口から半分は奥さんが経営しているガラス細工の店になっている」

「ん? あ、本当だ」

「店を半分ずつ?」


初めて聞くような話に、靖史は荷造りを止めPCをのぞき込んだ。

大和の言うとおり、確かにガラス細工の店の奥には、テーブルがいくつか並んで見える。


「本当だ……」

「靖史がやる気にさえなれば、色々と方法はあるのかもしれないぞ」

「あぁ……」


前向きに気持ちが変わっている靖史を見ながら、

邦宏と大和は視線を合わせ、自然と笑顔になった。





靖史が事務所を出た後、邦宏の携帯には、

今日も淳平の配送仕事へ出掛けている4人の学生から、任務終了の連絡が入った。

車を戻して解散するように告げ、携帯を閉じる。


「いつ、行くんだ、大阪」

「来月の頭かな。向こうはいつでも都合に合わせてくれるって言うから、
仕事の具合を見たら、ちょうどそこなら迷惑もかけずに済みそうだし」

「そうか……」


大和は、大阪にいる奈津に連絡を取ったこと、

一度会って話をしてこようと思っていることなどを淡々と告げた。

邦宏は、ここまで気持ちを動かした大和に、何か言葉をかけようと思うのだが、

いつもなら自然に出てくる一言が、今日はなぜか出てこない。

邦宏は携帯を意味なくいじりながら、ただ前を向くだけになる。


「止まっている気がしてさ……」

「ん?」

「お前や靖史や、それにあいつのことを見ていたら、
自分の時だけが止まっている気がして。
どうでもいいような場所でグルグル周りながら、下ばかり向いているような、
そんな気になった」


邦宏は、あえて比菜のことを『あいつ』と呼ぶ大和の気持ちを思い、小さく頷いた。

山を越えていく鳥を見ながら、大和はきっと、

見えないものを見てみたいと、思うようになったのだろうかと考える。


「帰る場所さえあれば、どこにでも飛べるさ」

「あぁ……」


多くを語ることなく、邦宏と大和は、また互いの仕事へ向け動き出した。





それから5日後、大和は淳平の会社へ仕事に出掛けたが、邦宏はイネの病院送迎のため、

『フリーワーク』号を走らせる。順番待ちをし薬を受け取ると、携帯が揺れた。

相手の名前を確認すると、事務所に残っている比菜で、

何かあったのかと慌てて携帯を開き、耳に当てる。


「どうした? 大和達に何かトラブルがあった?」

「いえ、違うんです。今、笹本久之さんって方から連絡があって、
イネさんの送迎を終えたら、笹本家に残っていて欲しいと……。
あの、久之さんって、穂乃さんのお兄さんですよね」

「あぁ……」


イネが家を手放すと告げ、それから何も言って来なかった久之だったが、

直接、邦宏に対して連絡をしてくるということは、

また何か新たな問題を突きつけてくるのだろうかと、気持ちが重くなる。


「わかった。笹本家に残るよ」


邦宏はそれでも、穂乃や遥香のことを想い、

精一杯ぶつかってこようと、息を吸い込んだ。





大和は仕事を全て終えると、事務所に待つ淳平のところへ向かった。

2週間の約束で引き受けた配送は、全て無事終了し、

書類にサインをもらわなければならないからだ。



『金曜日 19時 南口』



あのメモを見てから、比菜と淳平の間で、

どんなやりとりがあったのか気になってはいたものの、聞き出すことが出来ずにいる。


「あ、高杉さん。色々とありがとうございました、助かりました」

「いえ、こちらこそありがとうございました」


淳平は、自分とあまり年齢が変わらないのに、

邦宏と大和が学生を上手く使っていることなどを褒め、

会社を立ち上げることに興味があるのだと、笑顔を見せる。

手渡した書類を受け取り、必ず上司からサインをもらい送り返しますと頭を下げた。


「比菜に、この間会ったんですよ」


その言葉に、書類をしまっていた大和の手の動きが、鈍くなった。

淳平は、比菜がフリーワークに入るようになったきっかけを、

楽しそうに自分に語ったと笑っている。


「今度はぜひ、僕個人の依頼を受けてくれますか?」

「個人……ですか?」

「はい、近々引っ越しをするんです。
比菜に聞いたら、そういう仕事も引き受けてくれると言っていたので」


大和は引っ越しでも不要品の回収でも、仕事ならば引き受けますと言いながら、

淳平と会うことをどこか嫌がっていたように見えた比菜が、

積極的に語っていたのだと知り、どこか騙されたような気になってくる。


「来年の春に……結婚するんですよ。
新居も決めたので、引っ越しだけ済ませようとしているんですけどね」

「……結婚?」

「はい」


淳平は自分の結婚が決まったこと、それを報告したら比菜がとても喜んでくれたこと、

少し照れ笑いを浮かべながら、楽しそうに語った。

大和はそんな淳平の言葉と、自分の勘違いに同じような照れ笑いを浮かべ、

視線を前に見た山の方に向ける。


邦宏と見たあの日とは別の鳥が、見たこともない山の向こうへ、

まっすぐに飛んでいった。







79 決意表明


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コメント

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ひょうしぬけ~

なぬ?!結婚?!
淳平、結婚するのお~@@
そうなんだ。。

大和もきっとそうだと思うけど、
私も拍子抜けです~
でも、よかったね、大和♪
問題が一つクリアされて。
それに、自分の気持ちにも気づくことができたからね。

さあ、大阪で
親子の絆を確かめてきてください。

あ。。大和のことだけで、m(__)m
こんなやつが一人くらいいてもいいですよね(笑)

エッ?!

仲間が居るって有りがたい。自分だけでは・・・ってことも何とかなるって思える。

久之が何を言ってくるのか、でも邦宏にも仲間が居る。
イネも穂乃も遥香も居る。力強いばかりだ!

そんな仲間が大和にも居る。帰る場所は『フリーワーク』

淳平が結婚。いや~~意外な展開です。
でもこれで大和も少しは気持ちが軽くなって、奈津に会えるのでは?

そうなのよ

れいもんさん、こんばんは!

>大和もきっとそうだと思うけど、
 私も拍子抜けです~

あはは……そう思っている人、多いかもね。
でもさ、過去のことになってなければ、
『好きだったんです』なんて、
言えないと思うんですよ。

でも、心に余裕のなかった大和は、
すっかり勘違いの中にいました。
でも、これがきっかけになったのも事実。

さて、大阪はどうなるか。
れいもんさんには、引き続き、大和の応援をお願いします。

どんな顔?

yokanさん、こんばんは!

>淳平君が結婚すると聞いた時の
 大和君の顔を想像してしまった(笑)

ありがとう!
想像してもらえることって、とっても嬉しいことです。
思わず山の方を向いてしまった大和の顔は、
にやけていたのか、それともポカン顔だったのか(笑)

それぞれに進んでいる『フリーワーク』です。
最後までお付き合いくださいね。

きっかけは……淳平?

yonyonさん、こんばんは!

>淳平が結婚。いや~~意外な展開です。

あはは……意外だった?
そんなに泥沼がいいのかな、みなさん(笑)
しかし、大和のきっかけにはなった淳平です。

そう、邦宏にも大和にも仲間がいます。
それをわかっている彼らは強いはず。
もう少し、お付き合いお願いしますね。

それぞれの道を・・・

みんなが歩き出したね。
一番じれったいと思っていた靖史が、いの一番に目標に向かって歩き出したのは意外でした。
道が見えるときは見えるんだ!

邦宏は、きっと自分の道を切り開いていくだろうし、あとは大和と比菜だね。
もしかして、拘りや頑固さが邪魔をして、彼が一番厄介だったりする?^^;
淳平の結婚の報告が、二人の間に変化をもたらすのか。

さばさばして、なんでも器用にこなしそうな二人が、最後までモタモタかしら^m^
だから人生って面白いのよね~!

山を越えるのだ!!


    おはようございます!!

 イヤー、2日・3日?4日か??
それくらいぶりのPCと「ももんたの発芽室」・・(T_T)

なぜって?旦那の実家のリンゴ畑のお手伝いに行ってるから
帰って来て晩御飯の支度して食べると眠くなっちゃう・・・

あっ、感激に浸ってる暇はないのだわ!
うるさい、旦那が寝てる間にコメしなくちゃいけない!


靖史と亜紀さんこれからだ。頑張ってるけど、もっとがんばれーー???

大和も前進だ!恋の力恐るべしーーー
それだけじゃないんだろうけど、奈津お母さんと
会うことを決めさせたんだもの!

淳平と比菜ちゃんのことにヤキモチ妬いてたのに
大和、独り相撲(?)とってたのね・・・(>o<)

でもよかったですよ、そのおかげで自分の気持ちに気付いたんだから。。。

さて、邦宏に会いたいという久之・・・
どんな話なんでしょうね。

改心(おおげさ?)したのか?何様は・・・


     では、また・・・e-463

靖史の決断

なでしこちゃん、こんばんは!

>一番じれったいと思っていた靖史が、
 いの一番に目標に向かって歩き出したのは意外でした。

あはは……そうかも。でも、靖史が一番切羽詰まってたのかもしれない。
親のこと、自分のこと、店のこと、
邦宏と大和には、違った意味の自由さがあるからね。

>さばさばして、なんでも器用にこなしそうな二人が、
 最後までモタモタかしら^m^

今のところ、そんな感じですね。
大阪行きが、二人をどう動かすのか、見てやってちょうだい。

お疲れ様です

mamanさん、こんばんは!

リンゴ畑のお手伝いかぁ、気温も上がって、湿気も上がって、
それは疲れちゃいますよね。
創作はいつでもありますので、
都合が良いときに、お立ち寄りくださいませ。

>淳平と比菜ちゃんのことにヤキモチ妬いてたのに
 大和、独り相撲(?)とってたのね・・・(>o<)

はい、完全に勘違いです。でも、そういう想いも必要ですよね。
気持ちを動かすときって、以外にそんなところから
始まる気がします。

久之が会いに来た理由は……
次回へ飛んで下さい!