18 立場の違い

18 立場の違い




友海や美鈴の呼びかけと、航の気持ちが届いたのか、

『天神通り店』では積極的な意見が出されるようになった。

その中でいくつか実行出来そうなものを選び、航は朝戸に相談する。

朝戸はモデル店舗として『天神通り店』が動きを見せれば、

他の店舗からも意見が出るのではないかと、前向きに検討する姿勢を見せた。


「へぇ……駐車場を兼ねた洗車場?」

「そうなんです。このあたりって道幅が狭くて、洗車がしづらいって、
前に聞いたことがあって。で、うちのスタンドの横空き地をうまく使えないかと」


給油に来た『文具店』の奥さんは、それならば子供と一緒に、

洗車が出来ると笑顔を見せた。普段は裏の道に止めて、通行人に頭を下げながら、

バケツを使って洗車するのだと、話しを付け足していく。

友海は『天神通り商店街』の方たちに、協力が頼めるのかどうかと問い返した。


「協力って?」

「成島さんが言うには、商店街でいくら以上買い物をしたら、
うちでオイル交換の割引券を渡すとか、逆にうちで給油したお客様には、
1時間くらい駐車場として使ってもらって、
商店街に買い物に出かけられるようにとか、相乗効果を狙いたいらしいんです」

「いいんじゃないの? だって、この商店街、動きが少ないんだもの。
私なんてさ、外から嫁に来た身でしょ。もう少し変化を生み出せないのかって、
何度も主人に話したのよ。主人もそう思っているみたいなんだけど……」


一緒についてきた幼稚園の男の子は、

美鈴が洗浄器で何枚もタオルを洗っているのを興味深そうに見ていた。

美鈴も子供をからかいながら、笑顔を見せる。


「『野々宮園』がうるさいんじゃない?」

「『野々宮園』が?」


『文具店』の奥さんは、『野々宮園』の宮田家は、

商店街のことを全て知らないと気がすまない人なんだと笑い、

実際には、色々な店の人たちが、長い間会長を独り占めしている宮田家に、

不満があるのだと言い始める。

どれくらいの店が、賛同してくれるのかのアンケートを取り、

その結果をまず最初に知らせるのが無難だと、教えてくれた。


「ふーん、アンケートか」

「うん、今日、成島さんに聞いてみようかなと思って。
せっかく動き始めたんだもの、ストップがかかる前にどんどん試していかないとね」


友海は休憩時間になり、美鈴と昼食を食べながらそう言った。

季節は夏休み真っ只中で、さすがに土手には顔を出せない。


「ねぇ友海。そういえばさ……」

「何?」

「タバコ、どうしたの? ここのところ吸わないよね。また、ピンチなの?」


美鈴は自分がお金を貸すからと、財布をバッグから取り出した。

友海はそうじゃないのだと笑い、自分の財布を取り出すと、

少ないけれどお金が入っていることを見せる。


「あのね、タバコ辞めた」

「エ!」


美鈴は驚き顔で、首を横に振った。友海はそんな美鈴の姿に声を出して笑い、

本当に辞めたのだと、バッグの中にもライターが入っていないことを見せる。

美鈴は中をのぞき、本当だと笑顔になった。


「毎日ね、夜になると散歩してるの。暗い道は怖いから、商店街の中とか、
そこから1本外れた道とか。駅前のにぎやかな通りとか。
今まで自転車だとあっという間に通り過ぎていたところに、
ちょっと発見したりして、結構楽しいよ」

「ふーん……」


美鈴は、友海の表情が明るくなったことに気づいたが、

あえてそこには触れずに、浮いたお金で映画を見に行こうと誘い、

映画なら借りてみるからいいよと言い返される。


「友海、私たちの町、よくなるといいよね」

美鈴のその言葉に、友海はアイスコーヒーを飲みながら、コクンと頷いた。





友海からアンケートのメールが届き、航は具体的な案を聞き出そうと、

駐車場へ向かって廊下を歩く。

エレベーターへ向かう曲がり角にさしかった時、目の前に現れたのは聖だった。


「あ……こんにちは」

「こんにちは……」


二人は軽く会釈して互いに通り過ぎようとしたが、

航はあることを思い出して、聖に声をかけた。


「聖さん」

「はい……」

「あの絵、見つかりました」

「絵って、お父さんの?」

「はい」


聖はまさかという表情で航を見た。探さないと言っていたのに、

二人で違った絵を見てから、まだ何日も過ぎてはいない。

結局、新谷家にでもあったのかと、聖は興味深そうに問いかける。


「いえ、あの絵をみつけてくれた人がいたんです」

「見つけてくれた?」

「町の小さな画廊に、残されていたあの絵を、買ってくれた人がいて。
あ、そうだ、ガソリンスタンドで会った、飯田さんです」

「飯田さん?」


聖の脳裏に、スタンドで働く友海の姿が浮かんだ。

申し訳ないけれど、絵などに興味などありそうもないように思えたが、

その人が持っていたのだと知り、愕然とする。


「僕もまさかと思ったんですけど、本当に持っていたんです。
ようやく見ることが出来て……」

「私にも……見せて欲しいんだけど」


聖はどうしてもその絵が見たいと、航に迫った。

航は今はもう、持ち主である友海のところに戻っているので、

見せてくれるのかどうか聞いてから、返事をすると話し出す。


「返した? それどういうこと? どうして返してもらわなかったの? 
だって、成島一樹の絵でしょ。あなたのお母さんに対して描いた絵なんでしょ?
息子であるあなたが持つのが当然だし、それとも渡さないってそう言われたとか?」

「いいえ、そうじゃないです。僕がそれでいいとそう言ったから」


聖の脳裏に、あの日、スタンドで友海に対し、

優しい目を向けていた航の横顔が蘇った。

父が画廊に顔がきき、色々な趣味人と会う機会が多い自分が、

いつかその絵を見つけ、航に見せてやろうと思っていたのに、

聖の計画は、あっという間に崩れ去ってしまう。


あまりにも簡単に大切なものを持って行かれたような気持ちになり、

どうしてもすぐに見たいのだと、言い寄っていく。


「これから『天神通り店』へ行きます。
じゃぁ、飯田さんに見せてもらえるか聞いておきますから」

「お願い……」


エレベーターが開く音がして、航はそのまま下へ向かった。

聖は、閉まっていく扉を見つめ、海人の話を思い出す。

海人が店へ顔を出した時も、友海はその場にいて、

どこか仕事に冷めている海人を怒らせ、それでもやる気にさせた。

彼女と関わった人物は、何か影響されて戻ってくる。

聖は、『飯田友海』という名前と存在が、ますます気になりだした。





航は『天神通り店』に到着し、アンケートの件を聞くと、

ぜひ、商店街の方の意見を聞いて欲しいと友海に頼む。

何かを変えるのには、協力が不可欠で、その規模が大きくなればなるほど、

変化も大きくなるからだ。


「あ……そうだ、もう一つ頼みがあるんだけど」

「なんですか?」

「あの絵、もう一度貸してくれないかな」


航は、前にここへ来た聖が、絵が見つかったことを知り、

見てみたいと言ったことを告げた。

友海は二人が一緒に店へ来たことを思い出す。


「だから言ったじゃないですか、戻さなくていいんですかって」


航は申し訳ないと謝り、それでも一緒に探してくれた人だから、

見せてあげたいのだと付け加える。

航が気を遣うのは、それだけ大事な人なのだろうと、

友海は、夜にでも下へ持って行きますと返事をする。


「海人のさ……従兄弟の大事な人なんだ。だから……」


海人……。先日ここへ来た、腰の重たい経営者の息子だと、

友海はあの日のことを思い出した。それと同時に、

航とは特別な関係ではないのだと言うことがわかり、心のどこかでほっとする。


「新谷海人さん。この間ここへ来て、成島さんがここで何をしていたんだって、
聞きましたよ」

「海人が、『天神通り店』へ来たの?」


友海は、目の前に積んであるオイル缶が崩れて、手伝ってくれと言ったのに、

空いている男にやらせればいいと言ったことを告げる。


「はい。ブツブツ言いながら洗車代金を払って、
手伝ってくれと言った時には無視していたのに、後からちゃんと直してくれました」

「へぇ……あいつがそんなことを……」

「その後、思い切り嫌味を言われましたけど」


友海は海人がどんなふうに来て、どんなふうに出て行ったのかを、

身振り手振りを入れながら航に語り続けた。

友海は、その話しをどこか嬉しそうに聞く航の笑顔で、

自分の気持ちが癒されていることに、気づき始めた。





19 再会の後で
<photo:tricot>

いつも読んでくれてありがとう!
パワーの源、1クリックよろしくお願いします (^O^)/

コメント

非公開コメント

友海の何が彼らを・・

商店街の人たちが知恵を出し合って、町が良くなっていけばいいのに。
水をさすボンボンがいるんだな・・・・

自分が中心でないと気に入らない。
自分が思ったように動かないと怒る、子供か!


聖としては複雑ですね。
友海が見つけて、買っていたこと。
他の誰かでなくて、友海がってところに引っかかるのでしょう。



友海と聖

yokanさん、こんばんは!

>そう言えば、友海ちゃんは周りの人に影響を与えてるよね。

自分の考えを持ち、それを主張する友海は、
聖にとってみると、自分に似たところがあるような
そんな気分かも知れません。

でも、自分の言葉に動かなかった海人が、
友海の言葉に動き、
自分が見つけられなかった航の絵を、
持っていたのも友海だった……

さて、こんな気持ちの動きが、
このあと、どんなふうに動くのか、
それはまだまだ、これからです。

リアルに観察

yonyonさん、こんばんは!

>自分が中心でないと気に入らない。
 自分が思ったように動かないと怒る、子供か!

そうそう、子供みたいだけれど、
実際にもそういう人って、多いですよ。
身の回りにも、いたりするので、
この辺、結構リアルです。

地域社会に生きていると、
こんなところも、勉強になるわぁ(笑)

>他の誰かでなくて、友海がってところに引っかかるのでしょう。

そうなんですよ。
『意見を持ち、主張できる』
これは自分にも当てはまるはずなのに、
海人を動かしたのも、航の絵を見つけたのも、
友海だった……

このことは、どんな動きを生むのか、
それはこれから、これからです。

もうお話がここまですすんでた!

友海に関わってきた人はみんな影響をうけますね。
パワーに近いような強さですね。

それを聖さん凄く気にしてますね。

>聖の計画は、あっという間に崩れ去ってしまう。
本当は航のほうが好きだったりして・・・
ちょっと意地になってるような???

商店街も友海ちゃんたちの活躍で活気が戻ってくるといいなぁ。
おっと、その前に・・・うるさい人たちとの対処もあるんだ。

頑張れ~。

まだ、続きます

tyatyaさん、こんばんは!

>友海に関わってきた人はみんな影響をうけますね。
パワーに近いような強さですね。

あはは……パワーかぁ、そうかも。
強い意志を持つ人には、影響を受けやすい気がします。

聖の本当の心は、まだ謎のように彷徨ってますが、
これから少しずつ見えてくるかな。

友海たちの頑張りが、商店街をよくするのか、
そうそう、うるさい人達との対立もあるので、
そこらへんは、さらに続きます。