君に愛を語るとき …… 10 愛しい人

10 愛しい人



外で食事を済ませ、駅から柊のマンションへ向かう間に、

律子はショートケーキを二つ買った。


「招待されたら手土産は当たり前よ……」


そう言いながら笑顔で歩く律子。柊は隣を、黙ったまま歩いていた。


「おじゃまします」

「どうぞ」


律子は、ゆっくりと中に入り、キョロキョロとあたりを見回した。

柊の住むマンションは小さなキッチンと、奧にフローリングの部屋がある。


「何? なんでそんなに見てるの?」

「だって、山室さん、男の人なのにとってもきれいだから……」


律子はそう言いながら、落ちつかない様子で視線を動かしていた。

柊はそんな律子の態度に、男の部屋に入ったことがないのだろうかと考える。


「意外に男の部屋ってきれいな人が多いんだよ。何もしないから」


ふーん……と頷く律子を見ながら、つい笑ってしまう柊。

男は汚くするものだと決めつけていた律子の感覚が、妙におかしい。


「食事も外だし、買ってきても容器は捨てるし、この電気コンロなんて、
お湯沸かすくらいしか使ったことないんだ」

「……あ、そうなんだ……」


律子が中に入っていくのをためらっているように見えた柊は、彼女を追い抜き、

自ら奧へ行き、クーラーをつけた。


「座れよ、何か出すから……」

「あ……私やる」

「客は座るものだって、律子。さっき、自分はお客様だからって、お土産買っただろ」

「そうでした……。あ、ねぇ、これ何?」


部屋に進んだ律子は、ガラスケースの上に置かれていたものを指差した。


「エ……あぁ、ジェンガだよ。知らない?」

「何かで見た気はするけど……」


柊はジェンガをテーブルに置いた。木で出来たおもちゃだが、

そのブロックを一つずつ抜き、上へ重ねていくのだ。だんだん下のバランスが悪くなり、

重点などを考えながら抜かないと、あっという間に崩れてしまう。


「へぇ……やってみたい」

「いいよ……」

「じゃぁ、山室さんは2本、私は1本ね」

「……は?」


その不公平なルールに少し不満そうな顔をしてみる。律子は当然だとばかりにこう言った。


「だって、山室さんは数学頭だもん。同じ数だけ抜いてたら絶対に勝てないから……」

「……」


とりあえず了承して、互いに位置に付く。

ジェンガを真剣に見ながら、抜く場所を考えている律子。



『悪いけど、律子。絶対に負けないよ……』



柊はそう思いながら、さりげなく隣に座っていた。


スタートしてから何回かは、互いに気軽に取っていくが、やがてバランスも悪くなり、

どこを抜いたらいいのか見た目ではわからなくなる。


「よし、こことここ……」

「エ……それはダメだと思う。ここは危ないって……」


敵にアドバイスしてどうするんだよ……と思いつつ、大丈夫だと律子を無視して、

柊はブロックに指で触れる。


「あー!」

「なんだよ、平気だって」


律子は首を振り、それはまずいと表現した。一体、どこからそんな自信が

生まれるんだろうか、数学頭じゃないくせに。柊は微笑みながらそう考える。


「よし、じゃぁ……これが大丈夫だったら……」

「うん……」

「キスしていい?」


律子はちょっと照れながら、コクンと首を動かした。俄然やる気の出た柊は、

躊躇なく2本をサッと抜く。


「……」

「ほら……」


律子をつかまえて、柊は軽くキスをした。表情は照れているけれど、

すごく嬉しそうに見える。少しだけ感じる、彼女の気持ち。


「じゃぁ……ここは?」


チラッと柊の方を向き、アドバイスを期待する律子。わざと視線を外し、

関係ない方向を向く柊。


「どう……かなぁ……」


柊はそれでも無視し続け、わざと目を閉じる。


「敵に塩なんて送らないよ」

「もう! 教えてよ」

「勝負だろ、自分で言ったのに……」

「だって、難しい。どこを取っても崩れそうだもの」


少しふてくされながら、膨らむ律子の頬。


「やってごらん」

「……これ?」


律子はまた柊の方を見て、助けを求めていた。一度は助けてやろうと、

柊は少しだけ笑って見せる。律子は嬉しそうにそのブロックを外した。


「よかった……」

「よし、じゃぁ、こことここ。大丈夫だったらまたキス」


このジェンガで、柊が確実に大丈夫だとわかるのは、あと少ししかない。

負けるわけにはいかない柊は、そのうちの2本を抜き、律子にキスをする。


軽いキスの後、もう少し深く触れたくて、舌で唇をこじ開ける。

律子は一瞬、頭を後ろへ動かしたが、小さく口を開き、柊を受け入れた。


柊の舌の動きになんとかついていこうとする律子。手は柊の腕をつかんだまま、

動くことはなかった。その律子のぎこちない動作に、柊はどんどん熱くなっていく。

未熟ながらも、応えようとする彼女が、どうしようもないくらい愛しい。


『律子は真っ白なんだ……』。柊は律子の目を見ながら、そう感じ取った。


「次……律子の番」

「……うん……」


ここで勝負は終わりにしよう。柊はそう思っていた。

こんなことをするために律子を呼んだのではないのだから。

律子の気持ちがわかった以上、無駄な時を刻みたくはない。


「えっと……これは?」


彼女がどこを指さしても、柊は笑うつもりだった。その表情を助け船だと思った律子は、

自信満々に引き抜いた。


「あ……」


律子がブロックを抜いた瞬間、ジェンガは音を立てて崩れていった。


「ひどい、山室さん。ウソついた!」

「ウソなんてついてないだろう。勝手にそう思った律子が悪い」

「……もう、悔しい、もう一回……」


柊はジェンガに触れた律子の手をつかむ。そしてゆっくりと自分の方へ引き寄せた。


「……もう、いいよ」


柊はその手をつかんだまま、律子の顔を見た。恥ずかしそうに下を向く律子だが、

柊の手を払いのけようとはしない。


『二人の想いは今、一緒なんだ……』。柊はそう思い、律子をベッドの横へ座らせた。

手を離し一度しっかりと抱きしめる。


「律子……」


自分の胸の鼓動が、君に聞こえているだろうか……。柊はそう思いながら、

抱きしめる手に力を込めた。言葉じゃなく、愛していることを教えたくて、伝えたくて、

ここへ呼んだのだから。


互いに見つめ合い、キスをする。舌先が触れあい、やがて絡み合っていく。

柊はTシャツの上から、律子の膨らみに触れ、少しだけ力を込めた。


「はぁ……」


息づかいが聞こえ、恥ずかしそうに、柊に少しだけ寄りかかってくる律子。

柊はゆっくりと、優しく包むようにその手を動かしていく。



『君が僕を受け入れやすいように……。苦痛な顔をしないように……』



柊は、ゆっくりと律子から、自分への想いが溢れ出すのを待っている。




「……シュウ……」




「……」


その時、律子が初めて柊の名前を呼んだ。山室さんではなく、柊と呼ばれた時、

腕をつかんでいる彼女の手に力が入るのがわかる。

柊の想いを今、全身で受け入れようと懸命になる律子がここにいた。


「律子、力抜いて……だいじょうぶだから」


柊は先にシャツを脱ぎ、その後、律子のTシャツをあげた。

律子の胸元には小さなほくろが一つあり、柊はそのほくろに軽く口づけていく。

そして下着を取り、初めて律子の肌に触れた。


「シュウ……じっと見ないで……」


柊の視線を胸元に感じる律子は、小さな声でそう言った。


「……どうして?」

「……だって……」


柊はゆっくりと律子を横にする。右足に負担をかけないように、彼女の左側に寄り添った。

律子は恥ずかしいからなのか、少し体を小さくしようとする。


「律子……こっちを向いて……」


柊は律子の唇にもう一度キスをした後、もっと想いを伝えたくて、首筋に、肩に、

優しくキスを落としていく。そして膨らみの先端を口に含むと、

律子が体を少しだけくねらせた。


初めての感覚に、すぐに反応する律子。柊は舌を少し動かした後、軽く歯をあてた。


「ん……」


言葉にならない声をあげた律子の手が、柊の腕をさらに強くつかんでいく。

律子が自分に応えようとしているその姿を見つめながら、

柊は、さらに下へと手を伸ばしていった。


律子を包んでいた全ての布を取り払い、柊も同じように準備する。

律子は足を少し折り曲げ、柊を受け入れようとした。

遅れて動く右足に、柊はそっと触れる。


柊はこの時、初めて律子の傷跡を見た。思っていたよりも傷口は小さく見えるが、

その跡はくっきりと残っている。悲しみを乗り越え、

『君のそばにいたい』という自分の気持ちを、受け入れてくれた人……。

辛かったこの傷が、今は二人をつないでくれている。そんな気がする柊。


「シュウ……」


少し顔をゆがめ、右足に触れていた柊を、心配そうな顔で見つめる律子。


「ん?」

「左足のようには、動かないかも……。大丈夫?」


なにもかもが不安なんだろう。そう思った柊は、少し笑顔を見せ、軽く言った。


「そんなことを心配してたの?」

「……だって……」


律子はそこから言葉が続かなくなっていた。柊は首を横に振ると、

律子の右足を少しだけ動かした。


「……痛い?」


律子は首を横に振り、柊の様子を見つめている。柊は、その視線を感じながら、

律子の右足を自分の足に乗せ、指で触れた傷跡にそっとキスをした。


「……シュウ……」


愛しい気持ちが伝わるように、柊はもう一度キスをする。そして……。


「あっ……」


柊は律子をからかおうと、傷跡を少しだけなめる。律子は驚き、声をあげた。


「あはは……」


柊は思った通りの律子の反応に、声を出して笑う。


「もう! くすぐったい……」


律子は照れくさそうにそう言った。


「ほら、律子の右足はちゃんと反応してる……」


その言葉に、嬉しそうに頷く律子。柊は律子の右足を元に戻す。


「格好なんて、どうでもいい。君の気持ちだけあれば……十分だ」


柊は律子の耳元で、優しくそう言った。どんな姿だろうと、愛せないはずがない。

柊はもう一度律子の横に寄り添うと、律子の体を滑らすように、

指を脇腹から下へ動かしていく。

そして、自分の左膝を律子の間に挟み、脚を開かせた。内ももに触れていた指は、

彷徨いながら想いがあふれる場所へと、たどり着いていく。


どうしたらいいのかわからない律子は、柊から顔をそらし、

すがりつくようにシーツをつかんでいた。


柊はさらに指を動かし、律子に合図を送っていく。柊を受け入れようとする律子の想いが、

柊の指先を濡らし始めた。


「あぁ……」

「……」


律子から聞こえてくる声に、柊は耳を傾ける。そしてその唇をキスで塞ぎ、

自分に押しつけるように肌をあわせて、もう一度しっかりと抱きしめた。

柊は律子の姿勢を戻し、頬にかかった髪の毛を指でよける。

不安そうな律子の唇にそっと触れ、想いを伝えていく。



『律子……、少しだけ我慢して……』



そして柊は、ゆっくりと律子の中に入っていく。顔をゆがめ、

少し後ろへ逃げようとする律子。その肩をしっかりとつかみ、逆に自分へ引き寄せる柊。


「うっ……」


躊躇していれば、余計に律子は苦しいだろう……。柊は辛そうな彼女の顔を見ながらも、

そのままゆっくりと確実に自らを押し進める。


「あ……」


彼女の小さな抵抗を自分自身に感じながら、柊は律子にとけ込んでいく。

完全に二人が一つになった時、柊は初めて律子の肩を離した。

上から見た彼女の目に、涙が少し光って見える。


「ごめん……」


律子は首を何度も振った。その動きに溜まっていた涙が、スーッと落ちていく。


「謝らないで……柊。なんで涙が出るんだろう……すごく嬉しいのに……」


そう言った律子は、両手で顔を覆い、泣き始めてしまった。



『律子……君の涙が止まるまで、僕はここで待ってるから……』



どうしたらもっと君を幸せにすることが出来るのだろう。

柊は泣いている律子を見つめながら、そのことだけを考えていた。

                                          11 嘘   はこちらから



二人の恋の行方は……

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