TRUTH 【真実の鼓動】

TRUTH 【真実の鼓動】

TRUTH 【真実の鼓動】



愛梨さんを降ろし本社へ戻ると、すぐに社長の柴本へ翠からの提案を告げた。

『トワレ』の購買層は、うちの客層と重なる部分が多く、

これをきっかけに、店へ足を運ぶ女性も増えると思ったからだ。

社長は両腕をしっかりと組み、頭の中でシュミレーションを繰り返す。

短い時間の中で、色々なアイデアが頭の中を駆け抜けているのだろう。

社長が親からもらった財産を、大きくした理由はそこにある。


「『トワレ』のイベントか」

「はい、ブースの一角で実際に実演販売をしたいのだと提案されまして。
うちの新人を貸して欲しいと」

「そうだな……。いいんじゃないのか、新人といっても、実務経験もあるし、
それに普段、うちを利用していない人も来るはずだ。
新たな顧客を得るためにも、宣伝効果があるだろう」

「わかりました。それでは各支店にすぐ連絡をを入れます」


私はすぐに各支店店長宛にメールをいれ、イベントの趣旨と、新人の提供を呼びかけた。

この決断力と、判断力の鋭さは、我が社の最大の武器とも言える。

『トワレ』側には、協力をする話を告げると同時に、別条件を提示した。


『カード? どういうこと?』

「あぁ。イベントの参加者に配られるプレゼントの中に、
担当をした技術者の書いたメッセージカードを入れたいんだ。
それを持って店に来てもらえたら、割引になるのと同時に、
うちにしてみたら、このイベントからどれだけ客が流れてくるのかという調査にもなる」

『わかったわ、さすがに聡ね。ただ、受け入れることだけはしないってことなんでしょ』

「これは私じゃなくて、社長からだ」

『二人の考えは一緒でしょ』


翠は即答に近い返事を喜んでくれた後、これから飲みにでもいかないかと誘ってくれた。

しかし、今日は予定があるのだと告げると、それじゃまたと電話を切る。


『トワレ』のイベントに、『緑山南店』の柚希は、声をかけられるのだろうか。

どちらかというとシャンプーは苦手だと、頬を膨らませる様子が浮かんでくる。





「瀬口さんに言われました。すごく楽しみなんです」

「そう……」


予想通り、瀬口は柚希にイベントへの参加を呼びかけた。

しかし、苦手だと嫌がることを予想した私の思惑は外れてしまう。


「あれ? 森住さん、つまらなそう」

「つまらないわけではないよ。ただ、柚希はシャンプーが苦手だから、
嫌だと断るのではないかと思っていたから」


私の隣のぬくもりは、二人の間に小さな風を入れるようにクルリと方向を変えた。

肩胛骨あたりの小さなほくろが、揺れる髪の間から、顔をのぞかせる。


「どうした?」

「私だって成長しています。いつまでも苦手じゃありません」


強がる口調とは正反対に、柚希の背中は、少し体を小さく丸め寂しく見えた。

少し前まで私に向けていた、すがるような顔を隠してしまう。

私は置いていかれた髪に口付け、その背中を包み込む。


「そうか……それは悪かった」

「いつになったら子供扱いをやめてもらえるんですか?」

「子供扱いなんてしていない、だからここにいるんじゃないのか……」


柚希は私の腕の中からはずれ、もう一度顔をこちらへ向けた。

それにしても柚希はよく動く。手を離したら、ベッドから落ちてしまいそうだ。


「だったら、教えてください」

「何を?」

「シザーです。瀬口さんが言うんです。森住さんより上手かった人を、
今まで見たことがないって。手とシザーがぶれることなく動くし、
あ、そう、有野さんも1度だけ見せてもらったことがあるって……。
ねぇ、私にも……」


訴えかける目を見ていると、つい認めてしまいそうになる。

私は、その誘いには乗らないぞと意思表示をするため、柚希のうなじに顔を近づける。


「あっ……もう」


柚希は人の顔を払いのけ、怖くもない顔で怒っている。

私は耳の側に残る彼女の髪に触れ、軽く指で挟んだ。

手入れの行き届いた黒髪は、手にしっとりとなじみ、指にうまくからむ。


「それはないな、瀬口が新人だった頃とは技術が違う。
あの頃は、何も知識がなかった。だから私の腕がよく見えたのだろう。
今の私の腕なんて、彼らには到底及ばないし、柚希に見せてやれるような技はないよ。
せっかくトップがいる店で働いているんだ。瀬口や有野の技術を、しっかり盗みなさい」

「でも……」

「スタイリストは感覚が勝負だ。そんなわがままを言わないでくれ。
ほら……そろそろ起きないと、時間に間に合わなくなる」

「エ……あ!」


柚希は、部屋の時計に慌てて飛び起きた。

ここに来ることはあっても、親元から通っている以上、泊まるようなことはなかった。

終電に乗り遅れるようなことにはなりたくないと、身支度を整える。


「柚希」

「何?」

「君もこの部屋の鍵を持たないか? そうすれば、もう少し楽に待ち合わせが出来る。
先に……」


瞬間、また腹部に強い痛みが走った。

ここ数日間で起こる痛みは、いつも同じ場所だ。

私はすぐに右手で押さえ、一度大きく深呼吸をする。

ほんとに何秒かで消えてしまうから不思議だが、

ここのところ、少し回数が増えているのが気になっていく。


「どうしたの? ねぇ、どこか悪いの?」

「いや違う。ちょっと脇腹辺りが傷んだだけだ。疲れると時々こういうことがある。
気にするな」

「でも……痛いなんてよくない。病院は? ねぇ、病院は行ったの」

「行くよ、行くから……ほら、急いで!」


私は、話をそらそうと、部屋のスペアキーを取り出した。

これさえ持っていてくれたら、別の場所で待ち合わせることもなく、

限られた時間を、使うことが出来るからだ。

それを見た柚希は、一度受け取ろうとして、すぐに首を振った。


「なんだか……部屋の鍵を持つなんて、ずうずうしい」

「ずうずうしい?」

「だって……」


気が乗らないのなら無理には渡せないと、私が手を下ろそうとすると、

その手を止めたのは、柚希だった。


「あ、でも……でも……」


一度断った首をまた強く振り、今度は私の手にあった鍵を受け取っていく。


「どうした」

「私、これ持ちます。だって私が持たないと、森住さん、他の人に渡すでしょ?」

「……鍵を?」

「はい……」


あまりに予想外の返答に、私はおかしくて笑ってしまった。

少し前には、強がってすねたくせに、今度はあまりにも自信なさげな態度を取る。

私は、自分に自信がある女性を好んできたと思っていたが、

柚希を見ていると、そうではないのかもしれないと、思い始めた。


「柚希の他に、この部屋に入る人がいるんだと……そう言いたいの?」

「……だって……」

「だって?」

「私、そんなに魅力的じゃないですから……」


私は、目の前の柚希を抱き寄せ、唇を重ねた。

小さなため息も、どうでもいいような言葉も、全て受け止めてやりたかった。


どうしたら、心が安らぎ、気持ちが華やかになるこの思いを、

別れることが辛くなるこの空しさを、君に伝えてやることができるのだろう。


離したくないと言う思いは、私の方が、何倍も強いはずだ。

会うたびに魅力を増す君……。





私は、いつまで君を、この胸にとどめておくことが出来るのだろう。

いつまで……この幸せを感じることが出来るのだろう。





車で送る時、柚希は家より少し前の駅までと決めていた。

冷静な時間がないと、顔がにやけてしまうのでと、ここでも独自の理論を展開する。


「ちょっと混んでるな」

「あ……」


助手席に座る柚希の手に、昼間、愛梨さんが置いていったチケットがあった。

そういえば彼女の従兄弟もフルートをしていると、

あの海のスタジオで語ってくれたことを思い出す。


「これ、チーちゃんの後輩さんだ」

「ん?」

「この『CHINAMI』って、私の従兄弟なんです。
ほら、フルートをしていたって言った……あの……」

「従兄弟? でも、この人はもう亡くなったって」

「はい……もう、7年、いやそろそろ8年になります」


その瞬間、初めて柚希と会った日のことを思い出した。

新人紹介の時、あの7年前の女性に似ていた姿を見て、心臓が止まりそうになった。

あまりにも信じられない状況に、あの後、『緑山南店』の駐車場で、

お姉さんがいるのかと問いかけたのだ。

彼女からは姉はいないと言われ、浮かび上がった疑問は、そのまま深く沈んでしまった。





……はずだった。





「チーちゃん、大学を出てから『フルート』の演奏を、
よく施設とかでやっていたんですよ。先輩たちと無料のコンサートを開いたりして。
あ……そうそう。今は無くなってしまった大きなホテル……なんて言ったっけな……」





『今は無くなってしまった大きなホテル』





あの店で一人カクテルを飲んでいた女の顔が蘇った。

隣に座るのは間違いなく柚希のはずなのに、心から外れかかっていた面影が、

また浮かび上がる。


そこから柚希が楽しそうに語ってくれた言葉も、内容も、私の耳を通過するだけで、

とどまることがなかった。





柚希が指定する駅の横に車を止め、降りようとした動きを止めた。

どうしたのかと不安そうな顔をする柚希の頬に触れ、私の思いを強く押し付ける。


何度も重ねた唇を離し、目を合わせた表情は確かに柚希で、

私は恥ずかしそうな笑みを包むように、もう一度抱きしめた。


「森住さん、今日はずるい……」

「どうして?」

「ここでそんなふうにされたら、家まで真っ赤になって戻らないとならないのに……」

「それでいい……」



やっと見つけた私の小さな花。



次の電車の音が聞こえるまで、私は柚希を離すことが出来なかった。





車のキーをテーブルに置き、PCの電源を入れる。

ネットを立ち上げ、『窪田千波』の名前を、間違えないように入力した。

心がぶれることはないはずだ。

私は7年前の女性ではなく、柚希自身を愛したのだから。





『窪田千波』





その名前から検索された画像は、

あの日、私の気持ちを押し付けた女性、そのままの人だった。






【微笑みの裏】


森住の心は、どこへ向かうのか……
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コメント

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明けましておめでとうございます♪

最近ずっと読み逃げでした…ごめんなさい><
今年もももんたさんの作品を楽しみにしていますので、
どうぞよろしくお願いします^^

ところで…森住さん、きっと病気…手遅れにならないうちに
早く病院へ行ってほしい!すっごく心配(・へ・)
せっかく7年前の女性がわかっても心がぶれないほどに
大切な柚希が今はいるんだし…
入院なんてなったら柚希がちゃんと看病してくれるよ!

ついにつながった!

ついにあの女性とつながりましたね。
タイトルにようやくたどり着きます~

しかも亡くなってるんですね@@
森住さんの体も心配。。

前半のもう柚希にめろめろな森住さん〃▽〃
タイトルコラも色っぽい~
なのに!気持ちぶれそうじゃないですか~!森住さんたら。。
ますます気になるこの続き。。
2週間待ちます。。

気になる体調・・・

ついに7年前の女性が明らかに・・!!!
でも亡くなっていたんだね

森住さんの心に今あるのは
間違いなく柚希ちゃんなんだろうけど
・・・少し心が揺れちゃってるのかな?

森住さんの気持ちも気になるけど
やっぱり一番気になるのは体のこと!

大切な柚希ちゃんが悲しい想いをしないためにも
少しでも早くちゃんと病院で診てもらってね~~~

病院、いくかなぁ

Gelsthorpeさん、こんばんは!
おめでとうございます。

読み逃げだなんて、いいんですよ。
楽しみだと思って、通ってくれているだけで、
私は十分、幸せ……です。

>ところで…森住さん、きっと病気…手遅れにならないうちに
 早く病院へ行ってほしい!すっごく心配(・へ・)

うん、うん。
たいしたことはないだろう……が、
怪しいんだよね。
私からも、病院に行くように、言っておきます!

今年もよろしくお願いします!

つながったでしょ?

れいもんさん、こんばんは

>ついにあの女性とつながりましたね。

はい、つながりました。
亡くなった事実がそこにあるのに、
森住の心には、だからこそ……の不安が。

>ますます気になるこの続き。。
 2週間待ちます。。

あはは……ありがとう。
お待ち下さい。

女性の正体

パウワウちゃん、こんばんは

>ついに7年前の女性が明らかに・・!!!
 でも亡くなっていたんだね

そうなんだ。
だから、森住との約束の再会は
出来なかったんだよね。

>森住さんの気持ちも気になるけど
 やっぱり一番気になるのは体のこと!

おぉ……そうなんです。
なんだか不気味でしょ?
柚希が悲しまないように、
私からも、病院を勧めておきます(笑)