79 決意表明

79 決意表明




邦宏が笹本家へ戻ると、車庫には久之の車が止まっていた。

何も知らないイネは、どうしたのだろうかと心配し、邦宏は何も言わずに玄関へ向かう。

靴を脱ぎ揃えてリビングへ向かうと、ソファーに座っていた久之が、軽く頭を下げた。

邦宏もそれに合わせて、軽く挨拶をする。


「久之、どうしたんだね」

「母さん、今日は坂本君と話があって来たんだ」

「話?」


邦宏は久之と向かい合うように座り、すぐに話を受け止められる体制をとった。

イネはその場所にいづらかったのか、自分の部屋へ向かう。


「穂乃から話は聞いていますよね。この家のことについて」

「はい、だいたいのことは」

「そうですか」


久之は自分の会社が、仲岡家との取引で成り立っていること、

敏規と穂乃の関係が切れてしまうと、これからどうなるのかわからないことなど、

邦宏に話し始めた。今までのように高圧的な態度を取ることなく、

理解してもらおうと、冷静な口調で進んでいく。


「母が、この家を手放してまで、穂乃を自由にしたいと言ったとき、
初めて自分の要求していたことの大変さに気付きました。
それでも正直、敏規君に伝えることが怖くて、まだ、話をしていない状況なんです」


穂乃が遥香を手放すつもりがないこと、仲岡の家に戻るつもりもないこと、

それを告げたあとの反応が怖くて、久之は切り出せないのだと下を向く。


「親不孝だとは思うのですが、母の言ってくれることにすがろうと思っています。
何かがあった時には、とりあえずここを処分して、お金を作らないとならないので」

「はい……」

「それでも、穂乃と遥香のことを思う気持ちに、変化はないですか?」


久之は、穂乃が遥香を抱えたままこの家を出ることになったとしても、

気持ちを変えないでいてくれるのかどうかと、問いかける。

邦宏は、笹本家の財産がなくなっても、このまま穂乃とつきあえるのかと

久之が聞いたのだと思った。


「すぐに結婚出来るのかと言われたら、即答は出来ません。
まだ、遥香ちゃんの気持ちも整理がついていないだろうし、
穂乃さん自身もすぐには決断できないと思います。でも、僕は僕なりの方法で、
二人を支援していきたいと思っていますし、それはこの家があってもなくても、
変わりません」

「子供を育てるのは、そう簡単なことじゃないですよ。
ましてや、自分の子供じゃないのですから」


二人の子供を抱えている、久之の助言だった。

大和の母も、先崎の決意に大和を手放すことになったからだ。


「遥香ちゃんも努力をしてくれるはずです。
だから、僕たちも努力をすべきだと思っています」


自分の部屋のふすまを少しだけ開き、イネは邦宏の言葉を、静かに聞き続けた。





大和が仕事から戻ると、ちょうど比菜に子供を預けた親が、

引取りに来ているところだった。小さな男の子は母親を見ると嬉しそうに笑い、

頬を摺り寄せていく。


「それじゃ、来週の水曜日、同じ時間でお待ちしてます」


頭を下げた親子に手を振った比菜は、その後ろに見えた大和に気づき、

おかえりなさいと声をかけた。大和はそのまま中へ入り、

冷蔵庫を開けペットボトルの水を取り出す。


「早かったんですね、道、空いていたんですか?」

「あぁ。仕事も思ったよりも早く終わったんだ。
学生たちが昨日、張り切ってくれたみたいで、予定の3分の2しか残ってなかったから」

「そうなんだ。早坂君とか、要領よさそうだからな……」


比菜は書類にサインをし、もらったお金を封筒に入れると、大和に手渡した。

大和はそれを受け取り、金庫を取り出すとカギを回す。


「佐々木君から引越しを頼まれた、結婚するんだってな、彼」

「あ、そうなんです。この間、久しぶりに会って話をしたら、
実は結婚するから引越しの仕事も頼めないかって言われて。
でも、正直あの時はまだ、『フリーワーク』のみなさんが、
どれだけしっかり仕事をしてくれるかがわからないから、
ある程度、働き振りを見てから決めるって言っていたんですけど……」


大和は、父健児や比菜が、淳平のことをしっかりしていると言ったことを思い出し、

封筒を金庫に入れながら、確かにその通りだと考える。


「学生もみんな、絶対に手抜きをしないから大丈夫だって言ったんです。
じゃぁ、淳平君に仕事ぶりを認められたってことですね、『フリーワーク』は」

「ん? あぁ……そうだな」


比菜は、淳平が結婚する相手は二つ年上の女性で、写真を見せてもらったが、

とても綺麗だったと楽しそうに語った。大和はそんな比菜の話を、

時々頷きながら聞き続ける。

時計が5時を示し、比菜は書類をケースに戻し、立ち上がった。


「じゃぁ、お先です」


比菜が手に持ったバッグには、以前、仕事先で無くし、

二人で必死に探した祖父の形見の時計が、鎖につながれた状態で、

しっかりとくっついている。


「なぁ……」

「はい?」

「大阪に行くことにしたんだ」

「大阪? 仕事ですか?」

「いや……母親に会ってこようと思ってる」


玄関の方へ向きかけた比菜の動きが止まり、驚いた顔のまま大和の方へ向き直った。

大和はペットボトルの蓋をしっかりと閉め、机の上に置く。


「来月……行って来る……」


比菜は何も言わないまま小さく何度か頷くと、切符は早く買うと割引になることや、

昔、神戸にいたので、色々とお店も知っているから、

出来たら大阪の観光もしてきたらどうかと、言い始めた。


「たこやき……たこやきキャンディ、お土産よろしくお願いします」

「は? たこやき?」

「はい」


雑誌に出ていて珍しかったこと、なかなかこの辺では買えないことなど、

身振り手振りで話す比菜の顔が、笑顔から少しずつ変わっていく。


「あ、こんなことしている場合じゃなかった。行かなきゃ、仕事。じゃぁ!」


比菜は慌てて大和から顔をそらし、玄関へ向かう。

大和は、声に出さなくても、何も言わなくても、比菜が今、

自分の出した決断を認めてくれていると感じ取る。


「おい! 自転車気をつけろよ」

「……はい……」


顔を見られたくないのか、比菜は振り向くことなく返事をし、

そのまま事務所を出て行った。

大和は遠ざかっていく比菜の足音を聞きながら、

大きく息を吸い込み、そのまま目を閉じた。







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コメント

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完璧!

邦宏って、完璧だわ。

久之もイネさんの本気に
ようやく目が覚めたようでよかった。ほっとしました。

イネさん、邦宏の本気がしっかりと見えて安心したかな。

一方の不完全大和も前に進み始めましたね。
比菜ちゃんともちょっとずつ距離が縮まってるようで
こちらも嬉しい~

比奈ちゃんに宣言したんだから
大阪で何かを見つけてこなくちゃね!
がんばれ!大和~(^0^)/
締めはやっぱりこの言葉(笑)

決意表明

    おはようございます!!

 何様久之、どんな話をするのかと思いきや
邦宏の気持を確かめるだなんて・・・

改心したのね・・

その様子をふすま越しに聞いてた、イネさん。
うれしかった? 

大和、比菜ちゃんにお母さんと会うのを
決めたことを話してる時、どんな顔してたんだろうなぁ?

褒めて、褒めてみたいな、ドヤ顔?とか・・^m^・・ないか。

慌てて出て行く比菜ちゃん、気持ちもろ見えですが
どうなるんでしょうねぇ・・・この2人

揉め揉めしながらじゃれ合って仲良しこよしで、前途洋々?それとも前途多難?

続き楽しみにしています♪


     では、また・・・e-463

女は強し?

俺様長男、イネの本気に圧倒され、邦宏の素直な気持ちにホッとしたかな? 
大和のことがあるから軽はずみな態度は取れないと、
邦宏ならではの優しさがにじみ出ている。

身構えて話しかける大和に、比菜はあっさり飛び越えて心に迫る。
お祖父ちゃんの時計、今では懐かしい良い思い出。

頑張れそうな大和ですね。

3人のバランス

れいもんさん、こんばんは

>邦宏って、完璧だわ。

このメンバーの中ではそうかもね。
でも、大和や靖史がいるから、
邦宏は色々なことに気付けている、そんな気がします。
まぁ、気配りの男には、変わりないですけど。

>がんばれ!大和~(^0^)/
 締めはやっぱりこの言葉(笑)

これこそ、れいもんさんだ!
最後までその調子でお願いします。
大和、大阪で何かを見つけるのか、それとも忘れるのか?(笑)

大和と比菜

mamanさん、こんばんは!

何様久之も、人の子でした。
イネの本気モードに、改心……したようです。

>大和、比菜ちゃんにお母さんと会うのを
 決めたことを話してる時、どんな顔してたんだろうなぁ?

あはは……そうだよね。
そこまで考えてなかったけど、確かに、『褒めて!』と思っていたかも。
決意をしたんだから。

>揉め揉めしながらじゃれ合って仲良しこよしで、
 前途洋々?それとも前途多難?

……どっちがいい?


続きをお待ち下さい!

何様の結論

yonyonさん、こんばんは!

>俺様長男、イネの本気に圧倒され、
 邦宏の素直な気持ちにホッとしたかな?

久之も、イネの子でした。
人は表と裏があるものです。
悪いやつも、心底悪くはない……
(いや、どうしようもない人もいるけれど)

邦宏の優しさも、大和や靖史を見ているから
出来たものだと思います。
そして、もう一人の気配りや、比菜。

大和へ傾く気持ちを、隠すことなく、
なんとか励まそうとするんですよね。

さて、ご本人さんの奮闘はいかに。 

近づく距離

あれほど強気な久之だったのに、随分大人しくなっちゃって^^
イネさんの気持ちが通じて本当に良かったわ!

そして邦宏
誠実で落ち着いた言葉はさすがだなぁ~
イネさんもきっと安心したよね

大阪行きを比菜ちゃんに告げる大和、

お母さんに会おうと決めた事
比菜ちゃんには一番知っておいて欲しいもんね

慌てて出て行く比菜ちゃんに
「自転車、気をつけろよ」の大和^^

良い感じに近付いてきた二人が、ますます楽しみです~♪

軸は邦宏

yokanさん、こんばんは!

>邦宏君は考え方がしっかりしてるよね。大人だ~・・・^^

はい、彼がいるからこそ、成り立っている『フリーワーク』と
このお話です(笑)

邦宏や靖史は、どう進むべきか、が見え始めましたが、
まだ、そこに向かおうとしているのは大和です。
比菜への想いにうっすら気付きつつ、
大阪へ向けて、頑張ります!

前進……出来るかなぁ。

大和の想い

パウワウちゃん、こんばんは!

>あれほど強気な久之だったのに、随分大人しくなっちゃって^^

やはり、母の捨て身の宣言は、久之もこたえたでしょう。
それで通じなかったら、子供じゃないです。

>お母さんに会おうと決めた事
 比菜ちゃんには一番知っておいて欲しいもんね

はい、今の大和はそうでしょうね。
邦宏ではなく、比菜。
その想いは、届くのでしょうか……

というところで、最後までよろしくお願いします。