80 マイ・パートナー

80 マイ・パートナー




亜紀は、時計を見ながら駅へ向かった。

靖史からデートの誘いがあったのは3日前のことで、互いに都合が付く日を選び、

会うことになった。今までは振り向けばそこにいたような関係だったが、

離れたことであらためて会うことが、逆に新鮮な気分になる。


「ごめんなさい、遅れちゃった?」

「いや、僕の方が早く着いていたから」


店番や陶芸のことを考え、いつもジーンズ姿が多い亜紀だったが、

初めて見るロングのスカート姿に、靖史は視線を合わせるのが恥ずかしくなり、

すぐに路線図へ目を向ける。


「二回乗り換えて、駅から歩いて10分くらいなんだ。調べてきたから……」

「うん……」


二人で行こうと思ったのは、大和がPCで探してくれた

共同の店を持つ夫婦のところだった。創作料理とガラス細工の店を、

どう調和させているのか、参考になるかもしれないと思ったからだ。


「私も、吉田さんに言われてから調べてみたの。
確かに食事をするところと、展示をしているところが同じフロアになっていた」

「だろ……」


改札を通った二人は、これから見に行く場所へ、自分たちの夢を重ねながら、

歩き始めた。





「見て、ママ! 見て、坂本さん。ほら、牛が草を食べてる」

「遥香ちゃん速いなぁ……。よく坂を登っても疲れないね」

「楽しいのよ、きっと」


邦宏と穂乃は、遥香を連れ車で2時間ほど走った場所にある

『こども牧場』へ遊びに来ていた。小さなヤギやポニーが飼育されていて、

乗馬の体験も出来る。初めは怖がっていた遥香も、飼育員の話を聞きながらポニーに乗り、

半周する頃には笑顔が見えるようになった。

邦宏はデジタルカメラを構え、そんな遥香の姿を、一生懸命写真に収めていく。


「遥香ちゃん、こっち! こっち見て!」


遥香は邦宏の方を向き、得意げにVサインを作る。

穂乃はそんな二人の様子を見ながら、幸せな空気を精一杯吸い込んだ。





大和はその頃、定期的に回っている企業の営業所を出るところだった。

どこかで昼食を済ませようと考えながら、ビルの階段を降りていく。

2つ隣のビルの前に、来た時にはなかった1台の車が止まっていた。

車の横には『サイクル』と書いてあり、笑い声のする方へ視線を向けると、

貴恵の前の席で、いつも汗を拭いていた営業部員の顔が目に入った。

商品のケースを台に置き、なにやら話し込んでいるように見える。


いつの間にか、『サイクル』のホームページを見ることもなくなり、

貴恵のことを気にしなくなった。

大和はその車をよけながら前へ進み、人の流れに乗るように横断歩道を渡る。

そして、ある店の前で足を止めた。



『気が向いたらな……』



貴恵と付き合っていた頃には、アクセサリーの店を見つけると、

それをつけた貴恵の姿を想像したものだったが、今はあまりそういった店に、

目が動くことはない。


「すみません、あれ、見せてもらってもいいですか?」


大和の声かけに、奥で伝票整理をしていた店員が、いらっしゃいませと返事をした。





靖史と亜紀は店の中に入り、まずはじっくりとガラス細工を見た。

ひとつひとつ丁寧に細工が施され、どんな用途に合うのか、

色々書かれたメモを読んでいく。


「ねぇ、これ、お父さんに買っていこうかな。吉田さんもどう? 
お父さんやお母さんが、晩酌するときによさそうよ」

「ん? あ、そうだね……」


青く光る小さなグラスは、店のライトに反射し、キラキラと光った。

亜紀は席が空きましたと言われたことにも気付かずに、じっとグラスを見つめる。


「呼ばれたよ」


靖史は隣にいる亜紀の左手を優しく握った。一瞬驚いた亜紀だったが、

店員が前に立っていることに気付き、そのまま靖史についていく。


「行こう……」

「うん……」


二人は奥にある創作料理店へ足を進め、窓際の席に案内される。

メニューを運んできた店員が置いてくれたのは、店で売られていたものと同じ、

ガラス細工のコップだった。


「お店の中は、もうご覧になられましたか?」

「はい……また、後から見せていただきたいと思っています」

「そうですか、ぜひ、ごゆっくり」


二人はしっかりと料理を味わいながら、靖史は店へ戻ってからのこと、

亜紀は武雄の作品が、ネットでよく売れることなどを楽しく語る。

そして、また店へ戻り、最初に見たグラスをそれぞれの親へ買うことにした。


食事と買い物を済ませ30分ほど歩くと、小さな展望台がある場所へたどりつく。


「素敵ね……あんなふうにお店が出来たら」

「目も腹も心も、みんな満足したって顔をしていた」

「私、目の前のことしか、見えてなかったのね。父と、陶芸と店と、自分と……。
それだけしか考えられなかった。お店を売って欲しいと不動産屋の人が来た時も、
全てが取られるようなそんな気になって。でも、今はね、決まった物はなくて、
形はそれぞれでいいんじゃないかって、少しずつそう思えるようになった」

「うん……」

「陶芸が好きだという気持ちを、一生懸命前に押し出して作品作りをしていた、
吉田さんの……おかげ……」


亜紀はそう言うと、今度は自ら、空いている靖史の手を握り締めた。

靖史はそんな亜紀の手を、また握り返す。


「ありがとう、ここへ連れてきてくれて。
いつもお店と家との往復じゃ、ダメだってことも、よくわかったわ」

「ねぇ……」

「何?」

「吉田さん、吉田さんっていうのは……ちょっと。
僕も亜紀さんって言っているのだから、名前を呼んでもらいたいなと……」


亜紀は、そういえばそうだと、少し恥ずかしそうに笑った。

あらためて求められると身構えてしまうが、それでもそう願う靖史の気持ちを思い、

一度、コホンと咳払いをする。


「靖史さん……」

「うん……」


靖史はその呼びかけに小さく頷き、隣にいる亜紀の腕をつかみ、自分の方へ引き寄せた。

亜紀は一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに笑顔を見せる。

展望台の横にある大きな木の影に隠れるようになりながら、二人はそっと口づけた。







81 ふたつの時計


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コメント

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No title

吉田さんと靖史さんじゃ結構違いますね

言葉って結構力があるしその言葉で人生が変わったりしますしねww

ふん!

邦宏も靖史も幸せモードで
ちょっとやっかみぎみです。

そのうち、大和にだって
大きな幸せがくるんだも~ん!

大和派ですが・・・

初めまして(*^^)/

アクセショップで店員さんに声をかけた大和・・・。

その商品は もちろん比奈ちゃんにですよね!

邦宏と靖史のように 早く良い感じになって
欲しいなぁ~

その気に?

邦宏も靖史も、それぞれが自分の身の丈にあった
幸せを見つけて、掴もうとしている姿が良いな~

あとは大和だ・・・

アクセサリーは??比菜にその気になったか?

渡す時の顔を想像して、ちょっと笑える(//o//)

言葉

夜須鬼さん、こんばんは!

>吉田さんと靖史さんじゃ結構違いますね

違いますよね。
名前を呼んでもらった方が、親しみがあるし。
そう、『言葉』は励まされたりもするし、
傷つけられたりもするし……

人生、良い方に変えてあげられたら
嬉しいですけどね。

もう少しお待ちを!

れいもんさん、こんばんは!

>邦宏も靖史も幸せモードで
 ちょっとやっかみぎみです。

あはは……れいもんさん、
やっかまないで。
少しずつ進んでいるじゃないですか、大和も。

大きな幸せ! となるかは、これからですが、
最後を飾ってもらいましょうね(笑)

大和派、ありがとう

yasai52enさん、こんばんは!
先日は、別のお話にレスをありがとうございました。

こちら(『同じような……』)では初めてですね。

>その商品は もちろん比奈ちゃんにですよね!

アクセショップかどうかは、
これからわかりますが。
まぁ、どんなことになるのか、次回へ続きます。

一気にGO! の大和ではないことは、
みなさんすでにお気づきだと思いますが、
幸せに向けて、努力の最中です。
応援、よろしくお願いします。

みんな前へ

yonyonさん、こんばんは!

>邦宏も靖史も、それぞれが自分の身の丈にあった
 幸せを見つけて、掴もうとしている姿が良いな~

はい、それぞれで、それぞれの幸せがありますので。
ゆっくりもいるし、一気もいるし……

ラストを飾る、大和の幸せはどんなものなのか、
もう少しお付き合いしてもらえたら嬉しいです。

アクセサリーなのか、比菜へなのか、
それは次回で、わかりますよ。

色々と経験しました

yokanさん、こんばんは!

>三人とも幸せの入口に立っているようで^^

はい、色々なことにぶつかり、悩み、
そして、幸せに向かって、それぞれが前進中の
『フリーワーク』です。

もう少し、いや、最後まで
ぜひぜひ、よろしくお願いします。

みんなの背景は、バラの花?

おはよー!!

邦宏も靖史もラブラブで幸せそうですね。

靖史は呼び方を名前にしてもらったり、木陰でチュー(なんか、おばさん全開の言い方だわ…)なんてしちゃって……のほほんとしてるというか、奥手なのかしら?と思っていたけど結構、肉食系だった?

みんなよりちょと(かなり?)後れをとった大和だけど、これからど~んといくんですよね… 比菜ちゃんへって… アクセサリーの話はその前振り?って思ったのに……。

ももんたさんの含みのある発言!
……奈津お母さんに会う時のおみやげ?
どうなんだろう?

次回を楽しみに、お待ちしています♪


では、また…(^-^)/~~

ラブ組とまだ組

mamanさん、こんばんは!

>邦宏も靖史もラブラブで幸せそうですね。

色々あったけれど、ラブラブになればOKなのです。
とはいえ、まだ何かありそうですけど。

>のほほんとしてるというか、奥手なのかしら?と
 思っていたけど結構、肉食系だった?

あはは……。男の人は、草系よりも肉系でしょ?
(ん? 違うのかしら)
靖史君も、ちょっと蓋をあけたら、
お肉系なのですよ、きっと。

さて、後れをドドン! ととっている大和君ですが、
ちゃんとアクションを起こし始めますよ。

ん? アクセサリー……というより

まぁ、次回を読んでくださいませ。