23 星空の下で

23 星空の下で




海人にも、『天神商店街』が、少しずつ別の動きを見せ始めた話が、

関山の口から届いていた。結局、友海は謝罪をすることなくそのまま働き、

航もゆっくりではあるけれど、計画を進めようと踏ん張っている。


「海人、出かけるぞ」

「はい……」


和彦と一緒に出かけたのは、ある政治家のパーティーだった、

古川一族の支援者ともいえる、元経済産業省のOBで、

いまだに政界にも業界にも力がある。

父、和彦は嬉しそうに海人を紹介し、ある親子の前で足を止めた。


「遅くなりました。息子の海人です」

「おぉ、『SI石油』の新谷さん。お忙しいところ申し訳ない。加納です。
こっちは娘の多恵、今年大学を卒業しまして、まぁ……家事手伝いをさせております」

「多恵です……」


加納公平は、古川議員の父と2代にわたって仕えている第一秘書だ。

秘書とはいえ発言権もあり、古川一族の心臓部分と言っても過言ではない。

海人は、何度か公平を見たことはあったが、娘の多恵を見るのは初めてだった。



何人かの人間と名刺を交換し、また別の日の日程で話をあわせ、

和彦と海人は会場を後にする。


「海人、多恵さんはどうだ」

「どうって……」

「お前の相手にと思って、古川先生に相談をしたところ、
加納さんのお嬢さんを紹介していただけた。
それだけ信用してもらっているのかと思うと、
私も尽くしてきてよかったと思っている」


その時初めて、海人は和彦が多恵とあわせた意味を知った。

幼い頃から聖と過ごし、将来も二人で歩めるのではないかと思っていたのに、

父には全くその気がなかったのだ。


「あの……私は……」

「聖はダメだぞ」


和彦は、住野家の跡取りになる聖を、哲夫が海人の嫁にするはずがないと言い始めた。

それと同時に、信じられないことを口にする。


「住野家は、お前ではなく、航を聖の相手にと思っている」

「……航……ですか?」

「哲夫さんは、ずっと義姉さん……。つまり航の母親が好きだった。
今はもう思いをかなえることは出来ないが、息子の航なら手に入る。
聖をお前の嫁にして会社ごと取られるよりも、思い出の女性の面影を持つ、
航をそばに置きたいと考えているんだ」


海人はそんな話は信じられないと抵抗した。

しかし、和彦は哲夫が航の経歴を調べていることや、

聖に対し、そろそろ『住野運輸』に入り、

仕事を覚えるよう勧めていることを話しだす。


「『住野運輸』が今ほど大きくなければな、お前の嫁にと思っただろうが、
住野家が思っていた以上に会社は大きくなった。子供の頃ならともかく、
今は互いに支えないとならない会社がある。手放せないのは当たり前だ」


海人は放心状態のまま、言葉を口にする。


「航は……そのことをわかっているんでしょうか」

「仕事をしていく中で、会社を動かすことはそう簡単じゃないとわかっただろう。
『SI石油』を奪うことは出来なくても、『住野運輸』が間接的に手に入るんだ。
なくなったあいつの両親も、それで満足できる。誰が聞いたってあまりある幸運だ」


航が、この会社を乗っ取るのではないかと警戒心を強めた海人の心は、

思いがけない方向に走り出す。

二人を乗せた車は、都心の渋滞に巻き込まれ、思うように進めなくなっていた。





澄香は、夕方になり洗濯物を取り込み始めた。

いつも見える景色と少し違うことに違和感を持つと、

敷地を出たところにある自動販売機の横に、

『白い軽トラック』が止まっているのが見える。

ジュースでも誰かが買っているのかと思いながら、洗濯物を取り込んだが、

その車は10分以上、動くことがなかった。

それから3日後にも、同じようなことがあり、

澄香は外出から戻り運転席をのぞいたが、運転手らしき姿は見あたらなかった。


「白の軽トラック?」

「そうなの、あんまり止まっていたことなんかないから、考えちゃった。
夕方にも何度か見かけたし、なにか工事でもするのかしら。道幅でも計ってるとか」

「さぁ……」


航はお茶を飲みながら、澄香の話を軽い気持ちで聞いた。

ためしにカーテンを開くと、澄香が言った場所には、

何も止まっていることはなく、販売機のあかりだけがうっすらと見える。


「工事か……。もう少し道幅を広げてくれたら車も通りやすいんだけどな」

「嫌よ、知らない人は通らないから、このままでいいわ、静かだし」


航はそれもそうだねと笑い、澄香は湯飲みにお茶を継ぎ足した。





そんな出来事があってから、1週間後の『水曜日』。

友海は仕事を終え、いつものように散歩をするために部屋を出た。

そろそろ夜になると風が冷たくなり、時々走るようにして体を温める。

禁煙のために始めた散歩だったが、その目的を終えてもそのまま続き、

いつの間にかそれが日課となった。



文具店の前を通ると、友海をひいきしてくれる奥さんが、

頑張ってと声をかけてくれ、一緒に話していた3軒隣りの精肉店の奥さんも、

笑顔を見せてくれた。

状況が大きく変わったわけではなかったが、少しずつ友海の心にも光が入り始める。



『一緒に頑張ろう……』



そう言った航のことを思い出し、友海は駅前で立ち止まった。

近頃忙しいからか、航が『天神通り店』に姿を見せることは減っていた。

それでも、同じ思いを共有していることが、今の友海の心を支えている。

電車が到着し、降りてくる人の波を待ったが、航の姿が現れることはなかった。

すぐ近くに住んでいるとはいえ、用事もないのにたずねるわけにもいかない。


「飯田さん!」


その声に振り向くと、コンビ二から出てきたのは、

ビニール袋に入った弁当を持った、航だった。

友海は自分の心を、どこかにいるはずの神様に見抜かれた気がして、おかしくなる。

急に笑い出した友海に、自分の姿が変なのかと、航はスーツ姿を店のガラスに映し、

不思議そうな顔をする。


「ごめんなさい、おかしいわけじゃないんです。あ……でも……おかしいかも」

「何? どういうことだよ」


二人は並びながら、天野家への道を歩いた。

『天神通り店』との話し合いを、もう一度最初からやり直そうと思っているこそ、

最初は消極的だった各店舗も、少しずつ理解を示し、

前向きに変わってきていることを話していく。


「今日、大家さんいないんですか?」

「ん? あぁ、これ?」


航は、1ヶ月くらい前から毎週『水曜日』、澄香がフラダンスを習い始め、

今もまだ留守だろうと、ビニール袋を少しあげてみせる。


「その後、友達と食事をしてくるから、僕も毎週『水曜日』は
外食していたんだけど、今日はなんだか風邪気味で帰って来たんだ。
あ、そうそう、文具店の奥さんは、『天神商店街』が全てうちと契約を切っても、
単独で結んでくれることを約束してくれた。ちょうどよかったよ、ここで会えて。
なかなか店の方に行けなかったし……」

「本当ですか?」

「あぁ……。あのうちは、前から今の商店街の状態をよく思ってないんだ。
『野々宮園』が嫌がらせのようにしていることもわかっていて、
それに乗ったりしないって、昨日も電話で」


たった一人でも、味方が増えてくれたことで、友海の気持ちはさらに明るくなった。

そんな友海の表情に、航の気持ちもさらに明るく変わる。

二人で歩いた時間はすぐに過ぎ、天野家が目の前になった。


「あ……まずい」

「どうしたんですか?」


航は笑いながら、友海と話しているうちに、

ポストに入れることを忘れたと、カバンの中から茶色の封筒を取り出した。


「駅を出た時に、入れたらよかったんだよな……。
しょうがない、ちょっと戻って入れてこないと」

「それじゃ……おやすみなさい」

「……あぁ、また!」


友海は航に笑顔を見せ、そのまま角を曲がった。

天野家の門をくぐり、部屋への階段を上がっていく。

今の友海は、素直に航と話すことが嬉しかった。

強がることなく、それでいて、自分の心を察してくれる心地よさに、

だんだんと、それ以上の気持ちが湧き上がっていくことを受けとめ始める。


友海は、啓太郎が言っていたように、

航が、あの『碧い海の絵』を自分が持っていたことを知り、

それを喜んでくれたのだとしたら、あの日、あの絵に出会えてよかったと、

心からそう思った。





このまま一緒に、会社や町をよくするために動いていけたら……。





友海が7年前に、どうしようも出来なかった事実が、

心の中から消えていくかもしれないと、星空を見上げる。





今は離れて暮らしている父と母とも、

また笑顔で語り合える日が来るのだろうかと、

友海は鍵を開け、明かりのついていない部屋へ入った。



その瞬間、誰かに背中を押され、友海はそのまま倒れこんだ。

目が暗闇に慣れない状態で、友海の口は大きな男の手にふさがれる。

そして、カチャン……と、内側から鍵がかけられ、

カシャカシャとチェーンがつけられた。


「結構、ゆっくりとお散歩なんだね……」


その声の主は、暗闇の中に、怪しい言葉だけを響かせた。

早くなる鼓動に、友海は必死に呼吸をする。



暗闇の中に誰かがいた。

理由は全くわからないが、部屋の中に他人がいる。




しかもそれは一人ではなく、二人。




友海が必死に動かした両手はまた別の手によってつかまれ、動けなくなる。

それでも動く足をばたつかせ、その状況から抜け出そうと必死にもがいた。






『成島さん……たすけて……』






友海の声にならないSOSは、ガムテープの音の中にかき消された。





24 眠れない夜
<photo:tricot>

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コメント

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危険が危ないどころの話じゃない!!!


   こんにちは!!

 海人とどっかのお嬢のお見合い。
海人と聖のこれまでとこれから・・・聖は航と海人どっちなんでしょう?
航だとしても航は友海が・・ですよね?    

父から語られた航と聖の将来、海人は最後まで
お父ちゃんに結婚の事で抵抗できる?

韓ドラみたいだなぁ・・・なんて暢気に思ってたら

友海!!!\(゜ロ\)(/ロ゜)/
バカぼんなんか企んでて、多分こういうことするだろうと思ったら
・・・やちゃったよ、本当に。(バカぼんの仕業だよね?)

犯罪じゃん・・・(@_@;)<(`^´)>

なんか危ないと思ってドキドキしてたけど
途中、航と一緒になったからよかったぁと思ったのに・・・

アパートに戻ってきた航は友海に起こっている事態にきづくのか?

この事が航のおじさんに知れたら、勝手なことするからこういうことになるって
責められてまた航の立場が悪くなる? 
別に気にしない?それはそれで問題だ。

どうなる???友海!航!海人と聖!

次回を待て!!!

(^o^)/ハイ、待ちます!


    では、また・・・(^.^)/~~~

きゃー!どうしよう?

ええーー航と聖が??
うーんそれはどうだろう?

何て悩んでる場合じゃない!!!!

友海が大変!
航、何故忘れるかな?早く戻って!

友海! ピンチ!

mamanさん、こんばんは!

>父から語られた航と聖の将来、海人は最後まで
 お父ちゃんに結婚の事で抵抗できる?

海人の中にあった、唯一のこと
聖のことまでが、航の登場で、変化を見せ始めました。
そして、自分の周りの動き……

そうそう、海人はどうすることになるのでしょう。

>友海!!!\(゜ロ\)(/ロ゜)/

キャー! 友海がピンチです。
なんとなく嫌な予感がしていたでしょ?

果たして、航は間に合うのか!
この事件が、どう二人に影響するのか、

それは、次回です!

とんでもないこと

yokanさん、こんばんは!

>なんてこった~(@@;)

はい、とんでもないことが起きました。
正攻法で通じなくなってきた人達の、
とんでもない主張です。

ポストへ行ってしまった航、
間に合うのでしょうか。

友海の過去……

この事件が、二人にどう影響するのか、
それは次回へ! です。

航、早く!

yonyonさん、こんばんは!

>友海が大変!
 航、何故忘れるかな?早く戻って!

そうそう、航が忘れずにそのまま戻っていれば、
話はまた違うでしょうし、みなさんも
ハラハラしないのでしょうが。

そこはねぇ……

で、続きを!